不可思議なバラバラ死体 3
「これはこれはアネモヌン卿。 今日は如何なさいましたか?」
「今日は近くであった殺人について調べ物がしたくて参りました。 黒魔術や呪術的なことを取り扱っている書物はどちらにありますか?」
「あぁそれでしたら制限区域にありますので案内いたします」
教会に着くと馴染みの司祭さんが声をかけてくれたので、心付けを渡しながら挨拶をすると案内してくれた。
穏やかな顔をしているご老人だが、若い頃は退魔師として前線で活躍しながら、聖地たる御山で禁欲の一環で飢餓状態になりながら、魔を祓う荒行をした尊敬できる人らしい。
俺はそのような行為はしてないのだが、転生者ということもあり、結構熱心に教会に足を運んで寄付をしたり、調べ物などに使っている。
宗教というと色々言われたりするが、少なくともこの時代の宗教は人々を生かすための教えや、倫理教育も兼ねているので応援をしている。
そもそも神の奇跡も魔法もある世界で神様に逆らう気はないし、宗教というデリケートな問題は知っておかなければならない。
知識階級の者として知らなかったでは済まされないものがたくさんある世界なのだ。
「存じているとは思われますが、こちらに書かれてある知識は危険なものばかりですので実践なさらぬように」
「もちろんですとも。 そういえば殺人について話していませんでしたな。 よろしければ司祭様の考えをお聞かせ願いたい」
「私などではお力になれるとは思えませぬが私でよければお力になりましょう」
事件概要を説明して司祭が悩んでいる間に、カレウスにはいくつか本を探してもらうことにした。
「うーむ。 私が気になるのはやはり首を持ち去った理由ですな。怨恨による暗殺としては考えにくい。 また鎧を着ていたというなら無差別で、誰でもいいから狙ったということもないでしょう。 暗殺、あるいは民族的な風習があるやもしれませぬな」
「と言いますと?」
「まず暗殺。 これは普通に目的を持って暗殺者が殺害し、その証拠として首を持ち去った。 証拠として顔が分かるのが1番ですからな」
「確かに考えうるものですね。 鎧を着ているのであれば、身分も下民ということはないでしょうから、本人以外の問題で狙われて殺されたなどもありえますね」
「えぇ十分ある話かと。 そして民族的な風習としてですが、部族によれば敵対部族の首を捧げて初めて1人前の戦士となるという野蛮な風潮を持っている民族。 生贄の首を捧げて祈祷をする民族などもおります。 個人的な考えですが黒魔術や呪術で生首を使う場合は専門の知識が必要となります。 その場合ですと生贄が誰でもよい場合が多く、奴隷や子供などの立場の弱き者を狙うでしょうから、このようなことをする可能性は少ないでしょう。 ならばその特定の人物を狙う必要があったのでしょう」
「非常に参考になるお話をありがとうございます。 司祭様のお言葉を踏まえて、資料を拝見していただき、事件のことを考えてみます」
「えぇ早く犯人が捕まることを祈っております」
司祭さんが言うには黒魔術や呪術の可能性は低いのか。
確かに人殺すことが目的なら、わざわざ強そうなやつは殺さないよな。
しかし、呪いたいやつの血縁者の血が必要とかはあると思う。
あまり詳しくないがこういうのは血が大事になってくるのは鉄板だからな。
いや、それなら別に殺す必要は無いし、あそこまでする必要も無いな。
分からないし、とりあえずカレウスと合流して、参考になりそうな本があったか聞いてみよう。
「カレウス。 何か手がかりになそうなものはあったか?」
「1つ錬金術で気になる記述があったわよ」
「錬金術で?」
錬金術で人の生首を使うなんて恐ろしいものはあっただろうか?
「ほらこの人造人間ってやつ。 もしかしたら、その人の顔が気に入ってて殺して奪ったんじゃない?」
「あー考えられるな。 確か理想の人間を作ろうとして、大量殺人をしたとかいう話も聞いたことあるな。 ホムンクルスなんてまだ誰も成功していない技術のはずだが、ないとはいえないな」
気に入った部位を集めるか。
もしかしたら脳や記憶なども目的にした可能性もあるな。
まだ気持ちは心にあるというのが主流の世界だが、記憶などは脳に保存されているという説も、もう登場している。
バラバラにした理由は分からないが、違う目的や1つ1つの要素が積み重なった結果がバラバラ死体の可能性もある。
サスペンスではそういうのもあったはずだ。
「あとはエルフの中でもさらに少数部族の、ある儀式が、今回の手口と似ているわ」
「エルフの儀式?」
エルフってあの森に住んでるイメージのある?
排他的な田舎で、独自の文化があるなら普通に有り得るな。
フィクション補正抜いたら、どう考えても田舎の悪い所を凝縮した人達がいても不思議じゃないよな。
というか普通に考えて、長寿で排他的な人種なんて絶対めんどくさい。
「そう。 殺した相手の四肢を切断して、心臓を捧げるの。 頭蓋骨を杯にするらしいわ」
「……こっわ、、、しかし、今回はそれじゃないだろ。 わざわざうちの国の付近に来てそんなことをするとは思えないし、それに死体も鎧に目立った損傷はなかったから心臓はあったはずだ」
「それもそうね。 まあこれはエルフの中でもごく一部で、基本エルフは大樹を御神木として崇めて、精霊信仰が根強いけど生贄とかはない民族らしいもの」
「精霊信仰か。 錬金術師としては精霊は良き隣人であるが、彼らのいう精霊はアニミズム的思想だったな」
「アニミズム? 初めて聞く単語だわ」
「あぁこの国の主流はアフマズター教で、一神教だからな。 アニミズムは乱暴に言うと、色んなものに精霊がいて、それぞれを司ってるみたいな感じだ。 神のもとで手伝いをする天使ではなく、それぞれが独立した神で細分化されているみたいなイメージだな。 ゴブリンの精霊すらいると言われてる」
いやゴブリンはそもそも妖精だったか?
エルフの信仰はあまり詳しくないが、確か元の世界のゴブリンは妖精だったはずだ。
小人の妖精であり、悪戯もするが人に協力的な個体もいるみたいな感じだったな。
この世界のゴブリンは小鬼タイプの魔物で、全世界で嫌われているが、魔物でも国が変わると討伐対象が保護対象となる国もある。
例えばエルフなどはトレントを良き友人としているが、うちの国は上質な木材となるので討伐が推奨されている。
うちの国でトレントを殺したところでなんの問題もないが、エルフの支配地域で殺したら問題となる。
実際に過去にエルフの支配地域でトレントを討伐して、懲役130年となり、罪が重すぎると非常に拗れた。
これはエルフの寿命と人間の寿命の差が根本にあったのだが、魔物を殺したぐらいで重すぎるという王国側と、共存関係の相手を殺したのだから当然だ!というエルフ側で拗れた。
これは王国史の法分野で必ず習う内容であり、俺もかなり最初の方に習うことになった。
ちょっと場所が違えば法律も変わるのだ。
面白いところではアンデッド系の処理にも違いがあり、拝火の意識が強ければ死体処理だけではなく、アンデット系の処理に火葬をしていけないや、剣をもつ魔物も騎士なので、一方的に殺してはいけないなどの地方や宗教、文化での考え方で大きく違い非常に面白い。
冒険者のような他国に行くこともある職業はこの辺に気をつけないとダメなのだが、そもそもとして彼らにそんな教養があるわけがなく、そのために法律家として俺たちがいる。
最も俺は商会や下級貴族などの中流階級から上流階級の下の方を、相手にしているからあんまり彼らと話すことは無いのだが。
「へぇ〜色々あるのねぇ。 これが多様性ってやつかしら?」
「そうだな。 一つ一つの国や民族に考えの違いがあるからこそ、新しいものが生まれたりして面白くなる。 出来るならお互いを尊重したいものだ」
この世界でも一神教が他宗教を邪教として迫害しまくって、貴重な文化や遺跡を破壊し尽くした例もあるので、やはりみんな違ってみんな良いの精神でいて欲しいものだ。
そうすれば姉も暗殺などという卑劣な手で命を落とさずに済んだのに。
理想を追い求め、気高く、優しくあってくれた彼女。
自分の母が亡くなってから1年ほどで、父が別の女と作った子供である俺にも優しくしてくれた。
姉がいなければ俺の人生は変わっていただろう。
それを欲にまみれて、他人を受け入れることもできなかった愚物が、、、
「〜ちゃん! レフちゃん! 怖い顔しちゃ嫌よ♡ 笑えとは言わないわ。 けどそんな怖い顔しちゃったら幸せも人も逃げちゃうわよ♡」
「……そうだな。 だからほっぺをツンツンするのはやめろ」
どうも姉のことを思い出して、無意識のうちに力が入っていたらしい。
どうも色々と考えすぎてしまっているらしい。
「よし! 帰ろうか! すまんが帰ったらお茶を淹れてくれ。 周辺の捜索や聞き込みの結果もブーツ卿が届けてくれるだろうし、リラックスして気持ちを切り替えよう」
「そうね。 久しぶりに2人で愛の語らいをしましょう♡」
「いや、愛は語らないけどな」
「んもぅいじわるね! 乙女にとってはどんな些細な会話も愛の語らいなのよ♡」
乙女すごいな。
俺より身長が高いカレウスがべっとりと、くっついてくるのを無視して歩く。
普段なら鬱陶しいことこの上ないが、今だけは隣を歩いてくれる存在に感謝して帰宅することにした。
帰宅してブーツ卿から聞いた情報を含めて、今日得た情報と可能性をまとめる。
事件そのものの目撃者は深夜のためなし。
通報者は死体が燃えているところしか見ていない。
付近を捜索して、手足が発見されるも首は見つからないことから、持ち去られたと思われる。
司祭曰く、儀式などに使われたとするのは考えにくいとのこと。
彼が言うには暗殺された可能性も十分あるという。
理想のホムンクルスのために首だけ持ち去った可能性もある
エルフの中でもさらに少数民族の儀式で似たようなものがあるらしい。(この儀式の裏取りはしておらず、誇張や偽伝の可能性もある)
……かなり進捗状況が悪い。
まだ身元の特定もできず、犯人も分かっていない。
だが逆説的に分かったこともある。
被害者はこの辺の住人では無さそうだ。
鎧を着ており、もしこれが騎士階級以上の者であれば、居なくなるとすぐ分かるから違うと言える。
なら他に鎧をつけていそうな者の第一候補は冒険者だ。
街への出入りが激しい冒険者となると、身元の特定がかなり難しくなるが、冒険者ギルドに問い合わせてみるとしよう。
特徴を伝えてたら、案外分かるかも知れないからな。
あと無意味そうなので聞いてなかったが、そろそろカレウスにも話を聞いてみてもいいかもしれない。
俺は明日の予定を決めると、その日は少し早めに休むことにした。
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