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偽者王子  作者: ほろ苦
4/5

偽物王子4

シエルの部屋で私は2時間程眠っていた。

目が覚めるとベットの側でシエルが静かに本を読んでいる。


「あ…すまない」

「いえ、お目覚めになってよかった。もう、23時です。お部屋に戻らなければサリーが心配します」

「そうだな。レギオンは?」

「先に戻られました」

「そうか」


私は自分が思っていた以上に疲れていたのだと実感した。


次の日

レギオンの治癒魔法が効いたのか、寝覚めがよく身体も軽かった

いつものようにシエルと公務を続けていると執務室にケイト王子とレギオンがやって来た


「具合はどうだい?」

「お陰さまでいつもよりだいぶ調子は良いようです」

「そうか。それはよかった。実はレギオンが面白いモノを見つけてな」


ケイト王子は数枚の便箋を私のデスクの上に置いた

それは、間違いなく私の家族からの手紙である。

なぜ、こんなところに?

いつも私の部屋の鍵がかかる引き出しにしまっているのに

まさか…私とシエルはレギオンを睨んだ

レギオンはなにも知らないとばかりに無表情だ


「これは誰が誰に宛てた手紙だろうか、」

「…」


私が黙って座っているとケイト王子はゆっくりと私の背後に回った

そして、私の耳元に顔を近付けて小声で耳打ちをした


「ナジルの左耳の後ろには古傷があるんだよ。キミには…それはないのかな?」


完全に偽物だとバレている

じとりと背中に汗が滲む

ケイト王子は私からゆっくりと離れて部屋の扉に向かった


「二日後、父との会食が楽しみだね。シエル、覚悟をしておく事だ」


じとりとケイト王子はシエルを睨み帰って行った

執務室には沈黙が続く

明日間違いなく、ケイト王子は国王(ナジル王子の父)に私が偽物だと告発するだろう

そうなると、私は罪人として捕まり、それを首謀したシエルとサリーさんも…

私の顔はどんどん青ざめていった


「ナジル王子」

「…は、なに?」


シエルはこれまでにない真剣な顔をしていた


「これまで、ご苦労様でした。あなただけでも逃がします。すぐに手配しますのでご準備を」

「なに言ってるんだ。そんなことしたらシエルたちはどうなる」

「もともと、わたしは責任をとるつもりでした。ナジル王子を守れなかった私の罪です。」

「…いったい何があったんだ?」

「…二年前、ナジル王子は女性の姿に変わる呪いをかけられました。ジン国王はとても厳格な方で、男でない王子に王位継承はまずさせません。何とか元に戻るまでと、あなたに影武者をお願いしたのです」


そんなことがあったのか

本物のナジル王子も大変な状態なのだと理解した

そもそも、その呪いは誰が?


「まさか、その呪いをかけたのは」

「わたしは…ケイト王子だとにらんでおりましたが、今回の事でかなり濃厚だと感じます。ただ、証拠はありません。」

「なら、尚更私が逃げるわけにはいかない」

「しかし、このままでは…」


どこかでうっすら覚悟はしていたのだ

いつかこんな日がきてもおかしくないと


「どうせ私は影武者だ」


私はうっすらと苦笑いを浮かべた

すると、シエルは苦痛な顔を浮かべ小さく呟いた


「…何を馬鹿なことを言っている」

「?」

「わたしは…あなたに伝えたいことがある」

「…」

「このような感情を表に出してはいけないとずっと…。わたしはあなたを失いたくない」


これまでの冷静なシェルとは違い顔を紅くして、少し困った表情を浮かべ右手で口元を隠す

それはまるで告白のようで…

私も困った顔をして小さく微笑み返した


次の日の朝、私は一睡も出来ずひどい顔だった

逃がすと言ってくれたシェルに感謝をしつつ、その申し出を断り

いつものように身なりを整えて部屋を出る準備をしていた

おそらくもうここへは帰ってこれないだろう

約2年間過ごした部屋にも愛着があった

私は死罪だろうか…

少しは覚悟をしていたが、家族とやり残したことを考えると胸が苦しくなる

でも、ここで私が逃げれはシェル達が…

最後の悪あがきとして、私は真実をのべず幽閉されるだろう

その間、拷問もあるかもしれない

それでも、何とか延ばせるだけ時間を延ばすしかない

ゆっくりと部屋を出るとサリーさんが目を腫らして気丈に振る舞っている


「おはようございます」

「おはよう」

「…朝食はいかがいたしましょうか」

「食欲がないから、水だけでいい」

「かしこまりました」


スライスされたレモンが入った水をテーブルに準備していた

私はそこに座り、サリーさんにこれまでお世話になった感謝を込めてお礼を言った


「サリーさん、これまでありがとう」

「…こちらこそ…」


サリーさんも捕まるかもしれない

そんな中、彼女は気丈にいつも通り振る舞って仕事をしてくれた

いつもだと、朝食時にシエルがやって来るが今日は何故か遅い

国王との会食の時間が近づき、私は仕方なくひとりで向かうことにした。

シエルはひとりで逃げたのか?

そう考えるのが普通であったが、何故か私はそうでないと感じる一方で、せめてシエルだけでも助かるのならそれでも良いと思った

会食会場は城の中心部、国王の間に近い一室で行われる

そこに向かう道中、庭園のそばを通るとシエルの姿が見えた。

シエルは私を見つけると周知を確認して駆け寄る

そして、何も言わず私の手を掴み近くの一室に入り扉を閉めた


「シエル?」


部屋に入るとテーブルの上に箱が置いてあり、中から使用人の服をシエルはとりだし私に渡した


「急いでそれに着替えて下さい」

「え」


使用人に変装させて逃げようと言うのだろうか?

私に首を横に振って服をつきかえす


「私は逃げないと言ったはずだ」

「違います。逃げるのではなく、入れ替わるのです」

「え?」

「本物のナジル王子と入れ替わって頂きます」

「それじゃあ……」

「とにかく、今は急いで!着替えたら庭に出てきて下さい。私は先に見張りに行きます。脱いだ服はこの箱に」


私は頷きさっそく着替え出すと、シェルは庭に向かった

着替え終わると、女性ものの使用人の服装に帽子までついていたので深くかぶる

急いで庭に出るとシェルが辺りを警戒して待っていた


「お待たせしました」

「こちらです」


庭の奥に進み、小さな庭師の物置小屋がある

その中に入ると地下に降りる梯子がかけてあった


「ここから降りて城から出てください。出来るだけ遠くに、姿をくらませて下さい。実家へはまだ帰ってはいけません。恐らく見張りがいます。一月後、隣街のエレナという飲み屋でお会いしましょう」


そう告げると私に袋を渡す

中身は恐らくお金だろう


「……リリ」


シェルは数年ぶりに私の名前を呼んだ

その瞳は優しく、温かく、少し哀しげだった。


「あなたの家族はわたしが命がけて守る。約束する」

「うん」

「だから……無事に生き延びてくれ。必ず会いに行く。必ずだ。そして、家族のもとにあなたを帰す」

「シェル……わかった。よろしく頼む」


私は最後の最後にナジル王子らしくふるまった。

きっと王子のふりをするのも、これが最後だ。

シェルと別れて地下に降りて地下道を抜けると城の裏手にある崖にたどり着いた。

そこからなんとかはい上がり、城の外に出て、私は城下街から急いで離れた。

実家に帰るなと言われたので、私は正反対の街に向かいそこで宿に一泊して、次の日さらに遠い街に移動した。

シェルから預かったお金は軽く一年は遊んで暮らせる額だったが、私は派手な生活をして悪目立ちしてもいけないと思い、極力使わず、城から遠く離れた町で日雇いの仕事を探し働くことにした。

綺麗に整えられた姿をわざと汚し庶民に溶け込んで一月を過ごした。

ナジル王子とシェルがどうなったのか、とても気になるが何も情報を得る手立てはない

そんな日々が一月過ぎて、私は約束の飲み屋に向かった。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

次回最終話です。

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