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四章 2

「あー、もう!! 終わらないったらありゃしない!!」


「家畜の世話ってもううんざり!」


二人のオールワークスメイドが、いらいらした声で、洗濯物を抱えて歩いている。十人以上の洗濯ものを、一気に洗濯しなければならない彼女たちの仕事は山積みで、このほかにも掃除や畑仕事や剪定や、あらゆる家の事が彼女たちの背中にのしかかっている。


「なんで急に色々な事が終わってなくなっちゃったの!」


「前だったらいろんな事が途中まで終わってたり、終わらせてあったりしたのに!!」


彼女たちの言葉はもっともで、それは彼女たちが知らない、見た事もない手伝いをしている誰かさんが、色々な事を済ませてくれていたからである。

そして彼女たちはそれがどれだけすごい事なのか、身をもって知る事になっている。

それはそうだ。彼女たちは文句を互いに言い合いながら階段を降り、すれ違ったエラが、厳しい顔で彼女たちにこう告げた。


「あなたたちの使用する階段は、ここじゃないわ。どうしてここを通るのかしら」


「す、すみません!!」


「ここが一番近かったので……」


「遠かろうが近かろうが、あなた方が使っていい階段や通路はここではないわ。掃除の時以外はここを通らないでください。次に同じ事をしたら、お父様に知らせて、お給金を減らしてもらいますよ」


「待ってくださいよ!! これ以上お給金を減らされたら、私達のお給金は半額以下に!」


ジルが悲鳴を上げると、エラが厳しい顔で言う。


「あなたたちのためなのよ、ジル、シャル。私が優しいから、二度目はないと教えてあげているの。お義母様たちだったら問答無用で、お給金が減るわよ」


ジルが唇をかみしめる。言葉を言いたげに口を開こうとしたシャルの脇腹を彼女の肘が突き、シャルを黙らせた。


「あと、品位を問われるから、誰かしらに聞える大声で、文句を言いながら通路を通らないでください」


エラはそれだけを告げて、上階に上がっていく。降りた二人のメイドは、見えないようにべえっと舌を出した。

そして二人は、遠回りで面倒だとわかっていても、これ以上お給金を減らされるわけにはいかないので、言われた通りに裏の通路を使い、洗濯場へ向かおうとした。

そんな時だ。

玄関の扉がこつこつと、礼儀正しくノックされたのは。

そしてここにいるのは二人だけで、応対するのは二人のどちらかになる。

ジルとシャルは顔を見合せ、不機嫌の度合いがましな方が、玄関に出る事にしたのだ。

そしてジルが玄関から応対のために出ると、そこに立っていたのは、一人の少女だった。


「あ、あの、ええっと……すみません、ここで使用人を募集していると、求人広告に書いてあったので……来たんですけど……」


ジルは、少女がしっかりと命綱よろしく握りしめている求人広告を見やった。

それは数か月前に旦那様が出した求人広告で、日付からしても間違いない。

そして今、求人は終了している。

おそらく、この少女の暮らしていた場所が超田舎で、この求人広告が回ってきたのが最近だったのだろう。田舎によくある話だ。流行などもなかなか伝わらない地域もあると聞く。

ジルは彼女を見下ろした。ジルは普通の身長だが、少女はそれより若干低く、しかし骨太で力が強そうだった。

髪の毛は美味しそうなビスケットブラウン、瞳はそれより濃い、チョコレートブラウン。日に焼けた肌にそばかすが散っている。

口は大きめで、なんとなく愛嬌というものがある顔だ。

手をちらりと見ると、働き者の手をしていた。つまりやや荒れていて、爪も伸ばされていないし、染められてもいない。

着用している衣装も、質素なもので、今日は面接にもなるから、第一印象を良くしようとしたのか、農村でよく見るキャラコの布地を使ったワンピースは、お手製の刺繍が入っている。

全体的に、悪い印象を受けない女の子だった。

その女の子が、どうしよう、採用されるかな、という顔で、じっとジルの様子をうかがっているので、ジルは意地悪をしようとも思えず、彼女にこう言った。


「奥様に聞いてくるから、あなたは厨房に案内するわ。シャル、私直ぐに戻ってくるから、一寸厨房に行くわよ」


「早く戻ってきてよ! 洗濯物が一人じゃ終わらないんだから!」


「分かってるわよ!」


そんなやり取りを同僚と行い、ジルは厨房へ少女を案内した。


「じゃあ、あなたの名前は、ビスケット・シュガーというの」


「はい。名前を聞くと、皆、美味しそうな名前だって言います」


「そうね。甘くておいしいお菓子の名前みたいだわ」


「このお屋敷は何人の人が住んでいるんですか?」


「皆で十三人がいつもは暮らしているわ。でも旦那様が帰ってきたら十四人」


「多いですね……」


「あなたの暮らしていたところはもっと少ないの?」


「人間よりも羊とかの方が多い地域で」


「なるほど」


牧歌的な田舎に暮らしていたのだろう、とジルは判断し、厨房で仕込みを行っていたネリネが、やっと一時的に休憩をとれた様子で、椅子に座り込んでいたため、声をかけた。


「ネリネ、新しい仲間になるかもしれない子よ。お茶を出してあげてちょうだい。私これから洗濯なの! シャルを待たせてるのよ!」


ネリネはそれを聞くと顔をあげて、眼鏡をずり上げて答える。


「……わかりました。お客様、こちらへどうぞ」


ネリネはそう言って、それなりにまともな椅子にビスケットを座らせて、お茶の用意をし始めた。

それを見届けて、ジルはこれまた急いで、奥様に、採用希望者がいる事を伝えに言ったのだった。

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