無音と声と鐘の音と
霊が見える私は、私が霊を見る事ができるのを知られないようにして暮らしてました。
私は、26歳(女性)会社員です。
職種は、とある食品加工会社の営業で、その為に日本のあちこちへ行く機会が多いのですが、私はそうした仕事を会社の予算を使わせてもらって旅をさせてもらえてるとも思って楽しんでいました。
突然ですが。
皆さんは、自分の直ぐ近くに音も無く人が現れたら驚きませんか?
町中や人混みでならともかく、それが静かな場所だったらどうでしょう?
そんな時、大抵の人は「近くまで気が付かなかった!」とか、「足音を消して近付いたの?」とか、或いは「存在感の薄い人?」とか思う事もあるではないでしょうか・・・?
かく言う私も驚きます。
でも、その驚き方は先程のパターンとは少し違ってます。
いや。
違ってる場合があると言った方が正しいかも知れません。
違ってる場合・・・。
それは『この人は死んでいる』と、気付いた場合です。
それは、何度経験しても慣れません。
突然、目の前に現れた人に普通に驚いた直後。
『あの人は幽霊なんだ』と、もう一度驚く訳ですから・・・。
ただ、そんなふうに出会い頭に驚くのは、驚くだけで終わるので、まだ良い方です。
時に、この驚きの後に不安と恐怖が付き纏う事があるので厄介なのです。
簡単に言うと『付き纏われる』危険があり、更に酷い時には『憑かれる』事があるからです。
今は肉体を持たない霊となってしまった彼らは、普段は誰にも見られません。
『誰にも見えないから、誰にも見られる事が無い・・・』
彷徨える霊は、自分が他者から見えてると思える人を見付ける事は稀なので、彼らは自分の思いを誰にも訴える事が出来ない状態に長く置かれてる場合が多いのです。
それはつまり、自分の存在が見えてる人に出会える事は稀なので、そうした人を見付けたら、高い確率でその人の側に来て何かを訴えようとするのです。
だから、そんな霊達に絡まれたり、付き纏われたり、憑かれたりしたくない私は、普段から『彼らを見えてる事に気が付かれないようにして過ごしてる』のです。
死んだん後になっても、あの世へ行かずに、幽霊となってこの世に留まってるのは、本当は良く無い事です。
成仏した霊が、命日やお盆に帰省してるのとは、プロセスも意味も全く違うのです。
宗教家でも無い私が、そうした考えを持つようになったのは、それなりの意味があります。
それは、数多くの霊達を見てる中で、先のように努力しても取り憑かれた事があるからなのです・・・。
死後もこの世を彷徨う幽霊には、いくつかのパターンがあります。
死後直後で自分が死んだのが理解出来てなかったり、この世に対しての少しの未練や、生前にお世話になった人達への挨拶回りをしてる霊。
これは、こちらに厄介事を持ち込む事はほぼ無いので、安心安全な霊達です。
霊感が殆ど無い人が、それでも一生に一度の霊体験をするとしたら、こうした身内の霊との出来事が多い筈です。
それは時に、虫の知らせや、夢枕に立つとか、人影を見るとか、或いは、ちょっとした手違いや不可思議な切っ掛けで物が壊れたり、ひび割れたりするとかです。
次に危険度が低いのは、死んだ事に気が付いて無い霊です。
先の亡くなってから月日が経ってない霊にも、そうした霊が居るのですが。こちらで言う霊は、数カ月から数十年に掛けて『自分が死んだ事に気が付かずに、生前の生活習慣を繰り返してる霊』だという所が違います。
生前住んで居た部屋や自宅。通い慣れた学校や、職場。繁華街や飲み屋などの娯楽の場などに居る事が多いです。
こうした霊達は多くは無害ですが、たまに悪霊に取り憑かれ、有害になるのが居るので厄介です。
霊は生きた人だけでは無く、死者の魂にも取り付き、取り付いた魂を悪い道へと誘い込んだりもします。
それは、生きてる人の中に居る悪人と変わらないと言えるのかも知れません。
そして、一番厄介なのは、皆さんもどこかで聞いた事があると思いますが、地縛霊と言われる霊達です。
地縛霊とは、その文字が示すとおり『その場所に縛られた霊』の事ですが、実際は縛られてのでは無く、自ら縛って居るとも言えます。
地縛霊の多くは、最終的には悪霊化して、更になる犠牲者を呼び込むので危険です。
そして、見える私にとっても、これが一番厄介であり、そして恐ろしい存在なのです。
地縛霊となった霊の多くは、そこで過去に起きた事件や事故に巻き込まれて死んだ人か、自殺者です。
自分に起きた突如の不幸や惨劇を受け入れられなかったり、その時の苦しみに囚われてしまい、自分の霊をずっとそこに縛り付けてしまうのです。
自殺者の中に地縛霊が出るのは、死ぬ寸前になってから、後悔し、生への執着が強烈に沸き上がるからです。
死にたい!死にたい!とか、死ぬしか無いと思い込んでたのに、死ぬ瞬間になって「死ぬ気になれば、もっと頑張れたのではないか?」と気付き、しかしもう手遅れになってしまい、深い後悔をしたまま亡くなり、その後悔が現世への執着となって地縛霊となってしまうのです。
そうして、地縛霊となった者達は、まだ続いてた筈の自分の人生への固執や、死に至った自分の苦しみへの理解を求めるのですが、それを聞き届けてくれる者が誰も居ないという状況に置き去りにされ続け苦しみ、その寂しさや悲しさ、怒りや憎しみが、時に無関係な人への逆恨みとなるのです。
それは死者による生者への羨みが憎悪へと変化したものなのでしょう。
そうした地縛霊が一体居るだけでも、かなり厄介ですし、それが自分の生活圏の近くだったら尚更ですが、悪霊となった地縛霊は、時に徒党を組んでるので更に厄介なのです。
それは、柄の悪い人が仲間を増やして、更に世間に迷惑を掛けるのに似てる部分もあります。
そして、そうした仲間に入ると、簡単には抜けさせないというのも似てるといえます。
そうした悪霊の吹き溜まりとなってしまった場所は、地縛霊が更に悪霊を呼び込んで自分達の縄張りを強化し、更には生者を事故や自殺で死なせて仲間に引き込んだりするので、最終的には一般にも知られる危険な場所となるのです。
私は、そうした場所が視界に入ったなら遠くからでも分かるので、自分からは絶対に近付かないのですが、それでも仕事や用事の都合で、そうした場所に近付かない訳にも行かない事もあるので、そうなった時には、兎に角、何かしらの理由を付けてその場との距離を取るか、霊が見えてても素知らぬフリを通します。
それはそれは冷や汗ものですが、今までの私は、そうして危険を避けてきたのですが・・・。
「あんた・・・。俺が見えてんだろ?」
私は思わず「え?」っと、声をあげて反応してしまいました。
夜の9時過ぎ。
仕事の都合で出張で来た見知らぬ町外れの人気の無い夜の帰り道、ポツリ、ポツリ、と続く街灯の下を、蒸し暑い夏の夜風に吹かれながら歩く私は、突然、音も無く追い越した男性らしき人影に驚いたのもつかの間、その人影は突然立ち止まると、音も無くスッと振り向き、そう言ったのです。
それはさっき迄の蒸し暑さを消し去るには十分でした。
一瞬で辺りの空気が凍り付く程に下がるのを感じました。
これは決定的な不幸の始まりだと、私は確信しました。
目の前に現れた男の行動は、私に見えないフリをさせない為の行動に思えたからです。
私は、本当は走って逃げ出したいのですが、身体が硬直して動けません。
「なあ?・・・見えんだよな?」
そう言って私の前に立つ男の霊と目を合わせてしまった私は、恐怖で顔をうつむかせながらも、目の端で男の霊の服装や顔を確かめようとしました。
男の霊は、着古してよれた感じの濃い灰色のスーツ姿で、ジャケットのボタンは全て開けられ、その下には襟の上から3つ目のボタンまでが閉じられて無い、白いワイシャツが見えてました。
それで私は(この霊は夏に死んだからクール・ビズなのかとも)と、思いました。
それから恐怖を抑え込みながら更に視線を走らせると、男の幽霊の右手には、紺色に見えるネクタイがダラリと握られてるのが見えたのです・・・。
私の視線に気が付いたのか、幽霊はネクタイをズボンの右のポケットにしまい込みながら「毎日、暑いよな」と含み笑いを混ぜ込んだ口調で言いました。
男の霊のそんな行動を見た私は、背筋がザワッとするのと同時に、冷たい汗が背中に浮き上がり、背筋を伝って流れ落ちるのを感じました・・・。
確かに今日も、夜になってもまだ暑いですが、この霊が夏だけここを彷徨いてるとは限らないと私は思いました。
とても情念の強い霊なら、冬でも出る事もあるからです。
成仏してる霊なら別ですが、この世をさ迷ってる霊が正しく季節を理解してるとは限らないのを、私は少い経験から知ってました。
情念の強い霊・・・。
(地縛霊・・・)
そう思った私は、どうやってこの場から逃げようかと考えてましたが、同時にこの霊は、何を訴えたいのだろう?とも思ってました。
「ずっとさ。寂しかったんだよ。俺」
男の霊はそう言うと「少しでいいから、俺の話を聞いてくれないかな?」と、さっきまでとは打って変わって淋しげな声で話しました。
「立ち話ってのも落ち着かないからさ。直ぐそこの公園のベンチで話を聞いてくれないかな?」
男の霊はそう言うと、固まって様子を窺う私の顔を覗き込みながら無言の圧力で私を誘いました。
「はい・・・」
それが、本心では、この場から逃げ出したい私の返事でした。
男の霊は、私の返事に満足した笑みを浮かべると、私に背中を向けてゆっくりと歩き出しました。
私は、その後を付いて行きながら、誰か来てくれないかと思って通りの向こうに人影を探してました。
男の霊は、そんな私の行動を察したのか「この時間になると、この辺りは滅多に誰も来ないから、俺は良く公園のベンチで涼んでるんだ・・・このクソ暑いのに部屋はエアコンが無いからさ。地球温暖化ってヤツなのか知らねえが。今どき部屋にエアコンが無いなんて、夜も眠れなくて死じまうっての・・・なあ?」
言い終わった男の霊は、突然、私の方へ振り向くと「そう思わないか?」と私に聞きました。
私は「え?」っと、驚きを隠せずに答えると「そう・・・ですね」と、付け加えるのがやっとでした。
男の霊は「だよな。分かってんじゃん。あんた」と言って、ニヤリとしました。
それは気持ちの悪い笑顔でしたが、私は男の霊を怒らせると危ないと思ってたので、その思いを表情に出さないようにしました。
すると男の霊は、そんな表情のまま「ここだよ」と言って顎を右にしゃくり、私の視線を誘いました。
私がそちらを見ると、公園の入り口がありました。
来たことも調べた事も無い公園だったので、この公園の大きさが分からなかった私でしたが、小さくは無いだろうと思える木々が立ち並んでるのを見て、中程度以上の広さはあるのだろうと思いました。
それは、今居る小道よりも、更に人が来ないだろうと思えましたので、私は入るのを躊躇しました。
男の霊は「ここなら、ゆっくり話を聞いてもらえると思ってさ。なあ?聞いてくれるんだろ?」と言うと、私の返事も聞かずに公園の入り口に向かって歩き出しました。
嘘でも約束をしてしまったからでしょうか。
それとも、今逃げても、逃げられないと思ってたからでしょうか。
私は黙って男の霊の背中を見ながら、付いて行ったのです。
公園内は整備された草木と、歩道、そして、所々に街灯がありました。
男の霊の姿は、明かりの強い所では薄くなり、向こうの景色が透けて見えました。
私は、そんな不思議で不気味な光景を他人事のように眺めながら(やっぱり。この人は死んでるんだ・・・)と、改めて思いました。
「ここが俺のお気に入りなんだ」
男の霊はそう言うと、一つのベンチの前で立ち止まりました。
とても薄暗い場所にあるベンチだったので、私は男の霊に言われるまで、そこにベンチがあるのが見えてませんでした。
男の霊はベンチに座ると「あんたも座んなよ。話を聞いてくれるんだろ?」と、言ってベンチに座ると、自分の左側の座面をポンポンと叩きました。
催促された私は、誰かが通り掛かるのを待つ為の時間を稼ごうと思い、そこに座る事にしました。
例えそれが、とても薄い希望だったとしても、今はその可能性を信じるしか無いと思ったのです。
隣に座った私を見た男の霊は「あんた。いい人だな」と言うと「へへ・・・」っと笑いました。
私は、身を固め辺りに人影を探してました。
「何でか知らんけど、なかなか誰も俺に気付いてくれなくてさ。それで、何時間もあそこに居たんだ」
私は、身じろぎも出来ませんでした。
そして彼の言う『何時間』は、実際は何年もの事なのかも知れないと思ってました。
すると男の霊は急に早口で「そうしたら、アンタが俺と目が合ったからさ!だからアンタには俺が見えてんだって思って!それでホッとしたんだ・・・。これで、やっと自分が何で他人から無視されてんのかを相談できる人が居たって思ったんだよ!しかも、その人が良い人でさ!こんな俺の誘いに応じてくれてさ!そして・・・。そして、こうして・・・人気の無い公園のベンチの隣に座ってくれて。俺の話を聞いてくれて・・・」と、早口だった男の霊の言葉は、途中からゆっくりと含みを持たすような言い方になり。そこから前屈みになった男の霊は、顔を下に向けながら肩を震わせるとクスクスと笑い出しました。
私は恐怖から、無意識に大きく息を吸ってました。
そして次の瞬間、男の霊は私を斜め下から見上げ「しかも、それが・・・なかなかの、俺好みの女だってんだからな・・・」と言って、尚もクスクスを不気味な笑いを見せたのです。
私には、それは笑いを押し殺そうとしても押し殺せない笑いにしか見えませんでした!
(もう!無理だ!!)
追い詰められ、そう思った私は、ベンチから立ち上がり走り出そうとしました!
しかし、その直後!
私の右手は、男の霊の左手で掴まれたのです!!
それはとても強い力でした。
そして、それよりも私を恐怖させたのは、その冷たさでした。
掴まれた右手から、全身の体温が奪われるような感覚が私を襲いました。
本能的に男の霊の顔を見ると、引きつった笑いを浮かべて、目を見開いて私を睨み「アンタだって、俺に何かを期待したから、こんな所まで付いて来たんだろ?なあ!!」
男の霊はそう言うと、ジャケットの右のポケットから、しまい込んでたネクタイを取り出しました。
「俺は、生きてるより死んでる方が好きなんだよ・・・。だからアンタも俺が好みならさぁ・・・!」男の霊は、そういいながらネクタイの端を右手で持って、私の目の前にダラリとぶら下げると、ゆっくりと距離を詰めました。
そして、腰が抜けたようになり立ち上がれずベンチで身を固めてる私を睨みながら、男の霊は引きつった顔を唇が触れる程に近付けてきたのです。
私は恐怖と嫌悪感から目を閉じたかったのですが、同じ理由で目を見開いてました。
すると急に、男の霊は私の耳元に口元を寄せ言ったのです。
「だからアンタも死んでくれ!」
(殺される!!)
そう思ったと同時に、私は呼吸ができなくなりました!
男の霊がネクタイで私の首を絞めたのです!!
それは、手慣れてるとしか思えない動きでした。
一瞬で意識が遠のき、薄暗闇に浮かぶ男の霊の姿が白んでいきます。
抵抗しようと両手で男の霊の両手を掴み、脚をバタつかせましたが、直ぐに力が抜けていきました・・・。
私は、自分の軽率な行動を恨みましたが、全ては手遅れだと思いました。
男の霊は「フーッフーッ」っと、荒い息をしてます。
私の手足は脱力してしまい、手はベンチの上にダラリと落ち、脚は閉じる力を失って開き、身体全部をベンチの上に投げ出すように預けてしまいました。
全身の感覚が薄れ、同時に身体を動かそうとする思いも薄れていきます。
それは、痺れていくような・・・冷たくなっていくような、奇妙な感覚でした。
(ああ・・・もうダメなんだ)
男の荒い息づかいと一緒に、辺りの音も遠ざかろうとした時でした。
急に『キーン』と音がしたのです。
それは徐々に大きくなるとかでは無く、いきなりの強い音でした。
強い耳鳴りの様な・・・或いは、誰かが耳元で鐘を鳴らした様な・・・。
初めて聞いた音だと思うのに、ずっと前から知ってるような。
強烈なのに優しくて、それでいてどこか切なげでもありました。
(何だろう・・・この音?・・・弔いの鐘・・・?それとも、もしかして、私のお迎えの鐘の音?)
その音が消えると同時に、私は静寂の中に独り取り残されたようでした。
「居た!ここに居たよ!!」
「大丈夫ですか!?」
男の人の声でした。
同時に身体が軽く揺すられる感覚がしました。
私は、遠のいた意識が少しづつ戻るのを感じ「うう・・・」っと呻くと直ぐに「はぁー」っと、呼吸をしました。
「大丈夫ですか?」
知らぬ間に目を閉じてた私は、もうろうとする意識のまま、薄っすらと目を開けました。
私の目の前には、私の両肩を掴んで私を揺らす見知らぬ男性が居ました。
まだ意識も視界もぼんやりとする中でも、声や話し方などから、その男性は中年ぐらいだと思えました。
「わたし・・・」と、そこまで言った私はゲホゲホと咳き込んでしまい、次の言葉が出てきません。
「大丈夫ですか?苦しいなら救急車を呼びましょうか!?」
男性の言葉に私は手の平を前に出して「いえ・・・大丈夫です・・」と、呼吸を整えながら何とか答えると、違和感を感じてた首の前の方をさすりました。
男性は「ああ・・そうですか・・・取り敢えず良かったぁ・・・」と言って、掴んでた私の両肩を離すと、一歩後退り、私から離れました。
すると男性は、どうして、こんな夜の公園のベンチに一人で居て意識を失ってたのか?と、私に聞くので、意識がしっかりとしてきた私は、この経緯をどう話そうかと迷いました。
それは、私の首を絞めてきたのは男の幽霊ですが、世の中の殆どの人が幽霊を信じて無いし、仮に信じてたとしても、私の作り話だと思われるかも知れないと思ったからでした。
私が答えあぐねて居ると、それまで焦って駆り立てられてられるようにしてた男性は、急に「はぁ・・・」っと溜め息をつき、ホッとした表情になりました。
それは、何か憑き物が落ちた様でもあったので、私もつられてホッとしました。
すると男性は、どうして私の所に来たのかを話してくれたのでした・・・。
男性は、職場での残業を終え、自宅の最寄駅近くの居酒屋で少し飲んでから、徒歩で帰宅する途中だったそうです。
それで男性は、ほろ酔い気分で、この公園から二本離れた通りを歩いてたそうです。
しかし突然、若い女性が誰かを呼び止める声がしたので男性はびっくりし、その声がした方を見たそうです。
そこには、3人もの見知らぬ女性が、自分の方へと掛けよって来るのが見えたので、男性は更に驚いたそうです。
「急いで来て!」
「女の人が向こうで倒れてるの!」
「あっち!直ぐ近くだから急いで!」
3人の女性が自分を呼び止めて急かすのに驚いた男性でしたが、同時に奇妙な違和感も覚えたそうです。
一人は25才ぐらいの会社員の様なスーツ姿。
もう一人は20代前半の大学生なのか、或いは会社員か何か。
そしてもう一人は、高校生らしき制服姿だったからでした。
(こんな時間に、しかもバラバラの年代の女性が、どうして一緒に?)
男性は一瞬そう思ったのですが。
「急いで下さい!」
「早く!!」
「間に合わなくなっちゃうよ!!」
と、女性達に急かされ、今はそんな事を考えてる場合じゃ無いらしいと思って、自分を呼ぶ3人について行ったそうです。
男性は、ほろ酔いでしたが、職場では普段から走る事もあったので、走るのは多少自信があったそうです。
それで男性は、自分を先導する女性達には直ぐに追い付くだろうと思ったそうですが、それが、そうはなりませんでした。
男性が言うには、前を走って自分を先導する3人の女性達の脚は、それ以上に早いとしか思えなかったそうです。
それは、走り始めてから5分ほど過ぎた頃になった時、女性達に追い付こうとしてた男性の息はすっかりと上がってましたが、女性達は一様に疲れる様子も無く、遅れがちになる自分を通りの曲がり角で待ち「急いで!」「こっちこっち!」と呼ぶのです。
そうして男性がその曲がり角に来る少し前には走り出し、角を曲がった男性が追って先を見ると、女性達は驚くほど先に行って、また男性を呼んで急かしたそうで、男性は(どうしてあんな短時間で、あそこまで走れてるんだ!?)と、何度も思ったそうです。
そうして3人の女性達が男性をこの公園の入りまで先導すると、女性達は公園の奥の方を指差し。
「この奥です!」
「ベンチに女性が倒れてる!!」
「急いで!急いで!!」
と、男性を公園の奥へ行かせたのだそうです。
男性が、その指差された方向を頼りに公園のベンチに倒れてる女性を探してると、薄暗がで見落としやすい所にあるベンチにぐったりとした姿で座る私を見付け慌てて駆け寄って「居た!ここに居たよ!!」と、自分を連れて来た女性達の方を見て叫ぶと、そこには誰も居なかったそうです。
一瞬、呆気に取られた男性でしたが、直ぐに私の両肩を掴み身体を揺すって声を掛け、私の意識を引き戻そうとしてくれたのだそうです。
それでも男性は(どうして?あんなに一生懸命ここまで僕を連れて来たのに、あの女性達は近くに居ないんだ!?)と混乱したそうですが、そこで私が意識を取り戻し今に至ったと言うのです。
「しかい、おかしい。あなたを助ける為に僕をここまで連れて来たのに、どこにも居ないなんて・・・」
立ったままの男性は、そう言うと辺りを見回し彼女らを探してました。
彼女らが、目の前に居るにも関わらずにです・・・。
私には見えてました。
男性の後ろに立つ、三人の女性達の姿です。
紺色かと思えるタイトスなカートのスーツに身を包んだ二十代半ばぐらいの女性。
カジュアルな服装の二十代前半ぐらいに見える女性。
そして、セーラー服姿の高校生ぐらいの女性・・・。
それは三人三様の筈でしたが、性別が女性であるだろうと思える他に、共通してる事がありました。
それは。
一様にして、彼女らが私を見つめる目が、安堵と寂しさに満ちてたのと。
首には、青いアザがクッキリと浮かび上がってたということでした・・・。
おわり
私が救われた事で、あの男の霊はともかく、彼女らの霊が救済されるのを私は願って止みません。




