「お義母さんを俺に下さい」「ちょっと待て」
「志月ちゃん、お母さんね、再婚することにしたの!」
ある日突然、お母さんからはそう言われた時は心臓が止まるかと思った。
男の人と付き合っているなんて話、一切聞かなかったから。
でも、お母さんには5歳で別れてそれから12年間、シングルマザーとして育ててくれた恩がある。
そのためにも、お母さんには幸せになって欲しかった。
新しい家族になる人は、優しくて良い人だった。
普通、前の男との娘なんて邪魔な存在だと思うのだが、親切にしてくれて邪険に扱われなかったことには驚いた。
向こうもうちとほとんど変わらないらしく、10年前に離婚してそれから男やもめ状態らしい。
彼には息子が1人いて、息子も義父と同様に優しかった。
色素が薄い琥珀色の髪に同色の瞳。
顔立ちは整っていて、いわゆるイケメンというやつだ。
学校ではその容姿のせいで有名で、女子たちにはかなりモテるらしい。噂ではファンクラブがあるんだとか。
芸能人でもないのに、凄いものである。
歳は私より1つ上で、18歳。受験も控えた高校3年生だ。
彼のことを聞いた時は、そんな歳頃の男女が一つ屋根の下で一緒に暮らすなんて____!
という妄想をしてみたが、大丈夫だ。まだ襲われてないし、一向に襲われる気配もない。
だけど、一瞬でもそんな妄想をしてしまった私はバカだったと断言出来る。
「お願いします、志月ちゃん! お義母さんを俺に下さい!」
「だから、断るって言ってるでしょう! 目立つから道路のど真ん中でそういう発言しないでくれますか!? 土下座も今すぐやめて下さい」
一緒に暮らして分かったことがある。
______ この義兄、変態だ、と。
切月蓮。
1週間前までは赤の他人と思っていた、私の先輩兼義兄。
イケメンながらも、女子との噂は全くと言って良いほど流れておらず、いつも一緒にいる友達とホモ疑惑まであったお方である。
だが、彼は単に同年代の女子に興味がなかっただけであり、普通に女性を恋愛対象として見ていた。
30から55歳の、熟女と人妻を。
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「蓮様ってさ、女の子と一緒にいるの見たことないよね」
切月蓮という人間の存在を知ったのは、親友の綺が言った一言だった。
今なら言えることだが、この学校のイケメンや美少女は校内レベルで有名であり、むしろ知らない私の方がおかしかったらしい。
だけど、そんなのに興味がなかった私は、当然のように彼を知らなかった。
「蓮様?」
「ん、あ、そっか。志月はそういうの興味ないもんね。ほれ、これだよ」
目の前でジュースを飲みながら、どこかから立派な装丁が施された分厚い本を取り出した。
表紙には、どこかのアイドルのようにかっこいい1人の男がポーズをとっていた。
「へー、凄いね。歌手? モデル?」
「え? ………… あっはっは、違う違う。蓮様は、一般人。ていうか、3年のあたしたちの先輩だよー」
染めているとしか思えない琥珀色の髪。
顔立ちが多少、日本離れしているが、もしかしたらハーフなのだろうか。
この高校、染めるの禁止だし3年間もいたら、絶対にばれるだろう。
「ハーフか何か? 何で一般人がこんな芸能人みたいな写真集出してるの」
「そうそう、ハーフハーフ! イギリス人のお母さんなんだって。写真集は、出処は分かんないけど、ファンの誰かが隠し撮りしたのを数ヶ月に1度くらいの頻度で、出してるらしいよ?」
「いや、それ肖像権の侵害じゃないかな……」
こともなさげに言うけど、立派な法律違反だよ、綺。
綺から渡された写真集をめくると、確かに目線がこちらに向いていなかったりする。
でも、撮り方は上手で、全くブレている写真がない。これを発行した人間は写真部の人か何かなのだろうか。
それにしても表紙は、バッチリカメラ目線だし、よくこんなの撮れたな。
「それで、綺はその蓮様とやらには女の子と一緒にいて欲しいの? 好きな人なら、普通、逆じゃないのかな」
写真集まで持っているということは、綺はこの人が好きなのだろう。
芸能人何て手が届かない存在ならともかく、先輩らしいし。
さっきの綺が言っていたことが本当なら、彼女持ちではないだろうし、付き合える可能性はある。
だが、綺は私の言葉を軽く受け流した。
「いやー、好きな人っていうかさ。何だろ、アイドル、みたいな? そりゃあ、本気で好きな人はたくさんいるだろうけど。あたしの場合は、蓮様は遠くからひっそりと見てた方がよくて。志月だって、好きな芸能人と恋人になりたいー、とか思ったりする?」
「私は、テレビとかそんな見ないからよく分からないけど、多分、そういうことはしたくないと思う」
何となく分かる綺の言葉に同意すると、綺は顔を輝かせて何度も首を上下に振った。
どうやら、嬉しいらしい。
それからお昼休みが終わるまで、散々蓮様の情報を聞かされ、解放された。
今夜の夢は、もしかしたらぬ蓮様かもしれない。
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「志月ちゃん、お母さんね、再婚することにしたの!」
「………… え」
帰宅してからも、何故か頭に浮かんでくる決めポーズドヤ顔の蓮様を追い払いつつ、仕事先から珍しく早めに帰ってきた母と夕食を食べていると、いきなりこんな爆弾発言をしてきた。
「…… 再婚って、あの、再婚?」
「そう、あの再婚!」
ぽわぽわとした雰囲気を身にまといながら、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
______ ああ、その人が本当に好きなんだな。
私が何となく悟ったのを分かったのか、お母さんはそれでね、と続ける。
「本当に良い人なの。切月享さん、って言うんだけどね。お母さんの会社の取引先の人で、同い年なの。2年前くらいから時々、食事に行ってたりしたんだけど。ついにこの前、プロポーズされちゃったの! 向こうにもお子さんが1人いて、志月ちゃんより1つ上の男の子なんですって。それで…… 志月ちゃんさえ良ければ、なんだけど」
「____ うん。私は、良いよ。お母さん、結婚、おめでとう」
お母さんは、30歳で私を産んで、私が5歳の時に、私の血縁的な父と別れた。
まだ幼かったので、父の記憶はぼんやりとしか残っていないが、かなり酷い人だったことだけは覚えている。
顔立ちだけは整っていたせいで、かなりの女性からモテていたため、愛人の2、3人は当たり前だった。
というのも、お母さんとはいわゆるデキ婚だったらしく、別れる時も一方的だったらしい。
それからというもの、お母さんは男を見る目は厳しくなった。今でも20代かと疑いたくなるその綺麗な容姿で、男からたくさん言い寄られていたらしいが、相手の本質を見て判断していたらしい。
だから、そのお母さんが好きになった人なら、決して悪い人ではないのだろう。
「ありがとう、志月ちゃん!」
______ 私は、その時のお母さんの笑顔を決して忘れることはない。
「それでね、志月ちゃん。今週の日曜日に享さんの息子さんと志月ちゃんの顔合わせみたいな食事会があって、結婚式は3ヶ月後を考えてて」
「お母さん、私の返事とかあんまり考えてなかったよね」
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「初めまして、切月蓮です」
「どうも、藍原志月です」
あ、蓮様だ。
私が義兄となる人物を見た時、思ったことはまずそれだった。
日曜日。
高級ホテルの最上階にあるレストランの個室へ通される。
高級レストランの個室っていうと、お金はわんさかかかるだろうし、お母さん、良い男見つけたな。
窓の外から見える夜会にへーほーと関心していると、部屋に2人の長身の男が入ってきた。
染めていないと思われる栗色の髪の壮年の男性と、彼よりも更に薄い髪色の青年が1人。
その琥珀色の青年の方はどこかで見たような気がして、うんうんと脳内でうなりながら食事の注文をしていた。
社交辞令も終わり、食事が運ばれる間に簡単な自己紹介タイムとなり、まず親からとほとんど相手の子供にするようにしていく。
そして、子供の番になり、ついに琥珀色の青年が口を開いた。
「切月蓮です。父がお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ迷惑かけっぱなしで〜」
「とんでもありません、お義母さん。…… 志月ちゃんとは同じ学校なんだけど、もしかしたらすれ違ったりしてね!」
そうだ、蓮様だ!
あのモテ男で、肖像権の侵害されてた!
綺からは結局、名前しか聞けてなかったけど、そうか、苗字、切月っていうのか。
ということは、私、3ヶ月後から藍原志月ではなく、切月志月か。
苗字が変わるって今まで経験したことないから、何だか新鮮だ。
「あはは、そうかもしれませんね。…… 藍原志月です。よろしくお願いします」
いや、あなためちゃくちゃ有名ですが、などとは言ってはいけない。
この反応から見る限り、これは本人無自覚タイプだ。
多分、鈍感なのだろう。
異性からの告白も、告白と受け取ってなかったりするんだよな、こういう人は。
でも、義父となる享さんが優しそうな人で良かった。
これなら、安心してお母さんを任せられる。
蓮様も見た目通り、性格もイケメンだったし、私の義兄となるには勿体ないくらいだ。
______ でも、そんな私の考えは、3ヶ月と半月後にガラガラと崩れ落ちた。
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お母さんが享さんと結婚すると言ってから、3ヶ月と半月が立った。
結婚式は身内だけの静かなものだったが、お母さんたちは幸せそうだった。
私とお母さんは、結婚して苗字が切月になると、元に住んでいたマンションを引き払って切月家に住むことになった。
家は、高級レストランの個室を取れるくらいなので大きいのかなー、とか考えていたら案の定、そうだった。
高級住宅街にある3階建ての洋風な家で、初めて見た時は思わず感嘆の声を上げてしまいそうになった。
享さんは、外資系企業の幹部候補で、それならお金持ちなのも納得だ。
海外出張が多いらしく、今日から1週間、アメリカらしい。
仕事のせいで、まだお母さんと新婚旅行が出来ていないと嘆いていたが、来月あたりに大きな休みを取るそうな。
ラブラブですな。
「ただいまー、ってあれ」
お母さんは、先月、会社を辞め、専業主婦となった。
享さんの意向らしく、お母さんに言い寄る男をなくすため、だとか。
本当にラブラブですな。
だから、学校から帰宅すると家には絶対にお母さんがいるわけなのだが、1階にあるリビングには誰もいない。
いつもは、リビングでテレビ見るなり、編み物したりしているのだが。
買い物にでも出かけたのか。
いやでも、昨日買い出しに行って、1週間分の食べ物の材料は買ってきたって言ってたし。
「お母さんー?」
2階に上がるが、やはり誰かいる気配がない。
やはり、買い物ではなくともどこかに出かけているのか。
だけど、玄関には普段お母さんが出かける時に使っている靴があったから、3階なのか。
いるならいると、返事をして欲しい。
「おかあさ…… え!?」
3階のお母さんたちの寝室の扉を開け、部屋の中を確認する。
普段なら、そこでテレビや読書をしているお母さんが満面の笑顔で出迎えてくれたのだが。
______ そこで私が見た光景とは、今にもお母さんに押し倒しそうな義兄の姿だった。
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「寿々子さんはいわば、絶望に満ちたこの世界に舞い降りた女神だ。彼女に触れることすら俺には出来なかったが、そんな俺を彼女は笑顔で触れさせてくれた。それは、一目惚れだったんだ。ああ、背徳の神よ……!何故彼女は俺の母親なのだ! 決して叶わぬこの恋……! だが、それも良い! だから、志月ちゃん、お義母さんを俺に下さい、幸せにするから!」
「ありえません、断固お断りします」
あらあら〜、とほんわかした雰囲気で何が起こったのか分からないというお母さんから義兄を引っぺがし、ずるずると引きずってリビングで事情を説明させた。
よく分からない気持ち悪い賛美の言葉を言っているがようするに、3ヶ月前の食事会の時にお母さんに一目惚れしたらしい。
義兄はいわゆる、熟女好きというヤツで30歳から55歳までの大人の色香を漂わせた女性が好きらしい。
人妻だとなお良いとか。
だから、この人はモテるのに同年代の女子高校生との噂がまったくなかったのか。…… いや、私、何納得しているんだ。
「お義兄さん、私は、絶対許しませんからね! 別に熟女が好きなのは良いんですけどね、よりにもよってお母さんはないでしょう、お母さんは! お義父さんがやっとのことで好きになった相手なのに、それを横からかっさらおうなんて、最低ですね」
「で、でも、好きになる順番は関係ない! 重要なのは、相手が誰を選ぶかだ! さっきの押し倒そうのしたのだって、本当に嫌なら拒否しているはずだよ!」
「残念ながら、お母さんはお義父さんを選びました。後、悪いですけどお母さん、凄い鈍感ですからね。さっきのは、ただ親子の仲を深めるくらいにしか思ってないですから。あー、ご愁傷様ですね、本当に!」
「何かそれ、イライラするね……!」
イライラさせているのは、自分でしょうが。
何なんだ、お母さんが好きって。
この人の常識を疑う。
熟女好きなのは良いが、お母さんはさすがにない。
10年も1人で育ててくれて、やっとのことで好きになった人のことをだぞ!?
好きになるのはまだ良い方だけど、それを心に秘めておこうともせずにアプローチをかけるなんてありえない。
「それに、何故私に話すんですか! いや、話してくれた方が良いですけど!」
「………… フッ、志月ちゃん、俺だって学ぶんだよ」
「うーわー、何かその態度こそイラっときますね」
哀愁を含んだ切なそうな吐息を漏らし、ゆっくりと前髪をかきあげる。
私は怒気を含んだことを、鈍感男の義兄にも分かるように告げる。
「今の話を聞く限り、寿々子さんには俺の気持ちを理解してもらうには長い時間が必要ときた! それも良いけど、俺としては早く彼女と想いを分かち合いたい。なら、まずは外堀から埋めようと思ってね!」
「最初は、実娘の私からってことですか! お義兄さん、最初の外堀から埋められませんからね。私、絶対許しませんからね」
「志月ちゃんにもいつか分かる日が来るさ!」
「ご心配なく、一生分かる日は来ませんので!」
私は絶対に許さない。
お母さんが義兄を好きならともかく、ただこの人が横恋慕しているだけじゃないか!
そんなの、絶対にありえない!
____________________
あー、まだイライラする。
今朝だって、普通にお母さんや私に挨拶してきた。
それに、昨日の件どう、なんて笑顔で聞いてきたのだ。
義兄、私は絶対に許さないので大丈夫ですよ。
でも、もう1日も立っているのにまだイライラが収まらないってよっぽどの怒りだな、私……
家に帰ったら、またあのマザコン男が笑顔で待っているのか……
これまで家に帰りたくないと思ったことはない。
寄り道でもして帰るか。うん、出来るだけ遅く帰ろう。
切月家がある高級住宅街に面している、少し値段がお高めな商店街へと入る。
庶民的なお店ではなく、どこかのブランド品とかが売っているお店ばっかりで、街路樹や石畳の地面がおしゃれなところだ。
いくらお金持ちの切月家に入ったって、庶民の感覚は抜けない。ウィンドウショッピングだけでも楽しいのだ。
それに、あの義兄が少しでも関わっているお金は嫌だ。
いや、亨さんは嫌じゃないけど。良い人過ぎるけど。普通に好きだ。
だけど、義兄だけは嫌いだ!
少しでもこのことを考えるのをやめようと、好きな雑貨屋に入ろうとする。
すると、3軒先にある写真スタジオから、あろうことか私が今最も恨んでいる相手______ 切月蓮が出て来た。
同じく、彼を取り囲むようにして出て来た見目麗しいマダムたちに頬に口づけやハグなどをしている。
………… そういうことか。
「______ お義兄さん」
義兄と抱き合っている、黒髪の胸元をバッチリと開いたドレスを着ている40代くらいの女性は、私を見るとくすりと笑う。
その笑みに私が立っている方に顔を向けた。
私に気付いた義兄は、満面の笑みを浮かべると大きく手を振った。
「ああ、志月ちゃん! 家と学校以外で会うなんて珍しいね!」
「………… お義兄さん」
私は自分でも分かるような冷淡な声で話しながら、ゆっくりと義兄の方向へ歩いて行く。
抱き合っているマダムは、私を見て「捨てた女ぁ?」などど言っていた。
…… そういうことだ、お母さんを好きなんて言っておいて、あまつさえ女遊びまでしていたのか。
お母さんも、その中の1人でしかなかったのだ。
私に見つかったことにも罪悪感も抱かずに、平然と女と抱き合っている。
「______ 死んで下さいって言っても文句言えないくらい、最低ですよ」
「……………… え?」
パァンッ
私が義兄の頬を平手打ちした音がその場にこだまする。
義兄は今起こったことが分からないのか、真っ赤になった頬を触りながら、抱き合っていたマダムから手を離し、呆然と立ち尽くしている。
「お母さんを好きになるのは、あなたの勝手です。でもそれを、お義父さんや周りの人の迷惑になるのにも関わらず、平然とアプローチして、挙句の果てには他の女にも同じようなことですか。お母さんは、その中の1人ですか。ただの、あなたのハーレム構成要員ですか。____ マザコンって言われても仕方ないですけど、私はお母さんをあなた何かには絶対にあげませんから」
義兄を睨みつけると、小さく礼をしてから踵を返す。
大股で歩きながら、義兄に対する怒りをぶちまけたいのを必死で抑える。
後数時間したら、またあの義兄と会わなきゃいけないのか____
叫びたいのを我慢しつつも、私は大きくため息をついた。
____________________
「志月ちゃん、これを見てくれるかな」
「………… 何ですか」
最悪の夕食が終わった後、部屋で居眠りをしていた私は、トントンというドアをノックする音で目覚めた。
ドアを開けると、1番話したくない相手である義兄が立っていた。
話くらいは聞いてやろうと、部屋に入るように促す。
それに少し驚いたように目を見開いた義兄だったが、すぐに部屋に入ると隅にあった1人掛け用ソファに座った。
「麗子さんたちのメールアドレス、一斉消去したから」
「………… は?」
彼からスマートフォンを奪い取るようにして画面を見ると、確かに女の人と思わしき名前はお母さんと私くらいしかない。
麗子さん、とはさっき抱き合っていた女性だろうか。
「写真を撮ってもらうのも、やめたから」
「…… 写真!? あの、少し説明していただけますか」
義兄はコクリ、と頷くと口を開いた。
「志月ちゃんも知ってるかもしれないけど、俺の写真集が出回ってるのは知ってる?」
「知ってますよ。盗撮の割にはやけに、撮りが良いアレですよね」
かなり前に綺が見せてくれたあれだ。
あの時は盗撮なんてされて可哀想だと同情したが、今はそんな気持ちは一切わかない。
むしろ、盗撮されても文句は言えないくらいには最低だ。
「実はあれ、盗撮じゃなくてちゃんと俺が撮ってもらってたんだ。盗撮に見えるくらいにはカメラ目線じゃない様に」
「………… はい!?」
義兄の曰く、あれは自分がモテていることを知っていた義兄がお小遣い稼ぎにでもなるかと写真集を出したらしい。
だから、表紙があんなカメラ目線だったのか。中身は自然に盗撮すきで、見破れなかった。
というか、自分がモテている自覚があったのか。
じゃあ、今までの食事会や学校でのは全て演技だったっていうことか!?
まんまと騙された……!
それで、数時間前に抱き合っていた女性は写真集の表紙を撮る時にいつも使っているスタジオのオーナーらしい。
何でも海外帰りらしく、アメリカ流の挨拶を普段してくるらしい。割引きやらと色々よくしてもらい、更に熟女好きな義兄からしたらそんなのは断れないわけで、毎回あんなことをしているのだとか。
同年代には自覚あって、熟女にだけ鈍感とかどんだけだ……
海外でもそんな挨拶なんてほとんどしないし、例のマダムが義兄に好意を持っているのは明らかだ。
「志月ちゃんに言われてハッとしたんだ。いくら麗子さんとはいえ、好きでもない相手にあんなことをするのは失礼だよね。だから、好きな相手に真っ直ぐにアプローチすることにしたんだ」
「………… え?」
ちょっと待て。
悪い予感しかしない。
今の話だと、私に気付かされてお母さんを諦め、ちゃんとした普通の人と恋愛するとかじゃないのか。
「俺は、寿々子さんだけを愛している!」
____________________
それで、まずは外堀から埋めようと義兄は毎日私に土下座やら色々な方法で許可を取っている。
そんなことが日常になりつつあるのが怖い。
「お願いします、志月ちゃん! お義母さんを俺に下さい!」
そんな時は、ハッキリと言ってやるのだ。
「絶対許しませんからね!」