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三章 2

そしてお夕飯の時、給仕とかそういうものも終わらせた、オールワークスメイドの皆さんと侍女の皆さんが、おいしそうにお食事をしてお喋りを、していた時だ。

侍女のカナリアさんが口を開いた。


「ねえ、皆髪の毛は茶色じゃないわよね」


「見ればわかるじゃない、茶髪はいないわよ。カナリアさんもカロリーナさんもカタリナさんも、色味は違うけどこの国によくいる金髪で、私も金髪、ジルは濁った灰色、ネリネは黒髪、茶髪はどっちかと言うと西の方の髪の毛でしょ、いないわ」


「そうよね……先ほど、私は奥様から、招待状を受けとったイオニア様とおしゃべりをして知ったんですが……」


言いにくそうに話し始めたカナリアさん。皆カナリアさんの話に耳を傾けている。

ネリネさんは黙々とパンをスープに浸して食べている。一番労働しているネリネさんは、皆より食べる人なんだよね。すごく食べる。


「お嬢さまたちは、三人。なのにお家のお嬢様に、と渡された招待状は、四枚だったそうで……三枚はきちんとお嬢さまたちの名前がそれはそれは綺麗な書体で書かれていたそうですが、四枚目が問題で」


「私達の誰かって事? ねえ、私達も舞踏会行けちゃう系!?」


身を乗り出してはしゃぐシャルさんに、カナリアさんは続ける。


「四枚目の宛先が、『茶色の髪の、茶色のよれよれの洋服の働き者さんへ』とあったらしく……奥様はそんな人間は屋敷にいない、と慌てていますし、イオニア様もオーレリア様も、自分達の髪の色を、どう間違っても茶髪と見間違えないし、使用人たちも皆その色ではないという事になっていますし……一体誰なんだと、言っていて。しかし、王家からの招待状に、参加も不参加も連絡せず、出席しないのは著しいマナー違反、どう対処するべきか……と頭を悩ませていて。誰か何か知っていません? このお屋敷で雇われていないけれど、こっそりここで働いている人がいるとか」


ジルさんとシャルさんが、顔を見合せた。二人は、私を見た事がないけど、私がいるって事は気付いているから、思うところがあったんだろう。


「侍女の皆さんには管轄外だから、言わなかったけど……」


「いるわよね、このお屋敷、もう一人」


「でも、奥様達が、完全に存在を知らないとは思わなかったわ……」


「そうよね、隠されたお嬢様とかだったら、奥様がそんなに困るわけもないし……」


「もう一人いるの? 私達挨拶もした事がないわ」


カロリーナさんが不安げに言う。それにジルさんが言った。


「このお屋敷で、私達の誰もやらない事を、こっそり、一人で全部やってのけちゃう、すごい腕前の人がいるのよ。でもだーれも、見た事がないの」


「私もジルもネリネも、姿を見た事がなくって、でもいると考えないとありえないような不思議な事が、いくつもいくつも起きているのよ」


「それが、悪い事じゃなくって、皆にとってもすごく助かる事ばかりだから、奥様が隠しているんだとばっかり思っていたんだけど……」


ジルさんもシャルさんも顔を見合せた。そんな時だ。


「……奥様は今日、お暇なお時間は?」


ネリネさんが食べ終わった食器に、お変わりのスープをよそいながら口を開いた。


「就寝のお時間までだったら、空いているはずですよ」


「分かりました」


「ネリネ、あなた何か知っているの?」


「もしかして、見た事があるわけ?」


仲間に聞かれたネリネさんは、スープのお変わりと、皆が食べないからっからに乾燥したパンを食べながら、こう言った。


「……知っている、と言えば知っています。こういうものに関しては、少しばかり詳しい育ちなので……」


こういうものに関しては少しばかり詳しい……そう言える人はなかなか、こっちの事情に詳しい事が多い。

齧った程度だったらこんな事言えないから。

少しばかり、と謙遜する人って、だいたいにおいて、洒落にならないくらい知ってるんだよね。

だからかな、最初の時も、私の事、というかブラウニーとかお手伝い妖精の事知っていそうな感じの扱いしてたのは。

私は皆が食べ終わってから、こっそり一人でお食事の時間かなと思ったんだけど、ネリネさんが何て言ってアニエスさんに説明するのかなって気になったから、そっちを優先して、ネリネさんの後を追いかけたのだった。




「失礼いたします、奥様。……招待状の事でお悩みだとお聞きしましたので……」


丁寧なノック、応対の後に入る仕草、それら全面的に、ネリネさんは水際立ったものがあった。

あれ、オールワークスメイドって、そこまでの行儀作法は身に着けないって聞いてたけど、ジルさんよりもシャルさんよりも、ネリネさんの仕草、すごい綺麗だよ。

毎日パンをこねて、何かして、あれしてこれしってやってるネリネさんと、今の仕草が完璧に上級使用人なネリネさんが一致しない。

そんなネリネさんに、アニエスさんも目を丸くした。


「あなた、思ったよりも仕草が丁寧だったのね」


「……私の詮索はおやめください……奥様ならわかってくれますよね……」


ネリネさんの言い方は含みがある。確かに、上級使用人の育ちなのに、落ちぶれてこれ位の家の、それもオールワークスメイドになる人はいないわけじゃない。

いわば転落人生ってわけで、教えたい過去でもない事が多いのだ。

だからネリネさんも、そんな過去があると匂わせている。

ネリネさんの言葉に、アニエスさんは理解したか察したかしたみたいで、何も言わなかった。

その代わりに、ネリネさんを見て、問いかけた。


「招待状の事で何かお困りだと聞きました。茶色の髪の人間が、この屋敷にはいないとお悩みだそうですね」

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