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四章 6

「奥様、こんにちは、どうなさいましたか?」


厨房に向かうと、そこではジルさんとシャルさんとネリネさん、それから侍女のカナリアさんとかカロリーナさんとか、カタリナさんが休憩のお茶をしていた。

ネリネさんは給仕に回っているみたいで、椅子に座っていた皆さんに、お茶を淹れている。


「皆さん、こちらのお嬢さんが、今日から新しくこのお屋敷で雇う事にした雑用係です」


「ビスケット・シュガーです!! 皆様よろしくお願いします!」


私はにっこり笑って挨拶をした。ジルさんとシャルさんは私を見ていたから、ちょっと笑ってくれた。うん、印象は上々なのかな。

侍女の皆さんも、どことなくほっとした顔になっている。


「ビスケットは、割と何でもこなすという事です。ジル、シャル、あなたたちが仕事を教えてやりなさい」


「はい、奥様」


「かしこまりました、奥様」


「ネリネ、今日から一人分食事が増えます、配分に気を付けるように」


「……承知いたしました」


では、後は使用人たちで交流なさい、とアニエスさんはお屋敷の仕事のために去って行った。

残された私は、勧められるままに一番下座の椅子に座り、お茶と二度焼きしたカリカリのパンのお茶請けをもらった。

わあ、焼き直したから水分が飛んでて、さくさくかりかりで、美味しい!

お茶と相性がよくっていいな、お腹にもたまるし!

と喜んでそれを食べながら、私は皆さんの自己紹介を聞いた。

これまでもここにいたから、知っているけれど、知らないって事になってるから、はい、と素直に聞いている。

そしてあらかたの自己紹介が終わって、時計を見ると、そろそろ仕事に戻る時間っぽくて、侍女の皆さんが先に立ち上がって去っていく。

それから、食器を持ってジルさんたちが洗い場に行くから、私も皆さんの食器の残りを持って、洗い場に行く。


「……とりあえず、洗い物をしてもらいます」


ネリネさんがお夕飯のパンを焼くために、手を粉まみれにしているから、そう言った。

そう言えば、ネリネさんはお茶の休憩しないで、粉練ってたな……

ネリネさんの休憩っていつなんだろう。無理しないといいんだけど。

そんなわけで、お屋敷での初仕事は洗い物。もちろん私に洗い物の苦手なものはない! というわけで、ちゃっちゃと洗い物を終わらせて、一点の曇りもなく拭いてしまう。


「うわあ……腕利き」


私があんまりにも手際よくやるからか、ジルさんが呆気にとられた顔で私を見ていた。




それから、洗濯物を取り込んで、綺麗に畳んで、畳んだらどのお洋服がお嬢様のものか教えてもらいながら、お部屋ごとに片づけていって、お夕飯のために食堂をお掃除して、テーブルクロスとかにシミとか汚れがないか確認して、それが終わったらお嬢さまたちが使う場所をまたきれいに掃除して……やる事は一杯あった。

私がいた時は、ここまで何度も掃除しなかったけど……と思って、聞いてみる事にした。


「こんなに何度もお掃除するものなんですか?」


「今まではそうじゃなかったのだけれど……エラお嬢さまが、最近厳しいの」


「ええっと……お嬢さまは三人いらっしゃって……末のお嬢さまでしたっけ」


「そうよ。旦那様の実の娘の方なの。この方が最近、色々なものに手厳しくなってしまって」


ちょっと掃除をしていないだけで、怒られるし、お給金減らされちゃうのよ、と小さな声でジルさんが言った。

私は手早く、埃を取ったり床を掃いたりして、窓とかの曇りや暖炉を磨く、先輩たちの話を聞く。

三人で連携して掃除すれば、そんなにも大変な作業じゃない。

そういうわけで、ぱっぱと終わらせて、それが終わったら、今度は畑の水やりが必要なものの水をやって、家畜を厩舎に戻す作業なんだって。


「私たちこれが苦手なのよ!! 庭仕事も土いじりもした事がないし、家畜の世話とか本当に縁がなかったし、面接の時に仕事内容として言われなかったし!」


というのが、シャルさんの嘆きだった。


「お二人は、どちらの出身なんですか?」


「タラよ」


「タラ! それはまた、都会中の都会ですね!」


「そうなのよ、こことは違ってとっても栄えていてにぎやかで、夜も明るい街なんだけど……そこで旦那様が、私達の親に声をかけて、こうして働いているのよ」


そういうお喋りをしながら、私は水が必要な野菜とか香草に水をやる。


「あなた慣れてるわね……」


「エフトラくらいになると、どの種類はだめで、どれは大丈夫かって、分かるものなんですよ! それに鍛えられますから!」


水をやったら、ほいほいと家畜のガチョウとか鶏とか山羊とかを追い立てていく。

彼等は私の事を知っているから、嫌がる事もなく歩いてくれる。


「……仕事の経験ってこういう時に発揮されるのね」


感心した顔のシャルさんが、ほっとした声でこう言った。


「これが出来る人が来てほんっとうによかった……!! 私達、家畜の世話とか未知の世界なんだもの」


「これも経験ですよ。私都会のお洋服の事とか何にも知りませんし」


いいつつ家畜を厩舎に入れ終わって、今度は門とかの戸締り。門の頑丈な鍵をかけて。家の周りを見回る。


「本当なら、これも男の人がやる事なんだろうけど、このお屋敷はお嬢さまがたが三人もいるから、男の人がいないのよ。だから使用人の私達がこれもするの」


「不埒物の対応のために、トラばさみが必要だったりしませんか」


「……トラばさみ……?」


「ええっと……?」


真面目に言ったのに、二人はトラばさみを聞いても怪訝な顔をするばかりだった。

罠に使うトラばさみにも、縁がないんだな……とここで私は思った。

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