恋愛もの(?)
正直すまんかった
プロローグ
「どうしてこんなことになったんだろう……?」
僕は目の前で繰り広げられる、この世の物とは思えないやりとりに付いていけず、少し離れたところで放心していた。
いつも通りの日常、そんな面白みのない日々を特に不満に思うこともなく今日も過ごすはずだったのだ。
一体、どこで間違えたというのだろう?
僕は、一体どこで選択肢を誤ってしまったのだろう?
記憶は、過去へと遡る―――。
―――不愉快な音がしている。
僕の惰眠を貪るのを決して許さないとでも言いたいのだろうか。
親の仇と言わんばかりの大音量である。
近所迷惑になりかねないので静かにして欲しい。
ついでに僕のことも放っておいてくれ。しかし、その音は無慈悲にもあることを示していた。
「くそっ!」
僕は勢いよく布団から手を出すと、枕元で鳴り響いていた目覚まし時計を止める。
現在の時間は7時半。
朝食が必要ならば、もう起きなければ間に合わない。
高校2年生ともなると、朝食抜きで午前中を乗り切るのはかなり辛い。
惰眠を貪った結果、後悔したことも多々ある。
仕方なくベットから降りると、制服に袖を通した。
着替えを終え階段を降り、キッチンへと向かう。
扉を開けて中に入ると、そこにはいつも通りの光景があった。
「あ、お兄ちゃんおはよう。今日はちゃんと起きてきたんだね」
挨拶をしてきたのは僕の一つ下の妹だ。
身長は155cm弱、女性でも小柄なほうだろう。髪の毛は淡い栗色で、肩口で切りそろえられている。着ているものは僕と同じ学校の制服だ。
兄である僕と違い、両親のいない我が家で、家事全般をこなしてくれるしっかり者だ。
妹には本当に頭が上がらない。
「おはよう舞。今朝も早いんだな」
佐藤舞。
学年首席という頭脳を併せ持つ。人当たりもよく、先生の受けも、学生からの受けもよい僕の自慢の妹だ。
「お弁当作らないといけないからね」
そう言うと舞は弁当を持ち上げる。もちろん僕と舞の二人分だ。
「いつもすまないねぇ~……」
僕がふざけてそんなことを言う。
「おとっつぁん。それは言いっこなしだよ」
妹は僕のおふざけに乗ってくれる。
返事をしない代わりに、サムズアップで返す。
心の中ではグッジョブ!と拍手喝采だ。
しかし、そんな妹にも極大の、それはもう大きな欠点がある。
「えへへ……。おにいちゃん」
『おにいちゃん』の部分が完全に猫撫で声になっている。
そう、僕の妹は極度ブラコンなのだ。
昔から、いつも家にいなかった両親の代わりに、僕がずっと妹の世話をしていたのが原因なのだろう。
妹は僕の目の前で何かを期待するように、上目づかいで見上げている。
最近ではそろそろ兄離れしてもらわないと……などと考えるようになった。
が、僕にかわいい妹を撥ね退けられるはずもなく。
「舞は甘えん坊だな~」
そう言いながら頭を撫でてやる。
妹は至福と言わんばかりの緩い表情をしている。舞のファンクラブの連中にはとてもじゃないが見せられない。こんな顔を見せたら悶え死ぬ奴が出かねない。
ちなみに僕はファンクラブの会員番号0000番だ。すなわちファンクラブの発足者ということだ。0001番と0002番は幼馴染が持っている。
その幼馴染二人からすると、過保護なシスコン野郎とのことだ。
「……何か問題でも?」
「?おにいちゃん何か言った?」
「うん。舞は僕のものだって言ったんだよ」
さらっと爆弾を投下するが、この場に突っ込みは誰もいない。
舞は頭を撫でられながらただ照れている。
もちろん冗談だ。
下から「でも、おにいちゃんとなら……」とか「逃避行……」などとは聞こえていない。断じて!
こういう時にだけ、幼馴染のありがたみを思い出す。
もちろん突っ込み要員としてだ。
「妹よ。兄はお腹が空いたよ」
僕はこのままだと天に召されてしまいそうな妹に現実を突き付ける。
「え、あ、わかった。準備しとくね」
「うん。任せたよ」
舞から手を離す。
尻尾と耳があったら完全に垂れているだろう落ち込みっぷりだが、そこは見えない振りだ。
視界に入らないように、すぐに背を向けて洗面所へと向かう。
歯磨きと洗顔を済ませてキッチンに行くと、舞の手によって朝食が並べられていた。
まだ準備は終わっていないが自分の座席へと座る。
だいぶ前に、舞にばかり家事をやらせるのはどうかと思い、食器を並べるくらいと無理矢理に手伝いをしたのだが、何故か号泣。結果、泣き止むまで付き添い、遅刻&朝食抜きのダブルパンチを食らってしまったことがある。
嬉しそうにやっているし、泣かれるのもあれなので、好きなようにさせている。
「今日のメニューは、あさりのお味噌汁、鯖の味噌煮、ポテトサラダ、納豆だよ」
「相変わらず、朝から凄いメニューだな。さすが舞。」
褒めてやると照れ笑い浮かべる。
妹を見て和んでばかりいられないので、場を収める意味も含め勢いよく手を合わせる。
「さて、それじゃあ冷めない内に、いただきます!」
「いただきます」
こうしていつも通りの朝が始まった。
1章:日常
「「いってきます」」
舞と一緒に家を出る。
誰もいない家だが、いってきますの挨拶は日課となっている。
現在は8時40分、舞が朝食の片付けを終わらせるとだいたいこの時間になる。
学校までは徒歩10分程度、授業は9時からなので今から行っても結構な余裕がある。家が遠い人は自転車で1時間という人もいる中、申し訳ないと思わないこともない。
僕と舞が家の敷地から出ると、ちょうど正面の家からも人が出てきた。
「舞ちゃん奏、おはよう!」
佐藤奏それが僕の名前だ。女の子っぽい名前の為、僕はあまり好きじゃなかったりする。
身長は172cm、中の上くらいの身長だ。
「うん。おはよう」
「おはようございます。香菜先輩」
伊藤香菜僕ら兄妹共通の幼馴染で、家族ぐるみの付き合いがある。両親があまり家にいないことから、香菜の両親には妹が中学に上がるまではだいぶお世話になった。
身長は167cmと女性にしてはやや高めだろうか。
ボーイッシュな性格をしており、その性格の為か髪の毛は比較的短めで揃えられている。本人いわく長い髪の毛なんぞ邪魔ということらしい。
香菜は元気だけが取り柄で、幼少時から病気にかかったことがなく、学校への無遅刻無欠席は小・中と表彰されている。
「相変わらず無駄に元気だね」
「そういう奏は元気なさ過ぎじゃない?もう老後の心配でもしてるの?」
「いや、どうしたら舞と結ばれることができるのか考えてただけだよ?」
「うん。ごめん。あたしが悪かった」
茶々を入れてきたのでボケで返す。隣では舞が頬を染めているように見えなくもない。
……気のせいということにしておく。
「あー。朝一から惚気られたー。今日はいいことない日だー」
「あははは。香菜が余計なこと言わなければ良かったんだよ」
「くそー。明日は余計なこと言わないでおこう。」
「二日おきにその台詞聞いてる気がするんだけど?」
「気のせい気のせい。……それより、止めなくていいの?」
「なんのこと?」
とてもいい笑顔でそう答える。
決してそちらには目を向けない。
隣からピンク色な気配がするのだ。「ずっと一緒……」だとか「恥ずかしいけど……」など聞こえません。どうでもいい宗教の勧誘くらい聞こえませんとも!
「……いや、なんでもなかったわ。それより、学期末考査があるじゃない?」
「うん。あるね。それで?」
「えーと……。ここで赤点を取ると、夏休みの半分が勉学で潰れてしまうんですよ」
「それは知ってる。で?」
「あたしは中間で赤点を半分取りました」
「そうだね。一人で平均点下げたものね。だから?」
僕は笑顔を崩さず目線を香菜の目から逸らない。香菜は僕と目線を合わせず、明後日の方向を見ている。
「つまり、その、ですね」
何故か敬語になった。何が言いたいのかわかってはいるが、普段怠けているからの結果なので、僕からは何も言わない。
「閣下!あたしに勉強を教えてください!」
「条件は?」
僕はタダで動いてやるような心優しい性格をしていない。ちゃんとした見返りが無ければ、香菜の勉強など見ていられない。
僕にだって兄としての見栄というものがあるのだ。
頭脳明晰容姿端麗の八方美人を妹に持つ身としては、ある程度の点数を維持できないと、鬱陶しい先生に何を愚痴られるかわからないからだ。
「ぐっ!奏様、無償という訳には……」
「夏休みにまで勉強お疲れさまです」
「期待してなかったけど、それだけはいやーーーー!!!」
結局、放課後に僕と舞にケーキを御馳走させるということで決着した。
「くう……。あたしのなけなしの小遣いが……」などと言っていたが、そこに情けは入らないのである。
生徒玄関で舞と別れ、僕と香菜は教室へと向かう。
僕と香菜にはもう一人、共通の幼馴染がいる。
北原光幼稚園のころからの付き合いで、学校を挟んでちょうど反対側に家がある。
身長は163cmと男にしては背が低目だ。非常に騒がしいやつで、クラスのムードメーカー的なポジションに立っている。
クラス対抗の球技大会や文化祭などに率先して盛り上げている。
光はとてもいいやつではあるのだが、問題が一つある。
それは―――
教室のドアを開ける。
ドアを開けたことでクラスメイトの数人がこちらを向いたが、すぐに近くの友人と取りとめのない会話に戻った。
そんな中、一人だけ僕と香菜を見ると近寄ってくるやつがいた。
「おはよう光」
こちらに近寄ってきたのはもう一人の幼馴染だった。近寄ってきた幼馴染に声をかける。
「……」
返事がない。僕はどうかしたのだろうかともう一度呼びかける。
「光?どうかしたの?」
「……」
体調でも悪いのかと不安になってきた。
顔を覗き込むようにもう一度声をかける。
「光?」
「……ちっがーーーーーう!!」
唐突に叫び声を上げた幼馴染に、思わず体を引いてしまった。
顔を見ると目がつり上がっている。普通に怖い。
「奏君!いつも言ってるのにどうしてわかってくれないかな!」
「……何がでしょう?」
何を言っているのかわかってはいたが、わからない振りをしてみる。せめてもの抵抗だ。
「私のことは、光って呼んでって言ってるじゃない!!」
そう、今僕の目の前にいる幼馴染(男)は、あろうことか女性用の制服を着ており、かわいらしく上目づかいで見てきたりしている。
それが下手な女子よりかわいいのだからやるせない。
「しかしな、光……」
「光」
「……」
「ひーかーり」
僕は助けを求めて香菜に目を向ける。
ばっちり目が合った後、何事もなかったかのように授業の準備(授業中は寝てるだけ)を始めた。
「……わかった。光、落ち着いてくれないか?」
「うん♪それでよし♪」
「……」
光はそれで満足したのか自分の席へと戻っていった。
僕は思わず、僕を見捨てた香菜に怒りの視線をやった。(ちなみに香菜は僕の隣の席だ)
「……や、あれは無理だって」
香菜は視線に耐えかねたのか1分も持たずに弁明する。
「だからって何も見捨てることはないんじゃない?」
「いやー。あたしに彼、じゃなかった、彼女の相手は荷が重いわー」
「僕には相手することすら叶わないよ……」
ぐったりしながら香菜に八つ当たりをする。しかし、精神的に参ってしまっているので、いつものように勢いがない。
「それにしても、いつからああなったんだっけ?」
「中2くらいじゃないか?確か、舞が同じ学校になった辺りからああなってしまったような……」
「あたしが覚えてるのは進路希望調査表だけかな」
笑いを堪え切れないとばかりに口元に手を当てる。
僕はそんな香菜を睨みつける。
「こっちは笑いごとじゃないんですが?」
「いや、ごめん。でも、あれは、思い出しただけで、っつ!」
爆笑寸前とばかりに大きく肩を震わせている。
香菜は肩を震わせながらも言葉を続ける。
「だって、お嫁さんになる!とか、大きく、書いて、あったんだもの」
「僕はおかげで、残りの中学時代は地獄だったよ……」
そう、光のやつが進路希望調査表に『私は奏君のお嫁さんになる!』と用紙いっぱいに書いてくれたおかげで、僕にまで多大な被害を与えてくれたのだ。
それから卒業するまで、男どもに「嫁さんがいるやつはいいよな」などとからかわれ続けた。
「いいんじゃ、ない。もらって、あげた、ら」
呼吸困難にでもなったかのように途切れ途切れそんなことを言ってくれた。
「嫌だよ!僕にだって選ぶ権利はあるだろ!」
香菜があまりにも酷いことを言うので、思わず怒鳴ってしまった。教室中に響くほどの声量で、だ。
もちろん、当の本人にもばっちり聞こえてしまった訳で……。
「奏君……。ううっ……」
クラスメイト達はもちろん僕ではなくムードメーカーの光の味方だった。
「泣かせるなんて最低ー」
「同じ男として嘆かわしい……」
「光ちゃんの気持ちも考えてあげなよ!」
「これは責任取るべきじゃね?」
そして、クラス中で責任取れコールが巻き起こった。
香菜はもちろん早々に戦線離脱している。
扉は完全に閉じられている。そして、光が涙に濡れた瞳でこちらを見ている。
頬が上気しており、とてもかわいらしい。
そんな時、僕の中で何かが囁いた。
『見た目だけなら学校内で五指に入るんだ。妥協しちまえよ』
しかし、どれだけかわいかろうが相手は男である。
譲れない一線というものはあるのである。
「……奏君。僕、卒業したら性転換することになってるんだ。だから……」
それを聞いて僕の中の何かが多いに揺らいだ。
『あんなかわいい子そうはいないぞ?卒業まで我慢できたら……』
そして、ついに僕は、その気持に答えてしまった。
クラスメイト全員からの猛烈の熱狂。
当然のように巻き起こるキスコール。
―――そして僕は
―――皆に祝福される中
―――越えてはいけない一線を
―――越えてしまった
―――END―――
プロローグとか1章とかあるんでわかるかもしれませんが、これは本来まだ続きます。
BL部分が主人公の妄想というか、夢落ちという流れなんですが・・・。
ものすんごい酷い出来になったので、これは上げるしかねぇだろう!!と暴走しました。
本当にすまんかったorz
さて、これ、どうやって修正しようか・・・
助けて、ドラーえもーん!!>(´Д`;)