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不可思議なバラバラ死体 1




 ドンドンドンっ!!!とドアを叩く激しい音で目が覚めた。

 何をそんなに慌てているのだろう。

 ここは法律事務所だ。

 病院や警察と違い、一刻を争うような急患なんてものはいやしない。


「レフ卿! 騎士団のブーツっす! 開けてほしいっす!」


 出たくない。何用かは知らないが本当に出たくない。

 騎士が仕事で家に来るなんてろくな事じゃないのは、用件を聞くまでもなく分かる。

 だがそう言っても仕方ないのでしぶしぶドアを開ける。


「はいはい。騎士団の方が何用ですか? 法律相談ならこんな早くじゃなくてもよいでしょ」


「レフ・アネモヌン卿! そのようなジョークは求めてないっす! 殺人事件です! 現場に来て欲しいっす!」


 まだ陽が出たばかりというのに元気な青年がいた。

 散歩をせがむ犬のように騒がしい彼はブーツ・グランドという立派な騎士でそれなりに面識がある。


 何故か彼はそこそこ偉いくせに、法律家でしかない俺に事件を持ち込んでは捜査協力を求めてくる。



「法律相談に関係ないから行きたくないな。 だいたい奇跡も魔法もあって、素人に分かるわけないでしょうに」


「大丈夫っす! そう言って何度も犯人を見つけてくれたレフ卿なら今回もきっと見つかるっす! ほらさっさと行くっすよ!」


 ブーツが俺の腕を掴んで引きずる。

 抵抗したいが訓練を積んだ屈強な騎士に勝てる訳もなく、引きずられて連れて行かれた。




 どうしてこんなことになったんだ。

 暑苦しい青年に引きずられながら現実逃避をしてしまう。


 この世界に転生して20年。

 貴族の庶子に転生したと思ったら、義母に家を追い出されて、姉を頼って王宮に就職したら姉が暗殺されて離職。

 仕方ないので錬金術師で元手を稼いで、法律事務所を開いたら、何故か事件に巻き込まれる。

 奇跡も魔法もある世界で頑張って、無実の証明と犯人を告発したら、何故か難しい事件の度に頼られるようになってしまった。


 実家で見た2時間ドラマと鉄道ミステリーくらいしか知らない俺がなんで探偵の真似ごとをしてるんだろう。


 奇跡も魔法もあるんだよ!じゃないんだよ!

 ノックスやダインの教えはどうした!

 魔法とかの超能力系はルールで禁止スよね!!



「さあ着いたっす! ここが現場っす」


 雑木林の入口で解放されると、騎士団の制服を纏った人達が辺りを調べている。

 気乗りしないが解決すれば手当がもらえるのをモチベーションにして気合を入れた。

 



「んまぁーーー! レフちゃん! アタシが捕まっているのに若い男と腕を組んで来るなんて浮気!? 浮気なのね!」


「なんでここにいるんだカレウス? あと浮気じゃない。俺にそういう関係の人はいない」


「カレウスなんて他人行儀な呼び方じゃなくてカレンって呼んでちょうだいっていつも言ってるでしょ♡ アナタだけのメイドなんだから♡」



 逞しい胸筋、俺の太ももくらいありそうな腕、ゴツゴツした手の、見るからに強そうな外見をした男が、うっふ〜~~ん♡と胸筋を強調しながらウィンクするメイド服の不審者は、残念ながら捕まるのも当然だろう。

 というかもうコイツが犯人でいいから帰りたくなる。


「ブーツ卿。 ちなみに何故こいつは捕まっているのですか?」


「事件現場をうろつく見るからに不審な男だったから、とりあえず捕まえて話を伺ってたっす! そしたらレフ卿のメイドで深い仲というので、これならレフ卿を事件に巻き込めるのではと考えてレフ卿を現場にお連れしたっす!」


「正直にありがとう。しかし私も一応貴き血の一族であり、このような仕事はしていないので認識を改めてくれたまえ。 あと訂正しておくが俺にそんな人はいないので誤解しないでいただきたい」


「大丈夫っす! 自分にそんな偏見はないっす! そんなことより事件っすよ」


 非常に大事なことなのだが普通に流れてしまった。

 死体の元に案内するっす!という彼についていくと、顔が妙にベタつき、唇がベタベタと気持ち悪くなる。


 何故?と気になっていたらその理由がすぐ判明した。



 焼死体。そう思われるものが現場にて横たわっていた。

 先程感じた、ベタつきは空気中の人脂のせいだったらしい。


「っっっ!!! ……これはかなり酷いな」


 思わずそう口に出してしまう。

 この世界の命は軽い。

 だが、それでも焼死体など、魔物に焼かれたか、火あぶりの刑、戦争でくらいしか見ない。


 殺人のほとんどは複雑化しておらず、目撃者をちょっと探すか、トラブルの聞き込みをしたら犯人の目星がつく、この世界では非常に珍しい。


 しかし、俺がその凄惨さに驚いたのはそれは原因の1つでしかない。


「見ての通り、死体は鎧を着用で焼かれた上に四肢も首も切断されているっす。 こんな残虐なものは初めて見たっす。 大罪人の処刑にしてもなかなかないっす。 あんまり見てると気分が悪くなるし、死体の臭いで焼いた肉が食べられなくなると困るっすから、現場保存のために結界を張ってるっす」


「現場保存の重要さを理解してくれて何よりだ」


 この世界の殺人事件など平民が起こすほとんどは酒が入った上で殺しだ。

 それかダンジョン内でこっそり殺して隠蔽する程度で、このような残虐性の高い事件は、少なくともこの国では過去にもなかったはずだ。

 あまり複雑な事件がないので、現場や証拠品ですら雑に扱われており、以前に指摘した際のことを覚えてくれていたらしい。


 そこそこ偉いくせにポンコツで、捜査には向いていないんじゃないかと思われる彼の頭脳が大事なことを覚えてくれて嬉しく思う。



「それよりブーツ卿。 何故うちのメイドが捕まっているのだ? 現場にいたからと言って犯人とは限らないし、この死体とその周りを見た感じだと、切断した際に血が飛び散っているはずだが彼にはそのような血痕はないようだが?」


「はっ! 人が燃えていると騎士団に通報があり、その時に現場に彼女? がいたので事情を聞こうとしたところ非常に騒がしく、落ち着いて話が聞けなかったのでとりあえず身柄を拘束した次第っす!」


 なるほど。

 大沢木、あっ違う。大騒ぎしたからと。

 あんまり心配なさそうだし、今は落ち着いて騎士にねっとりと話しかけているし、放置でいいだろう。


「それじゃ死体を見ようか。何度も言うが分からなくとも文句は受け付けてないからな。専門は錬金術と法律だから素人なんだ」


 ブーツにそう断りを入れて遺体と向き合う。

 胴体だけの焼かれた遺体。

 独特の異臭を我慢しながら、手を合わせ、手袋をして遺体に触れる。


 死体は語るというし、何より死因の特定は出来た方がいい。


「ん?あぁこれ鎧着たまま焼かれたから、熱で肌とくっついてしまっているのか。無理に剥がすのはよくないし、検死できる人を呼ぶ必要があるな。ブーツ卿! 御手数ですが人の手配をお願いします。私の名前を使っていいのでこちらの方をお呼びください」


 金属製の鎧を着た遺体。

 この遺体が冒険者や傭兵であればいい。

 騎士ならメンツにかけて犯人を探すだけ。

 しかしこれがもし、他国で地位のある人物であれば考えたくもない。

 さすがに地位のある人物がこんなところで、1人で殺されてる訳はないだろうが、万が一があれば外交問題になる。

 早急に身元の特定をした方がいい。

 その為にも死因の特定、鎧やその身体から身元を割り出したい。


 鎧には紋章が彫られていることも多いし、身体のタトゥーなどがあればそこから何か分かることもある。

まずは情報を集めなければならない。


 とりあえず検死医の手配は彼に任せて俺は改めて遺体を見る。


「断面も焼けているから切断してから焼いてるな。 何故切断してから焼いた? いや考えるのは後にして、今は情報を集めて後で整理するとしよう」


 凡人の俺にはまとめてから考える方が向いている。

とてもじゃないが考えながら捜査なんて出来ない。


 聞き込みや現場捜査とかのマンパワーがいるところは、騎士団がやってくれているので助かっている。


「んふぅ〜~~ん♡ ダーリン♡ 騎士の人から話を聞けたわよぉん♡」


「ひぃっ!? 化け物!?」


 耳元でおぞましい言葉が聞こえて、情けなくも腰を抜かしながら、這いつくばって騎士団に助けを求めようとすると、首の根っこを掴まれ阻まれた。


「ちょっと! 誰が化け物よ! 旦那様のために騎士様に話を聞いてあげた健気な乙女メイドになんてこと言うのよ!」


「あっカレウスか……。 すまない。突然のことにびっくりしたんだ。 それで何が聞けたか教えてくれ」


 いつの間にか解放されていたうちのメイドは俺の代わりに、話を聞いてきてくれたらしい。


「まず事件の目撃者はいないみたいよ。 いたのは火を見て通報した人だけ。あとは魔素鑑定ってやつによると、死体は魔法で焼かれたそうよ」


 魔素鑑定。

 魔法を使おうとすると、空気中の魔素が使う人の魔力と反応を起こし、魔法が使えるのだが、その際に目には見えない煤のようなものが出る。

 これを錬金術で作った特別な粉を振りかけることにより、可視化したもので、光り方でどのような属性の魔法が使われたかもある程度わかる。

 魔素残滓や魔力残滓などとも言われるアレだ。



「ありがとう。 とりあえず今まで分かったことをまとめよう」


 首と四肢がない胴体だけの焼かれた死体が発見された。


 死体は鎧を着用しているが、焼かれた際の熱でくっついており、脱がせることは出来ない。


 死体は四肢を切断してから焼かれたと思われる。


 燃やす際には魔法が使われている。



 今、分かっている情報はこんなものか。

 手がかりが足りなすぎる。

 身元の特定も出来てないと犯人の目星すらつかないな。


 バラバラ殺人は心理学によると大きくわけて3パターンあるという。

 強い恨みからバラバラにする。

 生き返るかもしれない恐怖からバラバラにする。

 死体を隠しやすくするためにバラバラにする。

 この3つに分けられやすいらしいが、これはどれなんだろうか?

 猟奇的な犯人かもしれないという選択肢も一応入れておこう。


 どれかに絞って考えるにはまだ早いし、冤罪の9割は初動捜査のミスらしいからな。

 焦らず慎重に行こう。


「うふっ真剣な顔の旦那様も素敵♡ うっとりしちゃうわぁ♡」


 やっぱり犯人こいつでいいんじゃないかな?













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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