サクラの季節
私たち4人は見事にクラスはバラバラだったけれど、互いに特別な存在として―――“四季同盟”は放課後社会科教室に全員集合!
「ごめん遅れたーっ!」
「遅刻の原因はズハリ男だなサクラ」
「今日も先輩からお呼び出しなんでしょう?」
「おいしそうだものねえ…」
「なっ何で知ってるの!?」
社会科教室のドアを開けた瞬間に、三人から一気に声をかけられ、あたしの勢いは消え去った。
確かに彼女たちが言うように知らない先輩から呼び出されたおかげで、あたし一人が此処に来るのが遅れてしまったのだ。
ニッコリと笑う三人に囲まれて、あたしは何だか悪いことをしてるみたいだ。
「見てたのよ、窓から」
「モテモテだねェー」
向日葵が窓の下をちょいちょいと指差して、隣に立つ柊がニヤリと笑った。
楓も何か言いたげに笑う、彼女たちが言いたいこともわかるけど……
「あたし…すきな人いるもん!」
言った、言ってしまった。
もちろん彼女たちは予想通り、食いついて来る。
「まじで!!!どこの誰だよ!?許さんぞ!」
「ヒイラギ、お父さんみたいよ」
「……同じクラブの、三竹くんっていうの。同い年」
「クラブって、硬式テニスの?」
「うん」
あたしは校外の硬式テニスクラブに所属している。柊も家の道場に通っているし、二人は何もだから、4人とも此処が学校の部活動になる。
「そこって、見学OKなの?」
「う?うん…、よくちっちゃい子の家族が見に来てたりするけど」
「じゃあ、アタシが親父だ」
「私がお母さんね」
「えっと、わたし、は…?」
「ヒマワリはお姉さんかしら?」
「いや、それじゃつまらんだろ!ヒマワリは犬だ!ヨークシャテリアくらいにしとくか」
「犬………!?」
自分の役割に若干ショックを受けてる向日葵が、可愛くて本当に犬みたいに見えてきた。
っていうか、どうしてあたしの見学の家族設定にお笑い要素がいるのよ柊…!ってツッコミたくなったけど、やめておいた。
彼女たちの瞳は真剣だったし、三竹くんのことは関係なしに、3人にあたしがテニスしてる様子を見て欲しいと思ったから。
家族―――、みたいに。
* *
「―――で、どこだよ愛しの三竹くんは」
「あそこ、ブルーのシャツの」
「おーっ!よし、ロックオンだ」
「ヒイラギっ、あんまり騒がないでね?目立つと恥ずかしいんだから…!」
金網をゆさゆさとゆらしながら目を輝かせて張り付く柊に言い聞かせるけど、うはー!とか、イケメンじゃん!とか騒いでいて、聞こえている様子もない。あたしはそっとため息をついた。
そんなあたしの頭を、楓がポンポンと撫でて言う。
「サクラ、お父さんはママがしっかり見張っておくから、サクラは気にしないで練習しなさい」
「わ…わんわん」
「ヒマワリ…無理しなくていいのに」
向日葵の頑張ってる感じがすごく伝わって来て、可愛くて笑ってしまう。
コレはしばらく、家族設定がブームになりそうだな、と思いながらあたしはラケットを片手にコートへ向かった。
* *
「絶好調じゃん」
水分を補給しながら汗を拭いていたところに、後ろから声をかけられてあたしは振り向く。
「み、三竹くん……っ!?」
「サーブもすごい決まってたし、球にキレが。」
「いやいやいやっ三竹くんにそんなこと言ってもらえるなんて…っ」
「何、俺そんなすごい人じゃないよ」
ふ、と三竹くんは微笑んだ。
彼の、目を細めるこの笑い方が好きだなあなんて思う。
「彼女たち、小野さんの友達?」
そう言って彼の指が示した先には、柊達がいた。
三人とも、他のコートの試合形式ゲームに夢中になっているのが見えた。
「うん、そうなの。ごめんね、騒がしくて」
「いや、ギャラリーいた方が気合い入るし。小野さんも嬉しそうだからね」
「え、あたし…?そう、見えた…?」
「うん」
そう言ってまた、三竹くんは微笑んだ。
驚いた、どうしてわかってしまったんだろう。
昔、あたしの大会には毎回駆け付けてくれた両親の姿を思い浮かべる。
応援してくれる人がいるのは、ちょっぴり恥ずかしくて、だけど心の奥で、熱い、炎が灯るのがわかる。
頑張ろうって、思うの。
あたしは今一人暮らしだし、もうそんな年齢でもないから、この感じ、久しぶりで気持ちが良かった。
そんな気持ち、三竹くんはわかってしまったの?
「…小野さんの笑顔は、なんだかこっちまで笑顔にしてくれるから。」
「んな、大袈裟な…!」
「本当だよ」
「……あ、ありがとう」
あたしも微笑み返した。
すると三竹くんは表情を変えずに信じられないことを言う。
「…小野さん、今週の日曜暇?」
「え?うん、暇…」
「じゃあ10時に駅前の噴水の前で。どっか遊びに行こ」
「…え、ええっ!?」
「小野さんの笑った顔、もっと見たくなった。駄目?」
「………っよろしくお願いします!」
何それ。その笑顔こそ反則だ。多分破壊光線と同じ威力だと思った。
このことを柊たちに話すと、それはもうすごく、喜んでくれた。
「アタシ等のおかげじゃね!?」なんて得意げに笑いながら。
ひとの笑顔は、ひとを幸せにする。
多分、柊たちが笑ってくれていたから、あたしはきっと笑っていたんだ。
桜の花びらたちは消え、新緑が陽を浴びて輝き出した頃―――、幸せがとんできた。
(サクラの季節、おしまい)
【桜の花言葉】…純潔・心の美・優れた美人・精神美




