山田おばあちゃんの災難と横のつながり
ある日の午後、静かな住宅街に救急車のサイレンが響いた。
最初は気にも留めなかったが、音が近づき、家の近くでピタリと止まった。
嫌な予感がして慌てて外に出ると、ストレッチャーに乗せられているのは、なんと山田のおばあちゃん(85歳)だった。
彼女は、私が産まれた時から知っている、温かい笑顔の持ち主。私が帰省した日に、わざわざ家を訪ねてきてくれた、あの山田のおばあちゃんが、こんな場面で目の前にいるなんて。
野次馬の中に、ベビーカーを押した若い女性がいた。彼女に話を聞くと、山田のおばあちゃんが家の前の小さな段差につまずき、立ち上がれなくなっていたところを、赤ちゃんとの散歩中に見つけたのだという。
『おばあちゃん、ひとりで大丈夫かしら?』と、女性は心配そうな顔で呟いた。
私は、山田のおばあちゃんには近くに息子夫婦が住んでいることを伝えたが、今日は平日。共働きの彼らは、きっと仕事で家にはいないだろう。
すぐに、日だまりの会の佐藤会長に電話をかけた。状況を説明すると、会長は落ち着いた声で
『わかったわ。息子さんの会社に連絡しておくわね。私は病院に向かうから』
と答えた。
サロンのネットワークが、こんな時にも生きる。
山田のおばあちゃんは救急車で病院に運ばれ、女性と私は少しだけ話した。
彼女は近所に引っ越してきたばかりで、山田のおばあちゃんとは挨拶程度の仲だったが、こうやって助けを呼んでくれたことに、心から感謝した。
病院から戻った後、佐藤会長から連絡があった。
山田のおばあちゃんは幸い軽い打撲と捻挫だけで済み、息子さんが駆けつけて今は自宅で休んでいるという。
『若いお母さん……たぶん、内木さんだと思うんだけど……ほら、床屋さんの裏のアパート、わかるでしょ。そこに越してきた人よ。彼女がすぐに救急車を呼んでくれて、よかったわ』
と会長は言った。
私はほっと胸を撫で下ろした。
次の日だまりの会の集まりで、この話をみんなに共有した。
藤田副会長が
『こういう時、サロンのつながりが役立つよね』
と頷き、他のメンバーも
『近所で助け合えるって、ほんと大事』と口々に言った。
私は、ふと思った。この横のつながり……知らない若いお母さんが山田のおばあちゃんを助け、会長がすぐに息子さんに連絡を取る……これこそ、日だまりの会が目指すべき姿じゃないだろうか。
それでも、人間関係は複雑で、薄い郡の上を歩くように気を使う。
でも、今は、山田のおばあちゃんが、1日も早く治る事を祈る事しか出来ないし、いつか、お見舞いに行ってみよう。と考えている私がいた。