偽物王子5 完結
エレナという飲み屋は庶民が集まる飲み屋で、元気のいい女将さんと女性の店員が二人いた。
お客も3組座っており、気分良く話をしているようだ
「いらっしゃいませーお一人ですか?」
「あ、はい」
私は深くフードをかぶり、ダブダブの服を着ていた。
女性の店員は愛想良く奥のテーブル席に私を案内すると自然に隣に座った
「このお店は初めてですか?」
「はい」
「私はアンナです。お客様のお名前を聞いても?」
「えっと……リリです」
「!」
私の名前を聞いた瞬間、アンナさんはピクリと反応して、可愛い口元に人差し指を立ててウインクをしてきた。
「オススメの品があるので、少しお待ち下さいね」
そう言うと一度テーブルを離れて戻って来た。
手元にはお酒とおつまみがのったお盆がある
テーブルにそれらをおいて、おつまみが入っているお皿に小さな紙が折り畳まれて入っていた
「遠くの街からお仕事で着てるのですね。お疲れ様です。こちら、おつまみはサービスなので是非食べてね!さ、飲んで飲んで!」
アンナさんから強引に勧められたお酒を何とか飲み、私はおつまみを食べるふりして紙を手の中に隠した。
しっかりお酒のお金を払ってお店を出て、宿泊していた安い宿に戻るとその手紙の中を確認する。
『二日後、出会ったあの場所で』
それしか書いてなかったが、私は故郷ではじめてシェルと出会った花を売る店に二日後向かった。
約4年ぶりに故郷に帰ってきた。
私はもう22歳になっている。
花を売る店は相変わらず賑わっており、身体を売りたい人と買いたい人が集まっていた。
私は顔を隠して店の端に移動して、飲み物を注文する。
するとすぐに知らない人から声をかけられた。
「キミ、売り?買い?」
へらへら笑っている薄気味悪い中年の男に私は「か、買いです」と答えると舌打ちをして去っていく。
そんなやり取りが3回位続いて、しまいには
「お兄さーん。私を買って?」
と、売り手にまでからまれ出した。
私はこのままここにいたら、怪しまれると感じてコッソリ店を出ようとした時、いつかのフードを纏った男が店の中に入ってきた。
そして、店の中を見回し私の姿を確認すると近づいてきた。
薄暗い部屋の片隅で私の前に立って顔を覗き込むその男は間違いなくシェルだった
「いくら?」
「ふふ。600ゼニかな」
「いい相場だ。行こう」
久しぶりに会ったシェルは何もかわってなかった。
薄い金色の髪で整った凛々しい顔立ち
シェルのあとについて店を出て、出会ったあの日に案内された一軒家に入っていった。
部屋の中に入り、鍵をかけるとシェルはフードを下ろして安堵した表情で私を見た
私もフードを下ろして小さく微笑む
「無事だと信じていた。」
「シェルもなによりです。サリーさんは?ナジル王子はどうなりました?」
「サリーは何も変わらない。城でナジル王子に仕えている。ナジル王子も入れ替わりに成功して公務を行っている。」
良かった……
「あの私の家族は」
「勿論問題ない。ただ、引っ越しをしてもらった」
「引っ越し?」
「ああ、東のリジル街に引っ越してもらったんだ。リリ、キミと一緒に暮らす為に」
その言葉を聞いた瞬間、私は家族にやっと逢える感動に胸が熱くなった。
「シェル……いえ、シェル様ありがとうございました!」
私は深く頭を下げた。
どん底だった私たち家族の生活を救ってくれたのもシェルだ。
王子の影武者になるための教育も、城での公務も、命を狙われたことだって、これまで沢山色々なことがあって大変だったけど、いつも助けて守ってくれた。
もう、今後は関わることの出来ない雲の上の人だとわかっている。
私はどうしようもない気持ちに耐えて涙をこらえていた。
すると、
下げていた私の頭を優しく撫でる感触がする。
「リリ、頭を上げて聞いてほしい」
私が頭をあげると今度はシェルがフード付きマントを脱いで、騎士の姿になり私の前で片ひざを地面につけて頭を下げた
「わたしはこれからも貴方を側で守りたいと思っている」
「え」
「ダメ……だろうか?」
「いや!ダメじゃないです!」
その言葉の意味を深く考えてられず、その場で返事をしたのだが
数日後、フタを開けてみれば私は何故か東のリジル街にある、シェルの別宅でお世話になることになっていた。
家族も同じ街に住んでいるのに……
勿論、家族に会いに行くのは自由だが、私と家族はシェルの屋敷で働く訳もなく養われている。
シェルは城の仕事が忙しく滅多に屋敷に来ないし、
さすがに申し訳なくなって、屋敷を任せられている執事に頼み込んで仕事をさせてもらっている日々だ
そして、この一年後
私はシェルと結婚式を挙げることになった。
おしまい
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!