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銀はかつて貴重な金属だった。


通販で仕入れた、シルバークレイから作ったペンダントトップに呪刻を施す。


ルーペを嵌めならがら、一言一言慎重に。


一言でも間違うと、気紛れな神様はそっぽを向いて、

加護をくれないかもしれない。


慎重にしかし、大胆に。


かつての人生で飽きるほどやって来た作業を繰り返す。



過去、自分の記憶の内にあるおぼろげな過去を思い出す。


銀は貨幣としても使われていたが、

貴金属としての価値以上にかつての自分たちには、

闘う為の武具としてとても魅力的だった。


銀に内包された、陽の力は、陰の気を払う強い力がある。



銀の小刀、鏃、呪いに使う祭具。



もし、今のように潤沢な銀が手元にあれば、

都の半分を屍鬼に占拠されるような無様なことにはならず、

もしかしたら最期の戦いを勝利で飾れたのかもしれない。



「アンデット系に単純物理攻撃だけって、やっぱ無理げーだったよな・・」


「え?何?」



過去共に闘った兵たちのあまりにもみすぼらしい装備を思い出し、

ため息をつきつつ、目の前の依頼人に何でもないと告げる。



2年4組、山田京子 16歳。


見た目、ギャル。


まるで外国人のようなパッチリした目はきっとメイクで三倍ぐらいに盛っているのだろう。



制服は改造して見る影も無く、スカートは標準より10cmは短い。


座ったときに、チラッと見えた映像はしっかり脳裏に刻み込んである。



正直、度派手なメイクが無ければ結構好みかもしれない。まぁ、メイク取ったらバケモノかもしれないが。



本日の依頼人である彼女は、茶色に染めた髪を掻き揚げながら、不安そうに、そして不審そうにこちらを見ている。



「模様を刻んで、お清めすれば終わりだから、後30分くらいかな?」


「ホントに、そんなアクセで悪夢がなくなるの?」



不安そうに癖なのか肩まで伸びた髪を何度も掻き揚げる。



「大ジョブ大ジョブ。きっちり、破邪の印を刻んでおくから、そこいらの心霊現象なんざ目じゃないよ。」



にっこりスマイル。


霊障ヤマイは気から。


お客を安心させる笑顔は、商売人の必須スキルである。



最後の一文字を入れ、ルーペを外して伸びをする。


凝った首をくるくる回しながら、周りを見渡す。


目の前の席に座ったギャル。


閑散とした学食の長方形の無機質な机。


その上に散ばる商売道具達。


そして机の上に置かれた三角プレートには、

「占い・霊症・よろず相談お受けします。30分1000円から」の文字。



何時もの放課後の日常である。


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