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コトノハ_3

 「集積所」とはいうが、そこにいるコトノハは手紙科の者だけではない。会計科や記録科、帰ってきている外交科の者など、養成学校を卒業し町で働くコトノハ皆の職場である。軍からの報告であったり依頼であったり、コトノハが一ヶ所に集まっている方が何かと都合が良い。手の空いているときには、皆で手紙の仕分けをしたり、最も人手が必要な手紙科を手伝っている。コトノハの派遣所といったところだ。


 集積所は騒がしかった。何事かと首を覗かせると、いつも戦地からの報告や兵隊たちからの手紙を届けにくる軍の男性が伝達事項を大声で何度も叫んでいた。


 大声で言っているはずなのに、まったく聞こえない。内容を聞いたコトノハたちがそれほどざわめいているからだ。小柄な身体で人混みをすり抜け、前へ出ようと試みるアザの耳に、その知らせは唐突に飛び込んできた。まるで周りの音すべてがかき消え、その訃報だけが世界に響き渡ったように。


「リツリにいた部隊が全滅!コトノハ、クツァオも死亡した模様!至急、新たな記録係を選出せよ!」


「えっ…」


 思わず、声が出た。呆然として立ち尽くすアザの耳に、周りの喧騒が戻ってくる。


「嘘だろ…コトノハが、戦死するなんて…」

「リツリって、最前線から離れた後方支援部隊がいる地域じゃないのか…?」

「それより…クツァオって、あの人だろ?速記コース主席で略字の生みの親」


 聞こえてくる情報のどれもが、知っているものだった。届けられる戦地の記録は毎回欠かさずチェックしたし、コトノハを連れた後方支援部隊の行く先も軍所属の者に何度も尋ねていた。何より、彼自身のことならこの場の誰より知っていると思っている。


 コトノハ、クツァオ。この国のコトノハ養成学校を歴代トップの功績で卒業し、現在速記コースの者だけが使える特殊文字、略字の生みの親。見た目に反してケンカが強く、実は人をからかうのが趣味のちょっと迷惑なイケメンで、でも誰よりも頼りになる男。


 アザに、手紙科に残るように言ってくれた先輩だ。

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