序章 1
以前投稿した際に、矛盾が大量発生したため、削除しましたが、矛盾を訂正したため、再投稿します!!
新しい私の家は、一般的なこの辺のお家よりも少しばかり大きくて、年代を感じさせる物で、ところどころ蔦が絡まっている、古風なお屋敷だ。
さて、今日も一日、がんばろう。
私は気合を入れて、立ち上がり、まずは家中の掃除を始めた。
とにかく割と大きなお屋敷である者だから、家中の埃を集めて、箒ではいて、ごみを処分して、窓を磨いて、ドアノブとかを磨いて、掃除という掃除を済ませる。
次は家畜の世話で、私は裏庭の方で飼育している家畜たちのために、餌を餌袋から取り出して、裏庭にでる。
裏庭に出ると、私に対して何も警戒しない家畜たちが、近付いてくるから、私は鶏とか家鴨とかに餌をやり、馬に餌をやり、馬の体をブラシで撫でてやってから、庭に出して、糞などの処分をして、飼育小屋という飼育小屋の寝藁とかを取り替える。
それら一連の作業を終わらせたら、家畜たちの様子を確認して、調子が悪い子が否か調べる。それから家畜たちを裏庭で遊ばせつつ、次は洗濯だ。
洗濯物はたくさんあるから、私は物音を立てないように、慎重に家中を見て回り、このお屋敷のお嬢さまたちの散らかした、脱ぎ捨てられた衣装とかを集めて、洗濯するために一階へ戻る。
この時音を立てないのが私の自慢だ。
そんなわけで、私はごしごしと、しかしレースとかの飾りを破かないように気をつけながら、丁寧に洗っていく。
お嬢さまたちはまた、新しい衣装を買ったらしい。新しい衣装を買うなら、シミのついていない下着を買えばいいのに、と思ってしまったりする事もある。
まあ私には、関係のない事だ。私は洗濯を済ませたら、今度はそれらを、盗まれな用に気を付けた場所に干す。この時も、無駄な皺が出来ないように、丁寧に干していく。
それも済ませたら、次は地下の厨房の掃除とか片付けである。
ある程度の規模のお屋敷の厨房、というものは基本的に地下にある物で、暗くて湿気の多い場所だ。
そんなわけで、私は地下の厨房で、昨夜も片付けたとはいえ、また料理人さんの仕事がはかどるように、料理人さんのために支度をする。まずは床とかのごみを綺麗にして、調理台を熱湯で消毒し、たくさんある真っ白に漂白した布巾をかごにセットして、それから料理人さんが使う調理器具を全部、取り出しやすいように並べて、それからようやく、暖炉に火をともす。
何故か、薪代がもったいないからである。私は別段真冬でも、地下がそこまで寒いとか考えない質なので、ぎりぎりまで暖炉に火をともさない。
火をともす前に、無論、灰の掃除は欠かさない。暖炉をきれいにふきあげる事も事も忘れない。
だからいつだって、このお屋敷の厨房の暖炉とか、コンロとかは、綺麗に磨き上げられている状態である。
私は出来る奴なのだ。
そんなわけで、私が一連の作業を、本日も滞りなく終わらせようとしている時、頭上から車輪の回る音が聞こえて来て、私は急いで物陰に身を隠した。
私が物陰に身を隠して、様子をうかがっていると、少したってから、きっと馬車を馬車止めに置いた後の、ここのお屋敷の、通いの料理人の人が、姿を現した。
そして、どうしてかわからないけれど、我ながらとってもきれいに整えておいた、気持ちよく使える厨房を眺めて、少し悲しそうな顔をした。
この人、いつも悲しそうな顔をするので、意味が分からない。
「ここのお嬢様も、何て健気なんだろう……いつもここまで、私のために厨房まできれいにしてくれるのだから。それと引き換え、上のお嬢さまたちは、なんて怠惰なんだろう!」
その料理人さんがぼそりと言った事の意味が、私には半分もわからない。分からないので放っておくわけだが、それ位になると、上の階段から、一人の女の子がやって来るのだ。
「おはようございます、料理人さん!」
「ああ、おはようございます、エラお嬢様」
「お嬢様、何て言わなくっていいのに」
可憐な花のような笑顔の女の子、エラさんは、そう言って笑った後、椅子にひっかけられているエプロンを手早く身に着けて、料理人さんに笑いかけるのだ。
「朝ごはんの支度をしましょう、料理人さん!」
「そうですね、まずはそこからですね!」
私はそれを確認してから、そそくさと、彼等に絶対に見つからないように、足音を忍ばせて、厨房を出て行くのである。
そろそろだ。
ちりりん、ちりりん、と、私の予想通り、二階の豪華な部屋の方から、呼び出しのベルが鳴り響く。
私は悪戯が好きなので、はあい、とエラさんの声で、豪華な部屋の前に立って返事をする。
「エラ! 私の黄色いドレスはどこにあるの!」
「はい、昨日お姉様が招待されていらした、ダンスパーティの後確認したんですけれど、ワインのシミがあったので、急いで染み抜きをして、洗濯をしております」
「私は今日もあれを着たいのよ!」
「申し訳ありません。今は濡れているので、着る事は難しいかと」
「もう、役立たずね! じゃあ、空色のドレスは!」
「空色のドレスは、もう流行に合わないとおっしゃって、古着屋に出したばかりではありませんか」
「……そうだったわね。ああもう! 着たいドレスが着られないなんて! もっと何着もドレスがあればいいのに! ……今日は薄青のドレスにするわ、あれは何処に置いたかしら?」
「確かクロゼットの右側の箱の中に、仕立て屋さんが直した後しまったと思います」
「ありがとう」
それに関しては何と答えればいいのか、全く分からないので黙っておく。私はドア越しに聞えた声が、最終的にこう言ったため、それには答えた。続けて、もう一人のお嬢様の声が、ドアの向こうから聞こえてきた。
幾分眠たそうな声でもある。
「エラ、私、今日はベージュのドレスにするわ。あれはどこ?」
「あちらは、昨日仕立て屋のお方が、お直しを完成させて持ってきてくださったので、お部屋の中の、白と青の縞模様の箱の中に入っています」
「あ、あったわ!」
そこで、お嬢様たちの声は止まる。それから、着替える音が少し扉の向こうから聞こえて来る。しばらく呼び出しのベルは鳴らないだろう。
私はそれを見計らったかのように、ちりりんちりりんと鳴り出した、次のベルの方に走って行こうとして……エラさんが全速力で走ってくる音が聞こえたから、また物陰に隠れる事にした。
エラさんは、そのまま、ベルの鳴っているお部屋、つまりこのお屋敷の女主人のお部屋の方に走っていき、何か言われていた。
これもこそこそと近付いて、聞き耳を立てれば聞こえるわけで、その中身はこうである。
「エラ、どういう事かしら。わたくしは、何も高級食材を惜しみなく使え、と言っているわけではないのですよ」
「すみません……」
エラさんが縮こまっている様子が、このやりとりからうかがえた。
見ていなくても伝わってくるものは、十分にあるわけだ。
「厨房の仕入れは、あなたとコックのマシューに任せているはずです。なのに何故、商家の娘だった、計算の出来るあなたが、こんなにも高い出費をそのままにしておくのですか。請求書の金額を見て、わたくしは驚きましたよ」
「すみません……今月はお野菜が高くて……」
お野菜高いのかー。でも料理人さん普通に買ってたよね、値段気にしない物なんだろうか、料理人さんって。
私そんなの、よく分からないけど。
今まで働いていたお家の人達は、お値段とか気にしている家多かったのに。
このお屋敷、お値段気にしなくていいくらい、お金持ってるんだ、すごい。
……でも使用人はいないんだよね、料理人さん以外。人間の事情ってよく分からないから、それがいい事なのか変な事なのか、わからないけどさ。
「お野菜が高い? 馬鹿も休み休み言いなさい。何のために、庭で野菜とハーブを育てさせているんですか。あなた、そう言って懐に入れているんじゃないでしょうね」
「そんなわけありません……!」
「仮にそうでないとしても、一か月あたりのこの出費は高すぎます。この調子が続くと、あの料理人も、やめてもらって、あなたに料理も任せなければならなくなりますからね」
女主人の人の厳しい声に、エラさんが何も言えなくなり、かろうじて絞り出した声で、
「わかりました……」
と言って、ドアを開ける。そのため私は、今度は気付かれないように、天井に飛び上がり、彼女が落ち込んだ様子で去っていくのを見送った。
「……庭の手入れもやっておく事にしておこうかなあ」
私はそんな事を呟いて、さて、今日は後何をしよう、と、誰にも見つからないように、慎重に廊下を歩き始めた。