藤田家の裏側
公民館の「ひだまりの会」では、副会長、藤田萌子さんが今日もハキハキと仕切っていた。
元教師らしいサバサバした口調で
『次のお茶当番、誰にする?』
と皆に振るが、時折デリカシーない発言が飛び出し、場の空気をざわつかせる。
外から見れば、藤田さんは家族円満な『しっかり者のおばあちゃん』
庭には、色とりどりの花を育てていて、時折、花に水をあげているのを見かける。
息子夫婦と、小学五年生の孫、悠斗くんと同居し、ご主人も穏やかで、絵に描いたような幸せな家庭。
……が、家の中はまるで別の話。
ある夜…と、言っても、藤田家では、いつもの事だが……
夕食の席で火花が散った。
30代の嫁、彩花が箸を置いて口を開く。
『お義母さん、悠斗の塾の時間、勝手に変えないでくださいよ。私の予定もあるんですから』
彩花の声は鋭い。
藤田さんは眉を上げ
『あら、効率いい時間に変えただけよ。文句あるなら、夕飯の支度は自分でやりなさい』
と返す。
空気が一瞬でピリつく。
50代の息子、健太が慌てて割って入る。
『まぁまぁ、母さんも彩花も、落ち着いて。悠斗の塾の話は俺が確認するからさ』
だが、彩花は
『いつもこう! 私が悪いみたいに!』と席を立ち、部屋に閉じこもった。
藤田さんは『若い子は我慢が足りないわ』とつぶやき、食卓を片付け始める。
先に夕飯を食べ終えてゲームをしていた悠斗が、すかさず藤田さんに擦り寄る。
『おばあちゃん、来週ゲームの新作買いたいんだけど、僕の貯金、少し足りないんだ。お小遣い……ほしいな。』
甘えた声に、萌子さんの表情が緩む。
『まったく、悠斗は甘え上手ね』と財布を取り出して『いくら足りないの?』
『5千円……』藤田さんは、ゲームの値段など分からない。悠斗の言いなりだ。
……が、内心では彩花の態度にイライラが収まらない。
翌日、彩花は荷物をまとめ、郊外の実家に帰ってしまった。
健太がため息をつきながら言う。
『またか……。父さん、母さんに言ってよ。
彩花のこと、もっと考えてくれって』
『私に言うなよ』と、藤田さんの夫、正志さんが苦笑いする。
『お前が嫁さんを大事にすれば済む話だろ』
正志さんはいつもこうやって間を取り持ち、波風を立てないように立ち回る。
週末、健太は彩花の実家へ頭を下げに行った。『お義父さん、お義母さん、彩花を連れ戻したいんです。母とも話しますから』
と丁寧に詫びる。
彩花の両親は
『まぁ、藤田さんも悪い人じゃないよ。
私の子供達が、学生時代に世話になったからね。
彩花は、藤田先生は、担任にはならなかったものなあ……』
と宥めるが、彩花は『もう少し考えさせて』と渋い顔を見せる。
次の公民館での「ひだまりの会」
藤田さんはいつものように振る舞うが、彩花の不在で、頭がいっぱいだった。。
『藤田さん、家族は元気?』と佐藤会長に聞かれ
『ああ、みんな仲良くやってるわよ』
と笑顔で答えていた。
だが、心の中では、彩花との言い争いがチラつく。
家では強気な藤田さんも、サロンでは「円満な家庭」の仮面をかぶる。
夜、彩花がようやく帰宅した。悠斗が
『お母さん、帰ってきた!』
と飛びつくが、萌子さんと彩花の視線は交錯しない。
正志さんが
『さ、飯でも食おう』
と場を和ませるが、ぎこちない空気は消えない。
これが、藤田さんの日常なのかもしれない。




