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四章 8

「どうしたらいいんだろう」


今日も私は、洗濯物を綺麗に干して、それを確認した後で、さて庭仕事と畑仕事だ、とそれらをしながら、ぼんやりと独り言を漏らした。

お屋敷に、人間として勤めるようになって何日も経っているのに、いまだに、私というブラウニーにたいしてひどい事をしたのは誰か、というのが見つけられないでいるから。

魔法とか使えばいいんじゃね、みたいな意見の人も多いだろうけれど、ブラウニーは家事能力は突出しているけど、魔法の力っていうのを行使するのはあまり、上手じゃないんだ。

ブラウニーという妖精は、いるだけでお家に幸運が舞い込むという方向でしか、魔法の力を外に出せないの。

他の妖精たちだって同じ事が言える子も多い。魔法使いのように、何から何まで魔法で終わらせられるっていう妖精は、妖精女王のティターニア様くらい、色々卓越していないと無理なんだ。

だから、普通の人間のように情報収集をして、ああだこうだと頭を悩ませて、やっているわけなんだけど……使用人の皆の持っている情報では、どうやらお嬢様たちの誰かか、奥様か、という所までしかわからないの。

そこからさらに深く追求していって、犯人を捜したいんだけど、使用人の身分じゃ、あんまりそういうの探れないし、侍女の皆さんからもらう情報にも限りがあるわけで。

例えば、お嬢様たちが日記をつけていて、それを盗み見る、とかそういう、あんまり得意じゃない事をしなくっちゃいけないかな……なんて、考えちゃうくらいだ。

まあ、私もティターニア様も、おじいちゃんも気が長い方だし、見つけるっていうのが私に課せられているお仕事の一つだから、ちまちまと情報を集めていく事も、大事なのだけれどね。

そんな事をいくつも考えながら、ぶちぶちと楽しく雑草をむしっていた時の事だ。


「働き者ね、ビスケット」


私の背後から声をかけてきたのは、畑仕事が好きだという、意外な事実を知ったイオニアさんだった。


「ありがとうございます、私の仕事なので」


私はぺこりと頭を下げて、彼女を一度見てから、雑草むしりを再開する。

そんな私を見ながら、イオニア様が何を思ったのか、青菜の間引きを始めたのだ。

手つきがかなり慣れている。やっぱり、山の中腹という場所柄、自給自足のお嬢様生活をしていた事も、慣れている理由なんだろう。

そんな事を思いつつ、私が黙って仕事をしていた時の事だ。


「ねえ、ビスケット。もしも、よ? もしも、王宮から、茶色い働き者のお嬢さんって事で、舞踏会に招待されたら、あなた、参加してくれる?」


「えっ……」


イオニア様は、間引く手を止めないで、世間話みたいな言い方で続ける。


「前にこのお屋敷に、ブラウニーという働き者の、気質のいい妖精が働いてくれていたみたいなのだけれど……その妖精に王宮から招待状がきた翌日に、いなくなっちゃったみたいなの。こなされていた仕事が減ったから、お母様がそうだろうと判断していて……あの時、ネリネの妖精に関する話を聞いていたのは、お母様をのぞけば、私とオーレリアと、エラだけだから、私達の誰かが、何か失礼な事をしてしまったみたいなのだけど……オーレリアも特に何もしていない、というか綺麗なリボンを部屋中をひっくり返して探してたくらいで、私も上等な銀のボタンを貴重な物入から探してたから、どっちもブラウニーに、失礼な事をしていないと思うのだけれど……この家の事を一人でこなすという事が、どれだけ大変かわかっているエラだって、失礼な事をする考えは持たないはずだけど…… まあ、とにかくいなくなっちゃったの。そうすると、うちの若い女性にあてられた四枚の招待状のうち、一枚は使えなくなってしまうのよ。それも、王子様直々に招待した、茶色い働き者のお嬢さんあての招待状が」


この言い方だと、イオニアさんもオーレリアさんも、私の事気持ち悪いという考えではいないみたい。

という事は、可能性が一番高いのは、エラさんなのかな。

でも、エラさんだって気性はそんなひどい人じゃないって思うし……オーレリアさんが何か隠している事もあるかもしれないし、一体誰を疑うべきなのかわからない。

まあそれは置いておいて。

私は恐る恐る、という声で問いかけた。


「私に、その、茶色い働き者のお嬢さんの、替え玉をしてほしいという事ですか」


「……うん、そういう言い方になってしまうわね」


イオニアさんが困ったように笑った。たぶんとても一生懸命に考えた結果が、これなんだろうな、と私でもわかる口ぶりだった。


「ブラウニーがいなくなってから、お母様が、実は彼女は妖精です、と王宮に手紙をしたためたのだけれど、妖精なわけないだろう、妖精はもっときらきらと美しい存在である、みたいな返答がきて、頭を抱えているのよ」


確かに、いろんな妖精がいて、結構大部分の皆が、きらきらした羽を持っていて、輝くオーラをまとっていたりするものね。

ブラウニーたちだって、妖精の里では、それなりに綺麗だよ! というのを私は呑み込んだ。

人間の世界に来ているブラウニーの皆は、きらきらとはほど遠い茶色の皆だからである。

でも事実を伝えたのに信じてもらえないアニエスさん、困っているだろうな……

というのも、分かった。


「で、もうすぐ、というか三週間後が、その問題の舞踏会なのだけれど」


「はい」


「きちんと説明しても、理解してもらえないとあって、お母様は、茶色いお嬢さんならビスケットがいるから、もうこうなったらビスケットに代わりに出てもらおうかしら、とおっしゃっているの。あなた、妖精の身代わりとかできそう?」


「……ええっと、あの、エフトラでのお話をしてもいいですか?」


「いいわよ、妖精の里に一番近いと言われている土地だもの」


「いなくなった妖精に招待状が送られて、どうにもいかなくなった時は、妖精の里に手紙を送る、というのがエフトラでは一般的なんです」


「よくある事なの?」


「普通は、とびっきり美しい妖精のお嬢さんとかお坊ちゃんとかに、一目ぼれしちゃった偉い人が、そういうのを送っちゃうんですよ。で、送られた家がどうするかって言ったら、妖精の里に手紙を送って、その時だけ来てもらったりするんです」


「そんなに、エフトラは妖精の里とつながりがあるというの?」


イオニアさんがびっくりした顔で言う。私はこくりと頷いた。

だってエフトラって、妖精出張所みたいな側面が実はあって、エフトラの住人の半分は妖精というのが、地域の暗黙の了解なのだ。

だから、人のふりして人間の世界に溶け込む時に、出身地として皆、エフトラを上げるわけだ。エフトラだったら口裏合わせが楽だから。


「今回のブラウニーさんは、何か余程の訳ありみたいですし、妖精の里にお手紙を送って、代わりにビスケットを連れて行ってもいいですかって、丁寧にお願いすれば、きっと理解してくれると思いますよ」


私が本人だけどねとは言わずに、エフトラあるあるを言うと、イオニアさんは問いかけてきた。


「それなら、出来るかもしれないわ。ビスケット、妖精の里へお手紙を送る時の作法を教えてちょうだい。送り方も」


「はい!」


私はにっこり笑って答え、イオニアさんはそれを見てほっとした顔になっていた。

きっと、いなくなった茶色い働き者の妖精の事で、アニエスさんとかめちゃくちゃ悩んでたんだろうな、と思う感じがそこにあったのだった。

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