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第一章3「幼馴染から抜け出せない二人」

「えー、このように、文法に注意して――」


 黒板に書かれていく英文を淡々とノートに写す。

 石山いしやま愛花あいかにとって、授業中に集中を切らすことは成績の維持に関わると深く理解している。

 幼馴染である高倉たかくらあつしと同じ大学に行くと約束したのだ。そのためには、少しも気を緩められない。

 ただ、今回に至っては、それも難しいかもしれない……。


 敦、すっごく眠そうにしてる……。そんなんじゃ、私と同じ大学に行けないよ? どっちか片方が落ちたら進学どうするの?


 無意識に彼の席を見つめてしまう。

 敦の席は私よりも斜め前にあるため、彼の眠そうな横顔が丸見えだ。


 あー、もう……。また大きなあくびして……。そんな授業態度じゃ、先生から嫌われるよ?


 その眠くて無邪気な横顔を見ていると、思わず声をかけたくなる。

 だが、今は授業中だ。ここは我慢……。本当は敦と少しでも会話がしたいが、我慢我慢……。


 私は止まっていたペン先を動かし、黒板の字を淡々とノートに書き写していく。

 しかし、ここで私の脳裏に、あの言葉が思い浮かんでしまう。


 ――大切な"幼馴染"だから。


 今朝、私が古鷹ふるたかさんとめていたときに、敦が言ってくれた言葉だ。

 あんなの……。あんな言葉……。あんなタイミングで言われたら……。


 駄目だよ……! 思い出すだけで、顔が熱くなってしまう……! あんな凛々(りり)しい顔で、そんなこと言われたら照れるに決まってるじゃん! この馬鹿!


 鏡で今の自分の顔を見たら、リンゴみたいに真っ赤になっていることだろう。

 しかし、それでもうれしすぎる……。

 あの古鷹さんよりも、私を選んでくれた気がして、心が舞い踊ってしまう……!


 マフラーをプレゼントする作戦は、不運にも古鷹さんに先を越されたが、最終的には勝てたので本当に良かった……!

 しかし、それも今回だけの話だろう……。相手はあの"学園一の美少女"だ。ありえないだろうけど、敦が心移りしてしまう可能性もゼロではない。


 だったらいっそのこと……。早く"告白"してしまえば……。


 そう、告白……。それさえしてしまえば、全て終わる話だったのだ。

 私と敦の付き合いは決して短くはない。そのため、告白できるタイミングはいくらでもあったはずなのだ……。


 そう。あったはず、なのだ……。


 しかし、私と敦が幼馴染の関係から一歩も進んでいないのは、私がヘタレすぎるせいだから……。

 告白してしまえば、今までの関係ではいられなくなる……。しかも、もし敦に振られたら、私は……。

 その先のことは絶対に考えたくない。……だから、自分の気持ちを伝えられずに、気がつけば時間だけが過ぎていた。


 私に何かできないかな……? このままだと、誰かに敦を取られてしまう……。


 私から告白する勇気が無いのが悔しい……。それに、告白するのが無理だったら"敦に告白させればいい"と、浅ましい考えが出てしまう自分が憎い……。

 恐らく、敦だって同じことを考えているはずだ。彼だって、告白する勇気が無いのは同じはず……。

 やっぱり、ここは王道に、お互いが告白しやすい環境を作ってあげたら、少しはお互いの気持ちを伝えやすくなるのかな……?


 私は再び、敦の眠そうな横顔を見つめる。

 その横顔を見つめていると、不思議とそれだけで安心してしまうから恐ろしい……。


 今度の休み……。私から、その……。で、デートに誘ってみようかな……?


 改めて思い返すと、敦と遊んだことはあっても、二人っきりでそういう場所に行ったことは無かった。

 雰囲気の良い場所で。自然と良い空気になって、そこから……。


 は、恥ずかしいいい……!!


 でも、やるしかない……。他の女の子に敦を取られるくらいなら、いっそのこと……。

 それに、あまり敦には負担はかけさせたくない。彼だって、私を遊びに誘うときには勇気がいるはずなのだ。

 だったら、今回は私が勇気を出して、デートに誘うべきだよね……。


 だとしたら、デートスポットはどこがいいか――。


「……おい、聞いているのか、石山?」

「……へ?」


 先生の強い口調で、思考が一気に現実へ引き戻される。


「全く……。授業中によそ見をするなんて……」

「す、すみませんでした!!」


 先生に非礼を詫び、かなり進んでしまった黒板の内容をノートに書き写した。


 デート、上手くいくといいな……。

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