前世は召喚された勇者でした。けどわたくしは天才じゃないです2
『前世は召喚された勇者でした。けどわたくしは天才じゃないです』の続編。
書き始めたら止まらなかったっす。
3投稿に辺り、主人公の名前を変更しました。
エレイン・フォン・グリード→エレイン・ヘルツォーク・グリード
あ、どうも。エレイン・ヘルツォーク・グリードです。
何故この様なモノローグから入らしてもらってるかと言うとまあ現実逃避?って言うか思考停止状態なだけなんだけどね。
簡潔に現在の立ち位置を説明すると、『勇者の子孫』で『辺境伯令嬢』、かつ『ラグレイグ王国』の『現宰相一派』から目の敵にされていると言う現実。さらには前世『召喚された勇者』だったと言うこの国の闇の部分も知っている状態。で、この『ラグレイグ王立学院』に通う女生徒なワケだ。取り合えず現宰相一派のアプローチがウザイ。何かと俺を現宰相一派一味に引きずり込もうとしてきやがる。
あ、俺俺って言ってるのは中身が男だから。そこんとこ覚えといてほしい。
まあその辺の、腐った貴族の選民思考に染まったガキどもが寄ってくる、うわべだけのやり取りなんて知ったこっちゃねぇんだけどさ。
これはどうよ?
「――でさ、エレンはどう思う?ボクとしては勇者の子孫と王族が手を取り合い魔王を滅ぼす。そしていずれは婚姻してそれから――「殿下」」
「なにさカイル。今ボクは彼女を口説くのに一生懸命なんだ。邪魔しないでくれるかな?」
朗々と語っていた夢物語に水を注されたせいか目の前の殿下、この国の第2王子様は少々機嫌が悪い。
端正な顔立ちに秀麗に整った甘いマスク。多分女装させればその辺りで(時折ギロリと嫉妬から来る殺意に満ちた視線をくれる)こちらを窺っている令嬢たちより美しくなると思われるサクシャイン殿下は、その整った眉ねに皺を寄せて後ろに控える強面な侍従に文句を言った。
「殿下。いくら殿下と言えど親しい仲でもないのに愛称かつ婚姻を迫るのはをどうかと」
「おやおやカイル。ボクはこれでも彼女と親しい仲だと思っているよ」
「左様でございますか」
「そうだよねエレン」
目の前でやり取りされる自分の話。けれども俺はどうでも良いとばかりに違うことを考えていた。午後からの自由時間を使って何をするか。
つまりは訓練内容である。
最近は剣速が落ちている気がするし今日は素振りから入るか、けど胸の影響で鎧が着れなくなってきているしなぁー、行きつけの店に顔でも出そうかな?
なぁんてことを意識していたので曖昧な返事を返してしまった。
「そう、かしら」
「ほらみろカイル。彼女だってそう思ってるぞ」
「いやしかし今彼女は――「カイル」了解致しました」
そして沈黙する巨人。
って待て今俺何て言った!?
あかん、なんか知らんうちに愛称を呼んで良いことになっとる!?
「で、ででで殿下。お戯れを。わたくしは愛称を呼んで良いなどとは――「シャイン」は?」
「ボクもエレンって呼ぶからエレンにはボクのことシャインって呼んで欲しい」
「は?」
すんげぇ良い笑顔なんだがどうしたら良いんだろうかこいつ。ちらりと後ろの沈黙を保つ巨人に視線を向ければ私は関係ありません。とでも言いたげな視線を感じる。
しかしだな君!いくらなんでも俺だって愛称を呼んで欲しい相手は選びたい。
まあ相手は王族だし、第2王子様だし、ここで断ると立場が悪くなるだろう。て言うかそもそも第2王子様と愛称で呼び合う仲ってのは不味いんでないかい?だけれどもこんな人が不特定多数いる談話室でする話か?こう言うのは普通男女が二人きりとか仲の良い者たち、つまり身内に限る時に話して欲しいものだ。
まあそんなときが来ても俺は許可したくないが。
て言うかこの状況断れなくね!?
無理だよね?
誰か断れるよって言って欲しいな。チラッチラッ。
サッと目を逸らすなメリス!戻ってこいっ!!メェリィィイス!!
「ね?良いよね」
「え、ええ」
「やった!じゃあ呼んで呼んで」
「…………」
「ほらはやく」
犬かこいつは!ぶんぶん振られる犬の尻尾が幻視できるぞ。ボールでも投げてやろうか。
くそう、追い詰められたし。仕方ない、手練手管に逃げ切れない状況にまで追い込まれたのでご褒美でもやるか。
「シャイン――」
瞬間、ぱぁっと嬉しそうに笑顔になるサクシャイン殿下。その余波で背後にいた令嬢たちが軒並み落ちた。物理的にも精神的にも。
何とか胆力で乗りきった彼女らの家臣は何と優秀な事か、実家に引き抜いてもらえるよう進言してみるか?いや、注意しとくように言っとくか。
さて、ご褒美はここまでだ。
「――王子殿下」
「だよね……」
瞬間シュンッと捨てられた仔犬のように落ち込むサクシャイン殿下。その余波で背後にて生き残っていた侍女たちがほとんど全滅した気配を感じながら、俺はにっこりと心から笑う。
うんやっぱりこいつといると人材探すのラクだわ。折れないって言うの?こう男では情報洩らさない、的な?後は背後関係をさらっと調べさせよう。うんそうしよう。
「まあ良いや。一応許可は貰ったからねエレン」
「そうですか」
「そうそう話は変わるけれども――」
いきなりだな。
「カイルにどっか良い子居ないかな?「殿下っ!?」」
本当にいきなりだな!?
さっきまでの甘い空気どこいった。まあ俺としてはこっちの方がラクで良いんだが。
ほら沈黙してた巨人がぎょっとしてその強面を強張らせている。なかなかに面白い状況だな。サクシャイン殿下もその辺分かってるのかどこか楽しそうだ。
「い、良い子とは恋人、と言うことですか?」
「うんそう恋人。ほら、平民出なのにカイルってばリュグイン騎士団で副隊長にまで登り詰めたのにさ。全然浮わついた話聞かないんだよね。団長にもこいつのこと頼むって言われたし「殿下、勘弁してください」」
カイルさん必死だな。
「で、色々と人材豊富な辺境伯にさ、こう芯の強い。確りとした内面をちゃんと見れる子とか居ないかな?」
おうおうカイルさんや。顔真っ赤にして沈黙してらっしゃる。
これはどう揺さぶっても反応してやるものかって事かね。
しかし人材豊富か。なかなか優秀な密偵でもいるのか、それとも我が領地へと流れる人の数から推測しているのか、難しいところだな。
「恐れながらシャイン王子殿下。そう言った方面はあなた様の方がわたくしより詳しいかと存じ上げます」
「うーんそれじゃあダメだったんだよねぇ。この間もボクの紹介で貴族の子とかと会って貰ったんだけどその……――「怖いと」そうそう怖いと言われちゃってね、胆力がない普通の貴族の子とかじゃダメなんだよね」
合いの手がやけくそ気味だなカイルさんや。その時のこと思い出しているのかもしれないが渋面はやめといて方が……あ、メリスは平気そうだね。後ろで生き残ってた令嬢たちと倒れた者たちを介抱してた男性の方々が震え上がってる気がするが大丈夫か?
殺気だだもれですよカイルさんや。落ち着いてください。
ちろっと威圧と言うか殺気未満の気配を漂わせたらカイルさんはビクッとして反応してくれる。腰に帯びてた剣にさりげなく手を添えるとことかなかなか良い動き。うん、面白い。
「どうしたのカイル」
「いえ今……何でもありません」
「そう。で、エレン。居ないかな?」
「そうですねぇ我が家の知り合いで条件の当てはまる方は――」
チラッと壁際に控える我が家の侍女に視線を向けると少し頬を染めて顔を剃らす。
「居ないこともありませんが、その辺はご自分でどうにかして貰うしかないかと」
「うん、判ってる。有力な情報をありがとうエレン」
サクシャイン殿下も脈ありと見たようだ。俺としては彼女に幸せになって欲しいし、質実剛健を行く巨人なら任せても良い気がする。彼女の好みど真ん中だからなこの巨人は。
「殿下、そろそろ」
「おっとそうだね。約束の時間が近いようだからボクはもう行くよ」
若干急いでる様子でしゅさっと立ち上がるサクシャイン殿下。だけれどもそう言ったしぐさに関わらず優雅に談話室を後にするサクシャイン殿下はやっぱり王族だなぁって思うワケで、友達としてなら良いけど、婚約はないなって思う。去り際に「またプロポーズするよ」なんて爆弾おいてかなければ良い友人になれると思うんだけどなぁ。
さて、タラし男は去ったし俺もそろそろ退却を――
「グリードさん、少々よろしいかしら」
――出来ませんよねぇ。うん、知ってた。知ってたよ。ここ最近やたらと絡んでくる令嬢たちの気配を察知してたからね。俺としては談話室に彼女たちがいる時点で退却したかったんだけどな。サクシャイン殿下が絡んでくるから引くに引けず。
トホホ……。
「聞いておりますの?」
「はい、なんでしょうか?」
っぶね、しっかりとしないと。
「グリードさん最近調子はいかがかしら?」
うん?調子?そうね。最近は部屋の前になんか鼠とかの死骸とか、かさかさ音を立てる贈り物とか届くけど全然平気っすね。
「そうですね。なかなか個性的な贈り物とか届きますけれどそれ以外は至って平和なものですよ」
「そ、そうなの。あなたはそう言うの平気なのかしら?」
おいおいこましゃれた笑みが引き攣ってるぞ宰相一派の令嬢さんよぉ。もう少し腹芸は磨くべきだぜ?
「そうですねぇ。わたくしは幼い頃からさまざまな分野において色々な経験をしておりますので、並大抵のことでは驚きませんね」
「へ、へぇ」
「例えば毒などと言った物を扱う生物などは過去に何度か処理、んっんん失礼。経験をしたことがありますので大抵そう言った生物を用いた毒はわたくしには効果は無いかと」
「そ、そう」
お、もうちょいかな?顔真っ青だが大丈夫かいお嬢ちゃん。
「何でもどこかの子爵が最近怪しい露店商からそう言った生物を買い漁ってるとか。アントンさん、知ってまして?」
「さ、さあ。わたくしはじめて聞きましたわ。あ、わたくしたち用事を思い出しましたわっ。失礼します」
「そうですか、残念です。ごきげんよう皆さま」
尻尾を巻いてさっさと逃げていく令嬢たち、
そしてそれを見送る俺。
うむ、やっぱり子どもは歪んで育って欲しくないな。かといって俺が動くわけにも行かないし。うーん、腐ってる膿を一旦出し切らないとこの国はもう無理っぽいな。
ま、俺には大した力もないからどうすることも出来ないけど。基本的に俺達勇者一族はことなかれ主義だ。被害が出そうな時しか動かん。さすが俺の血筋。俺が指導した教義が息づいてるな。
さて行きますかね。
「メリス、行きましょうか」
「はいお嬢様」
本当は談話室でゆっくりとしたかったんだけどな。
ここのところ色んな嫌がらせが相次いでる為落ち着いた気がしないわー。
まあ実践訓練と思えば良いかと思考を放棄。考えるのがめんどくさいとも言う。
そもそも何で俺がこんな状況に追い込まれているかと言えばサクシャイン殿下が悪い。
まあサクシャイン殿下と出会っちゃったのが運の尽きだし、そもそも俺があの初遭遇時にちゃんとした対応をしていればこんなことにはならなかったはすなんだよな。
左右に丁寧に整えられた庭園を持つ道を抜けて、俺はサクシャイン殿下との邂逅を思い浮かべた。
▽△
「うはぁ。マジか、すんげぇ蔵書の数じゃね?なあメリス」
「お嬢様、口調が」
「おっとといかんいかん」
メリスがジト目から続けてタメ息をこぼしてやがる。そんなコンボ叩き込むなよ。解せぬ。
「さて、王城の図書館に来たワケだが……多いな。わたくしが求めるものはあるのかしら?」
「お嬢様、求めている蔵書の題名は何でございましょうか?」
「そうねえ、『召喚魔法と時間魔法』と言うタイトルの本よ」
「『たいとる』でございますか?えぇと」
「あ、題名ね。その本を探して頂戴」
「かしこまりました。探して参ります」
またジト目を向けられたので途中からお嬢様言葉に切り替えて話を継続。あっぶねぇ、たまに外来語使うと反応が悪いんだよな、この世界の人間は。その辺がやっぱり不便だわ。さて、俺も探しますかね。
んー、多分人気の無い蔵書だから埃を被ってるエリアだと思うんだが……しかし広いなここ。うちの図書室の何倍だ?3倍くらいか?なんかズルいよな。まあ納められている蔵書の殆どは王国にとって都合の悪い部分を省いた偽りの記録の本ばかり在るわけだが。お、この辺か?……いや、これじゃないな。て言うかゴブリンでも解る魔法の使い方ってこんな所にも置いてあるのか。うちの図書室にも全シリーズ揃ってるぜ。ゴブリンでもできる稲作とかゴブリンでもできる建築とかゴブリンでもできる……ん?
「………あ…………ふぁ――」
「……………い……」
話し声?いやそれにしては随分と……
「んっ、ふぅ」
デスヨネー。
あらまあ、くんずほぐれつつ。男性が女性に覆い被さって熱烈なキスをされてますね。女性は恥ずかしいけれども嫌ではないご様子。それを見た男性はさらにキスを加速され――ふむふむ、あーうん。俺は何も見てないぞうん。うん、今すぐ立ち去るべきだな。
「お嬢様?」
「「「っ!?」」」
うん、今3人の気持ちがひとつになったね。
でもなんで俺まで後ろ暗いワケでもないのにイケないことをした気分にならにゃあいかんのか。とりあえずポーカーフェイスポーカーフェイス。キョドっちゃダメだぞぉ俺。
「メリス、どうしたの?」
「いえ、お嬢様がお探しの本が見つからなくてですね。一応類似の題名のものは見付けたんですが」
「そ、そう。じゃあそれもまとめといてくれる?こっちの方はわたくしが探しておくから」
「畏まりました」
すすっと本棚の向こう側へと移動していく我が家の侍女を見つめながら、俺はちょっと奥まった位置にある事件現場に顔を突っ込む。
ああもう女の子の方は顔真っ赤にして可愛いなぁもう。男の方はあれだな、爆発すれば良いのに。
「やあ」
話し掛けんなタラし男。なんだこの色気ムンッムンの図書館は。ここはやらしいことするとこじゃねぇぞ。まあしかしだ、挨拶されたなら返さねばなんね。ってじっちゃが言ってた。……いかんまだ混乱している気がする。
「ご、ごきげんよう」
うん、笑顔だ。笑顔で切り抜けろ俺。
「こんなところに来るなんてイケない子だね君は」
イケないのはあなた方の方では?なんて言えるワケもなく、しかしどう返答したものか。うーんどうやら彼女の方は顔を見られたくないご様子。格好からしてどこかの侍女みたいだが……うぅむ。
「あ、あの」
お?
「先に戻ってますねっ」
お、おう。すすすっと俺の横を通り抜けていく少女の横顔は耳まで真っ赤で――
「ヘレナ」
そんな彼女が名を呼ばれたとたんスッと嬉しそうな笑顔で振り返る。
「また今度」
「はいっ。サクシャイン様もお元気で♪」
タタタっと景気よく駆けていく彼女の足取りは凄く軽やかだった。
去り行く彼女の後ろ姿を可能な限り視界に収めながら俺は近寄ってきたタラし男からすいっと距離を取る。するとどうだろうか、タラし男は一瞬キョトンとしてニヤリと笑った。ぞぞぞっと背筋に嫌な予感が這い回る。こう言うときの対処は回避一択なんだが逃げられるだろうか?あ、逃げられない。そうですか。
「逃げないでよ仔猫ちゃん」
「わたくしは仔猫ではありませんわ」
「そう?ボクからしたら充分仔猫の部類なんだけど」
すまん、前世分含めると老人?いや老婆?の域なんだわ俺。まあ確かに、今世ではまだ12のガキだし?色気の“イ”の字も無いけどさ、踏んできた場数がちげぇぜ坊主。
女歴12年ナメんなよ小僧。あ、ごめんごめん寄らないで、殴りたくなるから。
距離を詰められる度に逃げ道を確保しながら後ずさると、タラし男は楽しそうにニヤリとまた笑った。
「ふふ、やっぱり仔猫みたいだ」
む、ムカつく。
「まあいっか、それで、ボクに何か用?」
「あなたには用はありませんが、ここの蔵書には用がありますね」
「なるほど、ボクより本をね」
言外に興味ねえぞどっか行けやゴルァとか考えつつ、他愛の無い会話を繰り返している間俺は何故か実家に一時的に置いてきた執事。ローカスの言葉を思い出していた。
「良いですかお嬢様。王城に上がる際に気を付けなければならない人間が何人かおります。心して聞いてくださいませ」
「1人はこの国の現宰相、アーガスフェルド。蛇の様な狡猾な男で隙を見せれば喉元を食い破る策を労してきます。暗殺、脅迫、揉み消し何でもござれ。こいつに目をつけられると動きづらくなります。お気を付けください」
「1人はこの国の国王陛下。現宰相の傀儡と成り下がった凡愚でございます。まああれは多分薬か何かを服用させられている様なので気にしなければ良いのですが、とりあえず宰相の派閥にはご注意を」
「1人は第2王子。サクシャイン王子殿下。一応宰相に従っているみたいですがあれは偽りの姿ですね。あの子は巧妙に宰相を騙しているみたいですが私の目は誤魔化せません。現在は宰相一派を一網打尽にするために様々な方々、主に婦女の方々と浮き名を流されているようです。お嬢様も彼を見かけたら会話などされずさっさと距離を取られる方がよろしいかと――」
よろしいかと……よろしいかと……よろしいかと……(エコー+残響)
うっわやっちまったこいつただのタラし男じゃなくて第2王子じゃん。がっつり会話してんじゃん。やっちまったよローカスえもん。すまんちょっと錯乱してた。
「どうしたの?」
「いいえ何も」
「そう」
「そう言えば殿下」
「あ、わかっちゃった?なんかごめんねこんなので」
「まあお噂は色々と聞き及んでおりますので大丈夫ですわ」
「へぇ、知ってるのか。じゃあもう遠慮する必要無いよね」
何がもうだ!やべ、尻尾踏んだかも。ちょっとフェロモン出し始めやがった。ここを切り抜けるには……。
「わたくしみたいな貧相な女性に声をかけている暇があったらもう少し確りとした女性にお声かけした方がよろしいのではなくて?」
「うーん、君のどこが貧相なのか気になるところだね。綺麗な黒髪に映えるような白い肌。胸の大きさは誤魔化してるようだけどもう少しあるよね。それに整った顔立ちで誰にも負けないと言う強い意思を感じる緋色の瞳はとても綺麗だ」
うっわこいつ今の一瞬でここまで誉めやがった。さすがに胸のくだりはちょっとドン引きしたが、それ以外の部分は女の自尊心を軽く踏襲して満足させてやがる。俺が前世男じゃなかったらフラフラとハマってたかもしれない。タラし男、恐ろしい子。
内心ガタガタしながら俺は切り返し方を模索する。ふむこういう場合は……。
「ありがとうございます殿下。しかしこの程度では殿下にご満足いただける様なものではありませんわ。ですので他の方に当たってくださいまし」
そう言って返してやればサクシャイン殿下はどこか嬉しそうに頬を緩めた。ちなみにこの台詞。俺が前世某東の島国に住んでた頃大好きだった(画面の中の)彼女の台詞。いやああの子可愛かったわー。マジリスペクトっすわー。
「さすが勇者の末裔。グリード家の天才少女だね。ボクも色々と精進しないとなー」
「知っておりましたの?」
「うん、貴族で黒髪って言うのは希少だしさ、ましてや今の時期王城に顔を出している一族で同い年ぐらいの女性と来れば――「わたくしですか」そ、君に当てはまるワケだ」
なるほど、この坊っちゃんただのタラし男じゃなくて頭の回転も速いワケだ。まあそんなんじゃないとこの王城ではやってけないのかね。俺はそんな暮らしはやだなぁ。さっさと辺境に戻って一日中好きなことしてたいぜ。
「それで、まだ戻られないと言うことはわたくしに何かご用でも?」
「んー、そうじゃないんだけどひとつ言わせてもらうと…―「疲れた?」あー……そう見える?」
「そうですわねぇ、わたくしとしては少々無理をされてるように見えますわ」
「そっか」
「まあでも大丈夫でしょう」
「何で?」
「男なんて一度パァッと遊びに行けば色々と考えてるのが馬鹿馬鹿しくなるものです」
「なるほど、つまりボクには休息が必要だと」
「そう思うかどうかは、殿下次第です」
「ふふ、そかそか」
「ふふ」
やっと年相応の顔をしたな。やっぱり仮面被り続けると大変だよな。猫かぶり続けてると自分の本当の顔が分かんなくなるって前世で仲良かった王子が言ってた。あいつ、隣国との交渉の結果。人質として連れてかれたけど、隣国でバリバリ仕事してたもんな。まあ俺と同じでこの国にそこまで思い入れが無かったからこそあんなにきびきび隣国のために仕事してただろうな。あいつから手紙が届く度に笑ったもんだ。
「大丈夫です。殿下はしっかりと笑えております」
「うん、ありがとうねエレインちゃん」
「んっんん。エレインではありません。グリード伯爵令嬢でお願い致します殿下」
「厳しいなぁ」
「こう言うことはハッキリしておきませんと」
キリッとそう伝えればサクシャイン殿下はもう一度年相応に笑う。
「ねえ、もしよかったら――「お嬢様ぁーどちらにおられますかー」」
「さてはて、呼ばれておりますのでそろそろ失礼いたします。またどこかでお会い致しましょう殿下」
「ああ、また逢おうグリード伯爵令嬢」
メリスの声でこの会話はおしまい。俺はちょこんとドレスの裾を摘まんでカーテシーをするとその場から退場した。
「また逢おうエレイン」
ぼそりとそんな声が聴こえた気がしたが気のせいにしておこう。
主に俺の精神的な意味合いで。
気のせいったら気のせいだ。
△▽
うん気のせいじゃないよな。
なるほどやっぱりあれが原因かー。まあ勇者の末裔って言うのもあるかも知れないが、色々とあるんだろうなきっと。
なんて考えながらいつの間にか女子寮の前に着いてたわ。うん、さすが俺。考え事しながらもしっかりと移動しきっているとは優秀だな。まあこれも激しい訓練の賜物なんだが……。何で天才天才って言葉で片付けられなければならないのか。努力すればこれくらい誰にでもできるよ。ちょこっと『魔の森』(※グリード領と魔王統括地域の間を隔てる森、入ったら二度と出てこれないと言われている森)で一月の間自給自足で過ごせば誰でも屈強な戦士になれるよ。うん。
思い出したら目から水が……。おかしいな、頭痛もしてきた。うん、あの頃の生活は忘れよう。何であんな試練組んだのか、過去の俺に伝えてやりたいわ。
女子寮に入ったとたんに突き刺さる視線。好意的なものは極小、敵意的なものは半数以上。後は無関心ってか?
この中の何人が宰相と繋がりがあるんだろうかねぇ。うちの執事に訊いてみないとわからんか。後で聞きに行こっと。そう言えばうちの執事情報通過ぎないか?
宰相の情報とか国王の現状とか、さらにはサクシャイン殿下の目的とかさらっと教えてきてたよな?
あの情報量は不味い気がする。あいつ死なねぇよな?
でも強いし平気か。心配する必要性は無いな。
さて、昼の自由時間に向けて一旦自室に下がるとして――
「…………まぁ……」
やべ、幻聴か?
「……お姉さまぁー」
この声は……不味いな。
「エレインお姉さまぁー」
すわっ!背後か。なぬっ!!?上だと。って危ないよ!?
俺の名を叫びながら1人の少女が女子寮の階段上から躍り出てくる。て言うか飛び降りてきた。なるほど、気配があっちこっち行ってたのは階段を降りてきてたからかー、なんて遠い目して現実逃避してる間にも、この身長140センチにも満たない彼女は人間大砲よろしく飛び込んでくる。これ避けちゃダメかなぁー。あ、ダメ?
「ぅ!?」
「きゃーお姉さまお姉さま」
「危ないでしょうハルラ。こう言うのは危険なのよ」
「大丈夫です。お姉さまなら抱き止めてくれると信じておりましたので」
何を根拠に大丈夫と力説するのか。俺にはこの子が分からない。
さてはてこれからどうなることやら。
またこの子に色々と引っ掻き回されそうな気がするのは俺だけじゃ無いはず……。
まずはぎゅむぎゅむ抱き着いてくるこの子の話でも聞きますかね。いい加減鬱陶しい。
「そう、出来ればもう少しお手柔らかにお願いするわ」
「りょーかいでありますお姉さま!」
この先の展開は神のみぞ知るってな。ん?どうしたハルラ。え?出番少ない?安心しろ。次回に期待だ。
とりあえず今からお茶でもどうかしら?そう、良かったわ。
メリス。お茶の準備を。じゃ、行きましょうか。
前作にブックマーク頂いたんで続き書いてみました。
ブックマーク貰えたら続き書くかもよ。
ちなみにプロットはありません(遠い目