はじまりの季節
4月、私たちは出会った。
桜の花びらが舞う中で―――。
偶然だったのか、必然だったのか。
「入学オメデトー!部活とかもう決めた?君カワイーねぇ、マネージャーにならない?」
「えと、あの、いえっまだ決めてませんので…!」
「じゃーちょっと見てくだけでもいーじゃん?行こーよ~」
「え、ちょちょちょっと、離してくださ…っ」
掴まれた腕は、振りほどこうとしてもびくともしなかった。
桜が綺麗で、つい見惚れてぼーっと立ってたら、新入生が帰る時間はとっくに過ぎていた。
完全に外したタイミングの中、駆け足で校門に向かおうとしていた時に、チャラチャラした上級生二人に声をかけられた。
高校生活で不安なことランキング2位にランクインする上下関係…!に、高校生初日から遭遇してしまったようだ。(もちろん、1位はお勉強である)
(どうしよう…!)
大声を出そうと思ったのに、上手く声が出ず、掴まれた腕は気持ち悪い。
どちらかといえば(コレ重要)小柄なあたしは、いとも簡単に引きずられるように連れて行かれてしまう。
「――ちょっと、嫌がってんだろ。離せよその子を」
聞こえたのはハスキーボイス。
恐る恐る顔を上げた瞬間、目にも止まらぬ速さで、上級生二人は吹っ飛んでいた。
「え?え…!?」
いつの間にかあたしは声の主に救い出されていた。
艶やかな黒髪を一つに束ねて風になびかせている彼女は、仁王立ちで、地面に倒れ込む二人を見下ろした。
その瞳がまた、怖いくらい綺麗で―――。
「なんだ、たいしたことねェな」
「………っこのクソアマ……!」
上級生の一人が拳をにぎりしめて起き上がった。そして彼女に殴り掛かろうとしたその時――、
「先生!こっちです!」
「おまえらー何をしてる!!」
眼鏡をかけて真っ白な肌色を持つ一人の女の子が、先生を連れて走って来た。
「げっやべえ、おい起きろ、逃げるぞ!」
「こら待て―――っ!!」
駆け付けた先生の顔を見て、二人は血相を変えて逃げ出した。
「―――クロ、シロ」
「「はっ」」
また別の声が聞こえて、黒い影が二つ、また見えないくらいのスピードで動いた。
気付けば例の上級生二人は、縄で縛り付けられていた。
そして二人の座る場所のすぐわきにある木から、一人の女の子が舞い降りた。
栗色の毛は綺麗なウェーブを描き、くりくりの大きな猫みたいな目。
「やるねェ、今の何?」
「ちょっとした従者ですわ。」
「従者………!」
って何?側近みたいなやつ?
頭にハテナマークを浮かべて単語をリピートする私をよそに、黒髪ビューティな彼女は栗色お嬢様に楽しそうに声をかける。
そして眼鏡のホワイトガールに、向き直した。
「で、アンタが先生呼んでくれたの?サンキュー」
「いいえ。ちょうどそこの図書館から見えたの…。」
「あ……っありがとうございます!」
あたしはとっさにお礼を言ってペコリと頭を下げた。
彼女は穏やかな表情を浮かべて微笑んだので、自然とあたしの顔にも笑みが零れる。
「ていうか、3人とも…助けてくれてありがとうございました!」
「あぁ――、アンタ狙われやすいカオしてるから、気をつけろよ」
「そうねぇ、おいしそう」
「………はい?」
(おいしそう………!?)
栗色お嬢様が何気なく発した言葉に、あたしは驚く。いつあたしが食べ物になったの…!
分からない空気になりそうだったから、それを防ぐことも兼ねて、あたしは名乗ることにした。
「あの、あたし………、小野桜って言います」
「桜……ああ、春っぽいわね。わたしは城崎向日葵よ」
「しろさき……あ!もしかして新入生総代の?」
そういえばこんな人だったかも、眠たかったからほとんど覚えてないんだけど、何かのプリントに書いてあった“城崎向日葵”の字が記憶と重なって確信した。
「へぇ、アンタ頭いーんだ、すっげー」
「やだ、そんなんじゃないわよ」
「ううんっ、すごい…!」
多分ギリギリの成績でこの高校に入学したあたしは、目を輝かせて彼女を見つめた。
照れたように笑う彼女の笑顔は、やっぱり温かい。
「ウチは柊道琉、一応名の知れた武道家の一人娘」
「私は笹原楓と申しますわ」
「………向日葵、柊、楓に……桜!あたしたち四人で、四季が揃っちゃうんだ、すごい!」
全然共通点の見つかりそうにないあたしたちの名前に一つだけ、繋がるものをみつけた。
「おー、本当だな」
「素敵な偶然ですわね」
「四季同盟……かしら?」
あたしが一人で興奮してしまったのかと思っていたけど、違ったみたいだ。
向日葵の名付けた名前に、3人とも「それいいね!」と飛び付いた。
これが、あたしたちの出会い。
(はじまりの季節、おわり)