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四季同盟  作者: 紫雨
本編
3/5

ヒマワリの季節

 夏の太陽、向日葵。

 なんて私に不釣り合いな名前なんだろうって、いつも思ってた。






 桜が舞う入学式で出会ったわたしたち4人は、“春夏秋冬同好会”を正式名として、普段からあまり使用されていない社会科教室で、放課後集まったりするようになった。


 “四季同盟”はわたしが名付けた名前で、皆がそう呼ぶ。

 「変なの」って言われると思ったのに、3人は予想以上に気に入ってくれたようで―――わたしはとても嬉しかった。




「――っあ!ヒイラギ!あれ、あの人だよ」

「ああ、昼間のかしら?」

「おー、どれ、どいつよ」

「ほら、あそこの―――」



 桜が窓際に柊を呼び、外にいる誰かを指差した。

 楓も分かっているようで、話にすっと入って、窓の外を眺めた。

 何の話をしているんだろう。



「…何の話?」



 わたしは遠慮がちに尋ねてみた。

 すると3人は、今日授業をサボった時に此処で話した、学年一可愛いと噂されている女の子のことだと言った。

 楽しそうな3人は会話が弾む。


 わたしは入り込めそうにないのを感じて、一歩身を引いた。



(……何だかわたしだけ、仲間外れみたい)


 思えば最近、こういうことが何度かあった。


 楓は授業の有無に関わらず、ほとんどの時間を此処で過ごしているみたいだし(何故なんだろう)、桜も柊も、授業をサボって此処へ来ることが多くなってきたらしい。


 一方わたしは、授業をサボったことなんて、小中学校を考えたって一度もなかった。


 だけど確実に、わたしのいない時間が増えているのが感じられて、仕方ないことなのに寂しくてたまらない。



(わたしもいれて)

(…自分からは、入れないくせに)


 関係のなかった人が、途中から話題に入ってくるのって、すごく面倒くさいじゃない。

 だから…なんて言い訳だけど、自分から入る勇気なんてなかった。



 それにもし、「ヒマワリもおいでよ」って言ってくれたとしても―――、わたしは授業をサボったりできるのかな?






                    *  *





 わたしの取り柄は勉強しかない。


 小さい頃から病弱だったわたしは、家の中で本ばかり読んでいた。

 友達もうまくつくれなくて、ますます外に出ることは少なくなったし、勉強はすればする程伸びていって、親も先生も、成績が良ければ優しかった。



 いつからか、こんな自分が息苦く感じるようになったのに、手放すことが出来なかった。

 自分に誇れるものが、わたしにはもうコレしかなかったから。





                    *  *





「ちょっと山田先生に急用が入ってな、自習だ。静かにやっとれよ」



 始業のチャイムから5分ほど経って教室のドアを開けたのは、この時間の教科担任ではなかった。

 職員室に篭っていそうな年配の先生が、その言葉だけを残して再びドアを閉めた。




 一応進学クラスのため、その場でわっと歓声が上がったりすることはなく、ただ空気が少しだけ変わった。

 だけど教室を出て行く人もいない。

 ガタッと誰か立ち上がる音がしたしたけれど、仲の良い友達の席の近くの子と代わってもらう交渉をするために立っただけだったようだ。


 もちろんわたしも、その中で一人立ち上がって社会科教室に行くなんてこと、出来る訳がなかった。

 静かに、次の時間の予習に取り組んだ。



 でも、それでも―――……




(行くなら、今しかない)



 廊下側の席でよかったと、心の底から思う。

 わたしは音を立てないようにそうっと、教室を抜け出した。



 心臓がばくばく言ってうるさい。

 廊下に出てすぐ、わたしはどうしたらいいのかわからなくなって立ち尽くす。

 サボるって、その途中で誰かに見つかってしまったらどうすればいいんだろう。

 

 わたしは必死に走って、社会科教室を目指した。




 目的の教室に着いたわたしは、体を滑り込ませるようにして教室に入った。


 未だばくばくと鳴り続ける心臓を、ぎゅっと押さえた。



「…………ヒマワリ?」



 楓の声がした。

 彼女はいつも居る窓際の机で、本を読んでいた。



「…カエデ」

「どうしたのよ、授業は?」

「………抜けて、来ちゃった」

「ヒマワリ?何かあったの?」


 彼女の表情が、驚きから心配へと変わっていくのがわかった。

 わたしが授業をサボることなんて、有り得ないと思ったのだろう。

 わたしだってそう思っていたはずなのに、“意外”そんな感じ丸出しの楓に、なぜか腹がたった。



「………サクラと、ヒイラギは?」



 居る様子がなかったけど、尋ねた。

 もしかしたら後から来るのかもしれない。いつも来る時間があるのかもしれない。



「さあ…、今日は一度も来てないわね」

「………そんな」



 わたしは、4人になりたくて来たのだ。

 4人じゃなくちゃ、意味がない。

 楓だけじゃ不満だとかそういうんじゃなくて…、うまく言えないけど、わたしはあからさまに落胆してしまった。




「………ヒマワリ、もしかして仲間外れみたいに思った?この前の話聞いて」

「え?」

「だって寂しそうな顔してたもの。」

「…………」



 顔に、出したつもりはなかった。

 自分でもそういうのを隠すのは上手な方だと思ってた。

 それさえもできないくらい、わたしは必死だったのかな。



「馬鹿ね。それで抜け出して来たの?」

「………。」


 お母さんのような楓の言葉に、わたしはコクリと頷いた。


「わたし………、自信がないの」



 此処を失わないためならば、勉強なんて捨てたっていい。

 わたしは―――此処にいたい。

 やっと見つけた居場所なの。


 上手く伝えられたかわからないけど、それでも一生懸命に、楓に話した。

 楓は時々相槌をうちながら、静かに聞いてくれた。


「馬鹿ね、ヒマワリ。抜け出すの、勇気が要ったでしょう?」


 優しすぎる声色に、わたしは泣きそうになる。


「今度サボる時は、授業始まる前から、此処にいればいいのよ」


 なんだ、そんな簡単なことだったの。

 よく考えたら、そうね。

 賢いなんて言われるけれど、わたしは知らないことがまだまだ沢山あるんだわ。





 そして最後に、まるで告げ口するみたいにそっと、教えてくれた。


「サクラとヒイラギね、此処に最近来る回数減ったのよ。ヒマワリが頑張って勉強してるんだから、見習わなきゃって」


 仲間外れだなんて、誰も考えてないわよ。と。

 微笑んだ楓は、陽の光に当たって眩しかった。





                    *  *





「ヒマワリ!ここは?」

「ん?えっとね…まずaに代入して…」

「ヒマワリーそれよりこっちのが重傷!こっちのが先!」

「重傷とかないよヒイラギ!そやってヒマワリとらないでよっ!」

「サクラこそさっきからヒマワリ独占しやがって!ずるいわ!」

「えと、あの、二人とも…っ」


 言い合いを続ける二人とわたしは、社会科教室でテスト勉強の真っ最中。

 わたしは困りながらも、緩む頬を隠しきれそうになかった。

 うれしくて、うれしくて。


「…ヒマワリ、なんで笑ってるの?」

「ごめん、なんでもないわ。サクラ!このあとbをaにね…」



 わたしはもう失わないわ。

 大切な居場所だからこそ、無理なんてせずに、守り抜いてみせる。






(ヒマワリの季節、おわり)

【向日葵の花言葉】…あこがれ・熱愛・愛慕・光輝・敬慕

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