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複雑な気持ち

お盆前の「日だまりの会のサロン」は、いつもの公民館に集まったメンバーたちのざわめきで始まった。


会長は穏やかな笑顔で皆を見回し

『お盆明けには「盆お疲れさま会」をやりますよ』

と発表した。


拍手がぱらぱらと上がる中、山本さんがソファの特等席で、スマホを手に得意げに話し始めた。

『この紫陽花、うちの庭のやつよ。

昨夜、貴子さんに写真送ったの。きれいでしょ?』

山本さんは、まるでお嬢様のような口調で、画面を見せる。


私は『画像しか送ってこなかったのに、自慢はするんだ……』 

と、密かに思ってしまった。


華やかな花の写真が、彼女の誇らしげな表情と相まって、場を一瞬華やかにした。


だが、副会長、藤田さんは冷ややかな視線を投げる。

『ふーん、庭の手入れ、誰かにやらせてるんでしょ? 一人暮らしでそんな元気あるわけないじゃん。

私は、毎日手入れしてるわ』

と、辛辣な言葉を放つ。


確かに、山本さんの家の庭を手入れするには、庭師を入れなければいけないだろう。

でも、彼女なら、庭師に支払うお金には困ってないと思う。


場の空気が一瞬凍りつく。

佐藤さんが『まぁまぁ、藤田さん』と宥めるが、山本さんの顔は曇った。

『失礼ね。私はちゃんと自分で世話してるわ!』

山本さんは声を尖らせ、スマホを握りしめる。


山本さんの家は元地主の大きな屋敷で、毎日誰かが訪ねてくる賑やかな場所だ。

寂しがり屋の彼女にとって、サロンは自慢の場でもあった。

難病を抱えながらも、こうして皆に囲まれるのが好きな彼女。


私は、このサロンの新顔。

都会で双極性障害を患い、療養のためにこの田舎町に帰ってきたばかり。

両親は早くに亡くなり、兄と二人暮らし。

サロンには、会長さんや、私を小さな頃から知っているご近所さんのすすめで入会した。


サロンの人間関係の複雑さに、早くも疲れを感じていた私。


山本さんからの深夜の花の写真も、最初はきれいだと思ったけど、その裏にある彼女の承認欲求に気づくと、なんだか重荷に感じた。佐藤さんが話題を変える。


『そうそう、山本さんから話があってね、お盆明けからは名前だけのメンバーになるそうです。少し休養したいって』

と告げた。


会場がざわつく。噂では、藤田さんとのいざこざが原因らしい。

山本さんは黙って俯き、藤田さんは『ふん』と鼻を鳴らした。


かつて、ノリ子さんというメンバーも藤田さんのデリカシーない発言で傷つき、サロンに来なくなった。

彼女も双極性障害を抱えていた。

私には、その痛みがわかる。

だから、藤田さんの言葉が刺さるたび、心がちくっとした。







お盆がやってきた。サロンは休みで、私は実家の掃除や、料理作りに追われた。

兄が

『貴子、無理すんなよ。身体大事にしろって』

と心配そうに言う。

台所で盆飾りを整えながら、私は苦笑いした。

『大丈夫よ、動いていた方が、気が紛れるから』



だが…………張り切りすぎた私は腰と背中を痛めてしまった。

病院はお盆休みで、湿布を貼ってごまかすしかない。


夜、私は思った。サロンは温かい場所のはずなのに、なぜか心がざわつく。

山本さんの花の写真、藤田さんの冷たい視線、ノリ子さんの不在。佐藤さんの穏やかな笑顔だけが、かろうじて場をつなぎとめている。お盆明けの「お疲れさま会」で、何かが変わるのだろうか。


腰の痛みをこらえながら、私は静かに盆棚に手を合わせた。花の写真が、頭の片隅で揺れていた。



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