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六畳一人  作者: 緋色ざき
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 鳥を育てることにした。

 大学を卒業し就職したのを機に一人暮らしを初めてからはや八年。家と職場の往復という灰色の日々に疲れた僕は、ふと入ったペットショップで、何気なく覗いた飼育ケースの中の文鳥の雛に思わず一目惚れした。その日、僕に同居相手ができ、六畳間に彩りが加えられた。

 それからの日々は、忙しくも楽しいものだった。餌やりや水やりなど、仕事と家事以外のことを行うようになり、大変な中にもやりがいを感じていた。

「ほら、ブラウン。餌だよ」

 名付け親はもちろん僕だ。瞳が茶色く光って見えることからこの名前をつけた。僕の出す餌を必死に頬張るブラウンの姿に心が躍り、まるで子どもを育てているかのようだった。

 そんなブラウンもすくすくと成長していき、いつの間にか僕の手に乗って部屋の中を飛び回るようになった。僕は朝と夜の二回、鳥籠から出してブラウンと遊ぶ時間を作った。

 ブラウンと遊ぶ中で、僕は一つ気がかりなことができた。それは玄関から居間につながるところの扉だ。アパートが古いこともあり、この扉はちゃんと閉まらないことも多い。一人の時は大して気にならなかったが、ブラウンのことを考えると、しっかり閉まるに越したことはない。

 そこで、大家さんにそのことを話しに行った。改修工事をするにも許可なしに勝手にというわけにはいかない。

「うーん、扉ね。いいよ。費用はこちらで持つからさ」

 大家さんはそう快諾してくれた。

「ありがとうございます」

 頭を大きく下げて部屋を出ようとしたところで、ふと玄関に置かれた動物のぬいぐるみに目が奪われた。

「あー、これね。孫たちが持ってくるのよ」

 そう言って嬉しそうに笑う大家さん。僕はふと、あることを思いついた。

 その夜、僕はネットショッピングであるものを購入した。ネットで何かを買うのなんてどれくらいぶりだろう。

「ブラウン。今度お前にも友達ができるぞ」

 そう言って頭をなでると、ブラウンはうれしそうにピーっと鳴いた。


 その三日後。ブラウンと遊んでいると、インターホンが鳴った。

「おっ、きたきた」

 思わず上ずった声が出た。ブラウンが机の上に止まっているのを確認して、部屋の扉を閉めると一目散に玄関へ向かい、扉を開けた。

「お届け物です」

 部屋の前には宅配業者の青年が立っていて、小さな段ボールを持っていた。

「ここに印鑑をお願いします」

 それに頷いて、判を押そうとしたところで、ピーと僕の同居相手の甲高い声が鳴り響いた。後ろを振り向けば半開きの扉と翼を上下に振ってこちらに向かってくるブラウン。一瞬背筋が凍ったが、僕はすぐに思い直した。きっとブラウンは、僕と遊びたくて出てきてしまったのだ。

 そう考えて差し出した手を、残酷にもブラウンは見向きもせずに通り抜け、六畳間の先に広がる青く透き通った空に羽ばたいていった。

 僕はその後ろ姿を呆然と眺めることしかできなかった。 

「あ、あの印鑑お願いします」

 気まずそうな青年の声に、我に返って判を押すと荷物を受け取って部屋へ戻った。

 段ボールを開けると、文鳥のぬいぐるみが二つほど出てきた。そう、僕がブラウンの友達として買ったものだ。しかしもう、ブラウンはいない。

 こうしてまた、僕は一人になった。



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