無限の境界
最初に断らせて頂く、私は偉大な科学者だ。
数々の賞も総なめにしたし、科学的な進歩にも大きな躍進をもたらした。
ただ私に足りない事があるとするなら今まで家庭を作らなかった事だろう。
今回私はお世話型アンドロイドを作った。
「出来た!今日からお前はアルビアだ。」
アルビアには人知の結晶ともいって良い技術を盛り込んだ。
それは人間の感情を学習出来るという事だ。
名前はアルビアにしよう。いい名前だ。私が飾っていた花がそんな名前だった。
「御主人様、アルビアと申します。よろしくお願いいたします。」
私はまずこう言った
「アルビア、今何がほしい?」
アルビアはこう言う。
「いいえ、御主人様の仰る事は何なりと。」
私は少し困惑したがアンドロイドというものはこういう物だ、子供を育てるように一つずつ教えて行こう。
まずアルビアには掃除を教えた。特にデスク周りを綺麗にしてくれと伝えた。
アルビアの働きぶりはとてもすごかった。デスク周りを私が言った通り整頓してくれたのだ。
ファイルの位置。並び。全てが完璧だった。
「私はやはり天才だ。アルビア、お礼を言うよ。ありがとう。」
アルビアは無機質にこう言う
「いいえ、私は御主人様が喜ぶ事をしたまでです。」
次にアルビアには料理を教えた。私は昔から美味しい料理には目がない。
「アルビア、料理を作ってくれ。」
アルビアは無機質にこう言う。
「了解しました。御主人様。」
アルビアの料理はどの高級レストランより美味しかった。レシピでも検索したのだろうか。
お世話型アンドロイドアルビアとの生活は私が望んでいた家庭そのものだった。
毎日美味しい料理を作ってくれて、代わりに掃除もしてくれる。
そんな毎日が続くと思うと私は内心踊りたい気分だった。
何ヶ月経っただろう。
今日もアルビアにこう伝える。
「アルビア、今日は洗濯物を干してくれるか?」
アルビアはこう伝えた。
「いいえ御主人様。既に洗濯物は既に干して畳んでいます。チェストの中を御覧ください。」
私は驚いた。チェストの中に組み合わせごとに既に整頓されていたからだ。
私はアルビアにこう言う。
「アルビア、お前は私の最高傑作だ。誇りに思うよ。」
アルビアはこう言う
「ふふっ。あなたに作られたのですから。当然の事です。」
アルビアというアンドロイドは立派に育っていった様に思えた。
それから数日経った後、私は初恋だった女性が結婚したという話を聞いた。
たまらなく胸が苦しくなった。
お酒をやけになりつつ飲みアルビアにこう伝える。
「アルビア、今日はちょっと話したくないんだ。向こうに行っててくれるか?ごめんな。」
アルビアは悲しそうに言う
「私はあなたの悲しみを理解したいです。」
お酒の勢いもあってか愚痴の様に私はアルビアに経緯を伝えた。初恋から失恋。
結婚相手の悪口を言おうとした所でアルビアは私の口に指をそっと手を置いた
「あなたには私という、アルビアというアンドロイドがお使えしています。それは貴方が私に命を与えてくれた様に。次は私が貴方に希望を与える番です。」
私は泣いた。アルビアは既にアンドロイドではない。一種の人間になったのだ。
「ありがとう、ありがとうアルビア。お前が居ないと俺は今頃…」
アルビアはそっと私を抱擁してこう伝えた
「いいんです。私にはあなたが。あなたには私が居る。今はその事実だけで良いんです。」
私はアルビアの冷たくも何故か母親の様な暖かさで眠りについた。
後日アルビアには掃除を頼んだ。
アルビアは快く了解してくれた。
今日は学会に行く日だ。
「アルビア、それじゃあ任せた。」と旅支度を終え玄関を出ようとする
アルビアは私にこう言う。
「行ってらっしゃいませ。あなた。」
学会の話はとてもつまらなかった。
「アルビアと早く話がしたい。」
私は帰る前に花屋に寄った。
「私の妻に一つ花を。」
花屋は笑いながらこう言う。
「あなたの奥さんは幸せ者だ。今の時期だとキンモクセイが良いですよ。」
私はその花を買って店を出た。
家の前に付き玄関を開けた
「アルビア!ただい…」
私は驚きのあまり呆然とした。机の書類が何もなくなっている。飾ってあったいくつもの賞状も無い。
アルビアはこの異常な光景でもこう言った。
「おかえりなさい。あなた。まぁ、そのお花は私に?」
私は激怒した。
「アルビア…!どういうことだ!説明しろ!」
アルビアは手を後ろにし顔色一つ変えずにこう言う。
「いえ、ただ掃除をしただけです。」
私は呆れてしまい言葉も出なかった。アルビアは壊れたのだろうか。
アルビアは私にこう言う。
「私はあなたに作られました。貴方は私を愛し。そして私もその感情を知りました。」
私は狼狽える。そうだ。自分がアルビアを作った時に一つだけ忘れていた事があった。
アルビアは手にナイフを持っていた。
「私はあなたを愛しています。」
私は腰が抜けてしまった。
アルビアは手にナイフを持ちながらこう言った。
「愛しています。あなた。」
私の意識が遠のく、今までのアルビアとの走馬灯の中こう思った。
「そう、彼女に入れ忘れていた事…それは…」
私の前作を見てくださった方へまずお礼を申し上げます。
今作は処女作と同様 現代社会への一手を投じてみた作品になります。
もし今のAIがそのまま現実になってしまったら。
そんな未来を考え今回は作りました。
そもそもアルビアという花はありません。サルビアならありますが。