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四季同盟  作者: 紫雨
本編
5/5

ヒイラギの季節






 バサバサバサーッと音をたてて、アタシの下駄箱からたくさんの小箱が溢れ出た。



「ヒイラギの下駄箱には、いつも何か入ってるわね」



 ちょうど登校してきたらしい向日葵が、アタシの背中から覗き込むように言う。



「や、いつもは手紙だぞ。果たし状とか」

「ラブレターも入ってるじゃない。」

「たまにな。今回は何だ、爆弾か?」


 どう見てもアタシに似合わないような色合いで可愛くラッピングされた箱達を睨むように見つめていると、向日葵が小さくため息をついた。



「今日はバレンタインよヒイラギ。それは女の子達からのプレゼントでしょう?爆弾なんて言ったら可哀相だよ」

「…チョコか!」



 そういえばさっきから甘い匂いがするなと思ったら。

 甘いものが大好物なアタシのテンションは急上昇する。

 甘いもの好きとしてバレンタインデーを忘れるなんてなんたる失態だ。






                   *  *







「…………こんなにチョコ貰ってる人、男の子でも見たことないよ」

「おそるべきヒイラギだわ」



 放課後になって、抱え切れない程のチョコレート達を、桜、向日葵、楓の3人にも持ってもらいながら、帰路についていた。




「モテモテだよねヒイラギ」

「サクラと違って女に、だけどな」

「なにそれ!違うもん!」

「三竹っつうカレシがいるっていうのに、告白してくるやつらが絶えないのは誰だよ」

「~っ…」



 桜は真っ赤になって、反論をやめた。

 小柄で可愛い桜は、守ってやりたいオーラが出ているんだろうな。

 三竹と無事付き合い出した後に、彼氏持ちの魅力ってやつも備わって、構わず告白してくる輩は多い。



「そういえばヒイラギの恋愛話とか、聞いたことないわね?」



 落ち着いた声で、楓が尋ねてきた。


「そうだよヒイラギっ!ヒイラギはすきな人いないのっ!?」


 もちろん食いつくのは桜。

 向日葵も遠慮しながらも知りたそうにこっちを見つめてくる。


「………や、アタシは………」



 どもってしまったせいで、肯定の意味を見せてしまったことに、しまったと思う。



「道琉、おかえり」



 そしてタイミングの悪いことに、アタシの家の前まで到着していて、門の前に立つ一人の男がこっちに向かって手を振っている。

 斎藤貴史サイトウタカシ――アタシの幼馴染でみっつ年上の大学生、今は隣町で独り暮らしをしている―――だ。




「(誰だろう?)は、初めましてヒイラギの友人のサクラです。」

「(すごいなんか、落ち着いたオーラが漂ってるのね)ヒマワリと言います」

「(落ち着いたオーラならヒマワリも負けてないわよ)カエデと申しますわ」

「ああ、君たちが例の!斎藤です。うわあ、相変わらずモテモテなんだな。すごいチョコの数じゃあないか。」

「う、うるせー!何してんだよこんなところで!!」


 目で会話をしながら挨拶をこなす3人に、気付く様子もない貴史は相変わらずの鈍さだ。

 鈍いというか、落ち着きすぎて、そう見えるのかもしれない。昔から何を考えてるのか、そもそも考えてないのかがわからないような人だった。



「遊びに来たら、いけない?」



 ニコッと微笑む貴史の笑顔は、相変わらず眩しくて、アタシは一瞬固まってしまう。

 そんなアタシの様子を3人が見逃すはずもなく、嬉しそうに笑って(特に桜なんかは落ちそうなくらいの大きな瞳をパァッと輝かせて)、そそくさと玄関先までチョコを運ぶ。


「じゃあ私たち帰るわね」

「ヒイラギ!また明日ねーっ!」

「ごきげんよう」



 そう言い残して、3人は帰ってしまった。



 3人の運んでくれたチョコの山へ視線をやると、さっきまでなかった大きな包みが乗っているのに気づく。



「…こんなの、あったっけ?」



 アタシの好きなターコイズ色のリボンでラッピングされた箱には、小さなカードが挟まっていた。



 “柊へ

 わたしたち3人からのバレンタインデーです。

 どうせ柊のことだから、女の子たちからたくさん貰うんだろうけど、柊に対する愛なら、私たちが負けるはずないもの!

 女の子たちには悪いけど、どのチョコよりもおいしいから!

 どうぞ召し上がれ♪

 四季同盟 桜、向日葵、楓より”

 


 してやられた、バカじゃないのあの3人。

 こんなことされたら、…喜ばない訳がない。

 


「道琉、いい友達が出来たなあ」

「うるせー…」

「中学までは、俺とか、男の子とばっかり遊んでたのに」

「………」


 彼の言う通りだった。

 アタシは可愛い女の子女の子した感じが苦手で、いつも遠ざけてた。

 男の子となら、普通に喧嘩とか出来たし……って言っても、途中から男の子たちも“女の子”を意識し始めて、あたしには手を出さなくなった。対等に、喧嘩をしてもらえなくなった。

 悔しくて、自分が弱いせいだと思って稽古により一層力を入れたら、いつの間にかそいつらをはっ倒すくらい強くなっていた。

 そんなアタシを恐れてか、気づけば周りにだれもいなくなっていた。唯一、そばにいてくれたのは――、



「よかったね。俺も嬉しいよ」

「…へ?」



 どうして、アンタが喜ぶの。


 アタシになんか敵いもしないくせに、アタシよりもずっと強くて凛々しい表情をして笑う彼を見上げた。



「道琉が嬉しいことは、俺も嬉しいんだよね」



 誰よりもアタシのことを分かってくれる人。

 アタシが乱暴な女の子になっても、変わらず接してくれて、離れていかなかった人。

 ずっと、そばにいてくれた人。

 アタシのすきな人………。




「道琉は僕をお婿にもらってくれればいいよ」

「はァ?」

「そうすれば、苗字はそのまま―――、道場の名前は途切れないし、何より3人との繋がりも消えない」



 一度、ぼそっとこぼしたことがあった。

 小野桜

 城崎向日葵

 笹原楓

 柊道琉

 “四季同盟”の四季を示す言葉が、苗字に入っているのはアタシだけ。嫁になんかいってしまったら、アタシが四季同盟を名乗る資格がなくなってしまうんじゃないかって。



「…………っアンタなんか、こっちがお断りだよっ!」




 そんなくだらないアタシの呟きを忘れずにいてくれるコイツも、たとえアタシが苗字が変わってもきっとアタシのことを好きでいてくれるだろう彼女たちを、愛しいと思う。

 さりげなくプロポーズされているのに、照れ屋のアタシはこうやって誤魔化すことしかできない。でもいつか――素直になれたらいいなと思う。

 サクラみたいに、明るく。

 ヒマワリみたいに純粋に。

 カエデみたいに優しく。



 こんな風に、思う日が来るなんて思ってなかったな。

 きっと彼女たちのおかげだろう。






                  *  *






 次の日、社会科準備室に行くと、3人が待ってましたと言わんばかりに飛びついてきた。

 恥ずかしいけれど、貴史のことを話してみよう。

 この3人になら、話せると思うから。


 ――否、聞いてほしいと思うから。







(ヒイラギの季節、おわり)

【柊の花言葉】…機智・剛直・先見・用心

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4人の話、これでおしまいとなります。

また、続きを描けたらいいなと思いつつ、ここで区切りとします。

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