お盆……続き
お盆の翌朝、貴子は目を覚ますと、昨夜の賑わいの余韻が家中に残っていた。
座敷の座布団が少し乱れ、ビールの空き缶が並ぶ。
兄はすでに起きて、庭で雑草を抜いていた。
口下手な彼の背中は、父の姿を彷彿とさせる。
貴子は台所でコーヒーを淹れ、兄に声をかける。
『兄貴、昨日は楽しかったね。みんな、父さん母さんの話ばっかりでさ』
兄は手を止め、汗を拭きながら頷く。
『ああ。親父の家が、みんなの集まり場だな』
貴子はコーヒーを渡し、二人は縁側に座る。
双極性障害で都会を離れた貴子にとって、この家は心の拠り所。
無職の身だが、「日だまりの会」で高齢者たちと過ごす時間が、彼女を支えていた。
お盆は特に、両親の記憶が鮮やかになる。
突然、玄関のチャイムが鳴る。
ドアを開けると、従姉妹の美穂が立っていた。昨日も来たが、今日は一人で、手に手土産の饅頭を持っている。
『貴子、昨日は遅くまでありがとう。亮太はもう帰っちゃったけど、私、ちょっと残って話したくて』
貴子は笑顔で迎え入れ、座敷に通す。
兄も加わり、三人で仏壇の前で手を合わせる。
美穂は母の遺影を見て、ぽつりと言う。
『叔母さん、ほんとに豪快だったよね。看護師なのに、テキ屋の祭りで手伝ってる姿、子供の頃見たことあるよ。任侠の人たちと笑い合ってて、かっこよかった』
貴子は頷き、母のエピソードを思い出す。
『うん、母さん、人脈広かったよね。定かじゃないけど、病院でいろんな人助けてたせいかも。
父さんは大工で、地道だったのに、母さんは派手でさ。いいバランスだったのかも』
兄が珍しく口を開く。
『親父、母ちゃんのそんなところ、好きだったんだろうな。「お前の笑顔が、家を明るくする」って、よく言ってた』
美穂が目を細める。
『そういえば、叔父さんの建てたこの家、すごいよね。梁が太くて、地震来てもびくともしない。亮太も昨日、「建ててる所を見てみたかった」って感心してたよ』
貴子は胸が温かくなる。
父の肺がん、母の卵巣がん……若くして逝った両親だが、残したものは大きい。
家、記憶、人脈。昼過ぎ、父の従兄弟の健さんが再び訪れる。
昨日と同じく、ビニール袋にビール。『よお、貴子ちゃん。昨日は楽しかったな。達男の話で盛り上がったけど、今日はもっと深く話そうか』
皆が座敷に集まり、健さんが昔話を始める。
『達男は大工の名人だったよ。俺の家も建ててくれたんだ。「家族を守る家だ」って、釘一本一本に魂入れてな』
貴子は涙ぐみながら聞く。
『父さん、ほんとに職人だった。母さんのがんがわかった時も、黙って支えてたよね』
兄が補足する。
『親父、肺がんになっても、仕事辞めなかった。「家を建てるのが俺の生きがいだ」って』
美穂が言う。
『叔母さんも、看護師として患者さんを励ましてたのに、自分のがんは隠してたよね。強い人だった』
シゲさんもふらりと現れ、輪に加わる。
『おいおい、今日もあつまってるのか?でも、母ちゃんの話ならいくらでもするぜ。祭りで、任侠の兄貴たちと酒飲んで、歌うたってたよ。あの声、でかくてさ』
皆が笑う中、貴子は心の中で両親に語りかける。
『父さん、母さん、みんなが来てくれるよ。ありがとう』
夕方、親戚たちが去り、貴子と兄は庭で柿の木を見上げる。
兄がぽつりと話す。
『来年も、こうやって集まろうな。親父と母ちゃんのために』




