山本のおばあちゃんの背景
山本のおばあちゃん……本名・山本澄子、86歳……は、この小さな町で誰もが知る存在。
いつも、シャキッとした着物姿で歩いている。
彼女の家系は、戦前からこの地域で広大な田畑と山林を所有していた旧地主の家柄で、町の歴史にその名が刻まれるほどの影響力を持っていた。戦後の農地改革で多くの土地を手放したものの、山本家は今なお、町の郊外のこの地区に古い屋敷を構え、澄子おばあちゃんはその最後の「当主」として、地元では一目置かれている。
彼女は、お婿さんに入ったご主人を亡くされてからは、後を継ぎ、地元の商工会や町内会の運営に深く関わってきた。
市議や県議とも旧知の仲で、年に数回、公民館や地域のイベントで彼らと談笑する姿は、町民にとっておなじみの光景だ。彼女の言葉には重みがあり
『山本のおばあちゃんがそう言うなら』
と、町の決定が動くことも少なくない。
しかし、その影響力の裏には、彼女の強い正義感と、時に融通の利かない頑固さが潜んでいる。
澄子おばあちゃんは、曲がったことが大嫌いで、サロンのような地域の集まりでも、ルールやマナーを重んじ、誰かが軽率な行動を取ると、遠慮なく指摘する。
藤田のおばちゃんのバスツアーでの発言が彼女の逆鱗に触れたのは、単にノリ子さんを傷つけたからだけではない。山本のおばあちゃんにとって、精神疾患のようなデリケートな話題を公の場で軽々しく口にすることは、コミュニティの信頼を裏切る行為だった。
『サロンは皆が安心できる場所でなきゃいけない』
と、彼女は以前、サロンで熱く語ったことがある。
その信念が、藤田のおばちゃんへの敵意を燃え上がらせ、市や議員にまで不満を漏らす行動につながった。
だが、彼女にも脆い一面はある。夫を早くに亡くし、子供たちは都会に出てしまい、広い屋敷に一人で暮らしている。
週に何日か、義理の妹さんが家政婦代わりに来ていると聞く。
町での影響力は、彼女にとって自分の存在意義を保つための支えでもある。だからこそ、サロンのような場で「正しいこと」を守ろうとする彼女の態度は、時に過剰に映る。
田中のおじいちゃんがこっそり教えてくれた話では、山本のおばあちゃんは若い頃、父の厳格な教育に縛られ、自由に意見を言うことができなかった過去があるという。それが今、彼女の「正しさ」を押し通す頑固さに繋がっているのかもしれない。
佐藤のおばあちゃんは、山本のおばあちゃんのこの背景を知っているからこそ、彼女の行動に手を焼いている。
山本のおばあちゃんの正義感はサロンを守る力になる一方、藤田のおばちゃんへの執拗な批判は、コミュニティの調和を乱す火種にもなっている。




