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序章 6

……確かに、塩漬けの豚肉、たくさんだったし、豚肉の塊も鶏肉も、マシューさんは自分でどうにかできるくらいしか買わなかったけど、あのおばさん、めっちゃくちゃ買ってたものね……

それを監督する立場のエラさんは、その場に参加していなかった。

お部屋で、侍女の人に色々聞かれて答えていたから、かな。

まあ、そんな人間のあれこれは、ブラウニーには関係ないし、このお屋敷が潰れても、それはブラウニーの管轄外だから、実家に帰って、新しい就職先を探すだけなんだけどね。

そんな風に考えて、今日もとりあえず畑仕事をして行く。うれしい事に、人参もじゃが芋も、いい感じに育っているし、いろんなお野菜も香草もすくすくと育っている。

そして私は日常的に、やってくる猪と対決をし、猿をぶん投げ、熊に威嚇し、狼に至っては協定を結ぶ事になってしまった……うん。

狼はここで食べるものないし、獲物を追いかけて畑を荒らす感じだから、だろうか。

鹿? あれは許せない。何せ大食い、ふっざけないでよ、その青菜は私のだ!!

そんな喧嘩もしているし、それなりに柵も立てている。無論ばれないようにこっそりと。

だからここのお屋敷の人たちは、皆、「自分じゃない誰かが積極的にやっているんだろう」という思い込みの元活動している。

それを私は都合よく利用させてもらうだけなのよね。


でも私は、これから起きる想定外の事に、対処する方法を見つけられなくなりそうだった。

その想定外の事って言うのはね……私の分のお料理が出ないって事なの。

なんで?! こんなに一生懸命に労働してるのに、ごはんを出す事がないって何なの!!

マシューさんは毎日三回、美味しいものをくれたのよ!

朝は黒パンとチーズでしょ、後蜂蜜入りのあまーい山羊のミルク。

お昼は焼いたお野菜とお豆の穀物粥でしょ、後山羊のミルクのお茶。

そして一番豪華なお夕飯は、前述したとおり!

それなのに、新しく来た料理人のおばさんは、残ったスープとか、お肉の欠片とか、お野菜の余りとか、帰る時に持って行っちゃうの! なんでよ!!! そんなのおかしい!!

そんなわけで、私は、こういう時の緊急対処法として、人々が寝静まった時間に、こっそりと、屑野菜とかをかき集めて、マシューさんがいた時とは明らかに差がある料理を自炊するほかなくなった。

材料使えよって思うでしょ、でもほら、備蓄とか、在庫管理とか、エラさんやってるはずだから……料理人のおばさんもやっているはずだから……私が勝手に使って、数が合わないとか、そんな怪談みたいな事するのもね、いけないと思って。

ブラウニーの心得 第一! 暮らしている家で住人達が怖がることをしてはならない!!

っていうの、私教習の時にものすごく復唱させられたこともあるし。やっぱり、怖がらせたらブラウニーとして失格なんだよね。

私たちはお手伝い妖精で、怖がらせる方の妖精じゃないからね。それに怖がらせたら、気持ちよくお洋服とか、素敵エプロンとかもらえないじゃない? だから!

……でも、でも……


「マシューさんの美味しいご馳走が、食べたいなあー」


私は、畑から間引いたお野菜を、玉ねぎの皮とかをコトコト煮込んで作ったスープの具材にして、馬のために購入している燕麦のお粥を食べながら、


「……辛……」


とぼやくのであった。

私は今まで運がいい方で、ごはんを出してもらえなかった事がなかったから、こんな状況に陥った事がなくって、どんなに技能教習を受けて、技能訓練に合格しても、越えられない物があるんだなって、思っちゃうわけだ。

でも、だからと言って、優秀ブラウニーのプライドが、私に手抜きを許したりなんかしない。

ちゃんとかまども、調理器具も、家中の床も、全部ピッカピカにするし、家の事を全部任せられている、オールワークスメイド、という分類になるという使用人さんの手が回らない所を、ばれないようにやっていくだけ。


「働くのは良いけど、ごはんは美味しい物を出してほしいな……」


ベーコンとか、ハムとか、出さなくってもいいから!






ところが、こんな風な生活は長く続かなかった。

何でって? 私は特に何も悪い事はしてないよ? でもね、でもね……

なんと! 一人だけの、オールワークスメイドの女の子が!



仕事の量の多さに耐えられなくって、夜逃げしたのだ!



そんな風に逃げ出すから、旦那さんは腹を立てて、女の子の家をいじめたらしい。

女の子の家は、旦那さんと関係のある、力関係的には下の方の商家だったらしくて、あっという間にそのお家はさびれたらしい。

その家の当主さんが、何度も旦那さんに謝罪に来たけど、旦那さんは、許さなかった。

どうやら資金援助をしていたらしい。

そういうわけで、女の子は去っていき、新しい、身元の確かな女の子を、またオールワークスメイドとして雇い入れたけど、その子も夜逃げ。次の子に至っては、


「ふざけないで!! 一人でこのお屋敷を維持できるなんて化物だわ!」


とまでエラさんに向って言い放ち、義理とはいえ妹を、化け物、と侮辱されたイオニアさんが、彼女を平手打ちして、蹴りだす勢いで追い出した。

その後の子は、仕事の多さ以外に


「こんな獣の多い所で一人で仕事なんて無理です! 夜中に狼の遠吠えがして眠れません!」


と泣き叫び、エラさんがどうにかできる問題じゃなくなり、ついにアニエスさんが、女主人として腰を上げ、旦那さんに



「一人でこの家の事を行わせるのは、現代の都会の女の子には無理と判断されるようです、エラに家事をさせるおつもりがないのなら、雇う人数を増やします」


と手紙で断言し、家の事をする住み込みの子は、一人から三人に増員された。

そういうわけで、料理人のおばさんの仕事も増えたから、今度は料理人のおばさんが、私にも手伝いをよこせ、と主張し、三人のうちの手の空いた誰かが、料理の手伝いもする事になっていた。



そんなごたごたが起きていても、誰も庭仕事と、畑仕事と家畜の世話をしていないのに、お家の表庭は綺麗に整えられていて、野菜畑と香草畑はいつでも野菜が生き生きと成長していて、家畜たちは元気、という事から、使用人の人たちは


「実はこの家には、姿を見せる事も許してもらえない、もう一人の誰かがいるに違いない」


と、言い出していたらしいのだが……私が気付いたのは、いろんな事が進んだ後だった。

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