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偽者王子  作者: ほろ苦
3/5

偽物王子3


そして、ある日事件が起こった。

いつものように公務を終えて自室に帰ろうとしているといつかの夜会で踊った令嬢が声をかけてきた。


「ナジル様」


いつも側にいるシエルは急用の為、後から追いかけてくると言って今はいない。

私は少し不安に感じながらも、無視をするわけにもいかず、そつなくやり過ごすことにした。


「エミリア譲いかがなさいましたか?」

「このお菓子、よろしければ食べてくださいませ」


小走りで駆け寄り、頬を赤くして、にこりと微笑むエミリア譲は可愛く包装をされたお菓子を私に差し出した

私はこれくらいならもらって良いだろうと判断してお礼を言って受けとるとエミリア譲は喜びすぐにその場を離れた


部屋に帰り、一息つくとさっきもらったお菓子が少し気になった。

そういえば、最近こういった頂き物が多い気がする

中身を確認すると、とても美味しそうな甘い香りのクッキーだ

私は手に取りあの可愛らしいエミリア譲の笑顔を思い浮かべて、きっとあの子は私に恋をしているのだろうなと思って微笑ましく思った


普段サリーが準備する食べ物以外は口にしてはいけないと言われていたが、一口だけならとそのクッキーを噛った

その時、扉をノックする音がしてシエルが部屋に戻ってきた

部屋に入り私を見たシエルは血相を変えて私に駆け寄り私の手を叩きクッキーを叩き落としパシンっと音が響く


「いたっ」

「すぐに吐き出して下さい!!」

「?……」


シエルの焦り具合に驚いていると段々と舌が痺れて違和感を感じる

私はまだ口の中にあったクッキーを吐き出すが今度はお腹が熱くなって激痛が走りうずくまる


「が……は……」


これは……毒!それもかなり強力な……

シエルは私のお腹に手を当て詠唱を唱えて私に魔法をかけている

私は目の前が真っ暗になり気を失った。


それからどのくらい経ったのかわからない。

身体が重たく目を開ける事も出来ない。

ただ、真っ暗な中、遠くでシエルとサリーの声が聞こえる


「医者を呼びましょう」


サリーの必死な声にシエルが冷たく


「駄目だ。公には出来ない」

「でも!命を落とすかもしれません!」

「……影武者とはそういうものだ」


ああ、そうだよね。

私は高いお金をもらってナジル王子の影武者をしている。

こんなリスクあるって少し考えればわかることだ。

私が死んでもシエルはまた別の影武者を探してくる

ただ、それだけ……

少し、ほんの少し悲しかった。


暫くして、私は回復に向かった

もともと健康な身体だ、神様も家族をおいてまだ来るなと言っていることか。

シエルとサリーは安堵していつも通りに戻っていた。

そう、これは仕事

私は倒れる前と違いどこか冷めてシエルと接するようになった


「この後、隣国の大臣との会談があり、御確認頂きたい書類に目を通して頂いたのち、北地区の治安報告を受けていただきます」

「わかった」

「……少しお疲れのようでしたら、時間を工面しますが」

「大丈夫だ」


シエルの言葉に必要最低限な返事で終わらせる

シエルは何か言いたそうだったがなにも言ってこない。

夜会のダンスも場を重ねるごとに上達して、もうシエンの練習は不要レベルになっていた。


「シエン、わたしはダンスをそつなくこなせるようになっている。もう、練習はいらないのではないだろうか」

「……そうですね。かしこまりました。」


月日は流れて、私がナジル王子の影武者を始めて一年がたった

サリーは私の家族から手紙をもらってコッソリと私に渡してくれるようになっていた

母もちゃんとした治療を受けることができて、弟妹たちも住むところ食べる事に困ってない生活をしているようだ

私が返事を書くのはNGだけど、それが知れただけで私は波が溢れる位嬉しかった

私はいつどんな形で死ぬかもわからない

せめて、家族には安全で普通の幸せを感じてほしい

シエルとはお互いこうあるべきだという意識のもと、壁を作ったままだ

周りから見れば、私とシエルは信頼しきった従事の関係に見えるだろう

いつものように、公務を終えて自室に帰える途中、向かい側から第二王子兄ケイトが側近を連れてやってきた

ケイト王子は2つ上で腹違いの兄である。

少し傲慢な所もあるが、それをカリスマ性と評価するものもいる


「ナジル、久しいな」

「ケイトお兄様、ご無沙汰しております」


身体か病弱だったらしいナジル王子と違い、ケイト王子は国を飛び回り積極的に政権にも絡んでいるらしい


「たまにはどうだ、これから一緒に酒を飲まないか」


予想外の誘いに私は横目でシエルの判断をあおごうと思ったが、シエルの瞳はいつもにも増して険しかった

そうか、彼は要注意人物なのだなと私は悟った


「ケイト様、ナジル王子は体調が優れない為本日はご遠慮頂きたいのですが」

「わたしはナジルに聞いている。お前は黙っていろ」


ケイト王子は威圧するようにシエルを睨む、私はただならぬ様子につい口を挟んでしまった


「お兄様、申し訳ございません。本当に体調が悪くて、いま立っているのもやっとです。また次の機会に」

「そうか、無理をさせてすまないな。ナジル。そうだ、レギオン、お前今晩ナジルの看病をしてやれ」


そう側近にケイトが声をかけるとレギオンと呼ばれた側近は軽く頭を下げた


「かしこまりました」

「お兄様、そんな本当に大丈夫ですから!」

「レギオンはあの治癒の国から引き抜いた優秀なやつだ。治癒魔法に関してはずば抜けている。これで少しでも体調が回復すればいいだろう」


ケイトは遠慮入らないとレギオンを押し付けて去っていった。

この時私は直感的に何か罠を仕掛けるつもりかも知れないとケイトを疑っていた

レギオンがいることで私の気を休める暇がなかった

夜になり、レギオンが治癒魔法を掛けたいので私に時間を作ってほしいと言われ、私は警戒をしてシェルの部屋でならと承諾した。

勿論シェル付き添いのもと

少し薄暗い部屋にベットがあり、そこに服を着たままでいいので、うつ伏せに寝るように促される


「リラックスしてくださいナジル王子、目を閉じて…」

「わかった…」


レギオンは小さな声で詠唱を唱えると背中がじわりと温かくなり、疲れがどんどん引いていく

ああ、これが治癒魔法か。気持ちいい…

すっかり身体の力が抜けて、眠気が襲ってきた

いつしか、私は小さな寝息を立てて眠っていた


「おや?お疲れのようでしたね。シェル、このまま寝かせてあげましょう」

「…わかりました。私がここで護衛しておりますので、どうぞレギオン殿はお戻りくださいませ」

「ええ、そうさせていただきます」


レギオンは部屋の出口に向かう途中、シェルとすれ違いざまに


「変な気を…起こさないで下さいね」


と小さく囁いて部屋を出ていった。

シェルは表情ひとつ変えず、じっと眠っているナジル王子を見つめていた。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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