偽物王子2
皆さん、勉強は好きですか?
私は嫌いではないけど、さすがに寝る時間と食事をする時間以外全部勉強だったら嫌いになります。
前金を受け取り、母にお金を預けて私はあの小屋で教育担当にずーーと勉強を教えてもらっています。
あのフードの男はシエル様と言って、とても偉い人らしいです、
まだ、理由を教えてもらえないのですが、私に教養と作法をたった1か月で叩き込まれないといけないとか、なんとか。
そのために教育担当サリーさんから立ち方話し方から教養面まで、かなりスパルタで教わってます。
だって、サリーさんムチ持ってますよ。
地獄の1か月が経ち、私は10000ゼニをもらったのでサリーさんにお願いして家族に届けてもらった。
だって、私は缶詰状態で衣食住全部面倒をみてくれるのは有り難いが、外出禁止なのでお金を使うことも出来ない。
そんなある日、初日ぶりにシエル様がやって来た。
私を見て、目を丸くして固まった。
「どうです?シエル様」
どやっとした顔をしているサリーさんにシエル様は頷いていた。
「特別ボーナス決定だ」
「ありがたき幸せ」
私の髪を撫で顎にそっと手を添え、そして何か切なそうに私を眺めていた。
サリーさんは私の生活態度も改めるためと、髪の手入れや着る服まですべて彼女のメンテナンスが入っている。
1ヶ月前のボロボロな姿とは変わって、今の私はオレンジ色の艶やかな髪は短く整えられて、ピシッっとした服を着て姿勢を正され自分でいうのもなんだが、立派な青年だ。
ん?青年…
「これなら、どこからどう見てもナジル王子だ」
「あの……」
私が恐る恐る聞こうとすると、シエル様は片膝を床について深く頭を下げ、サリーさんも両膝を床につき私に向かって頭を下げた。
それは主に誓いを立てる姿だ。
「これより、貴方はナジル王子の影武者として王家でお過ごし頂きます。わたしは側近のシエル・レイガン。彼女は侍女として貴方の側で支えさせて頂きます。」
「……お、王家!?む、ムリです!」
「大丈夫、私達が全力でサポート致します」
「バレたら殺される……」
「バレません。それに、前金はしっかり払っております」
「うぐ……」
あとから聞いた話しだが、私は物凄くそのナジル王子に似ているらしい。
断るに断れず、私はジン国第三王子の影武者として、王家で暮らすことになった。
王家での生活は基本ルーティーンワークだ
朝食、公務、昼食、公務、夕食、寝る
夜以外は常にシエルが側にいて、私を完璧にサポートしている
例えば、昔話を振られた場合、「○○の時ですね。ナジル王子は○○しましたよね」とか、名前がわからない人に話しかけられた時も「○○さま。ナジル王子、○○国の○○さまです。○○で有名な」等、会話のヒントまでくれる。
どうしても回答に困ることがあれば、目頭を押さえて下さいと合図まであった
親、兄弟にはさすがに影武者とバレるだろうと思っていたが、驚くことに全くバレない。
どうやら家族の絆は薄いようだった。
数週間後、最初はぎこちなかったが私も段々と慣れてきた。
そんなとき、シエルは少し暗い表情をして、私にペンダントを渡した
「これは?」
「ナジル王子と対のペンダントです。もし……王子に何かありましたら貴方を王子にして欲しいと命令を受けてきました」
「それはどういうこと?」
「命の危険があると言うことです。ナジル王子も貴方も……」
「……私はいつまで影武者をすればいいのでしょうか?」
「そうですね。ナジル王子が帰ってこれるようになるまで……といった所でしょうか」
シエルは細かく説明しなかったが、その困っている表情にナジル王子はよほどの事態なのだと悟った。
私さえ我慢していれば、家族はちゃんとご飯が食べれてるはずだ。
少し緩んでいた気を再度引きしめてよりナジル王子に近づくよう努力をした。
そんなある日、またもやシエルが顔を曇らせて帰ってくる
「どうした?シエル」
私は王子になっている時は側近としてシエルを扱っている
「夜会の招待状です。体調不良を言い訳に断ってましたが、そろそろ限界かと」
「……そうか」
「サリー」
シエルは私専属の侍女、サリーを呼ぶとすぐにやってきた
「はい。」
「王子にダンスは教えているか?」
「申し訳ございません。基本の知識しか」
「わかった。下がれ」
シエルの声に頭を下げてサリーは下がっていった。
そして、シエルは私に視線を戻す
「これより、夜会まで私とダンスの練習です。さあ、お立ち下さいませ」
「わかった……」
私は気が重たくなりながらも素直に従った。
王子の部屋だけあってとにかく広い。
シエルは男性のエスコートマナーから躍りの足運びまで細かく説明してくれた
「だいたい、一回の夜会にどれくらい踊るのだ?」
「タイミングにもよりますが、10組は覚悟してください。各所から婚約を狙ってお声がかかりますので」
私が嫌な顔をするとシエルは小さく微笑んで
「そんな顔ナジル王子はしませんので、注意してくださいね」
「わかってる。」
ダンスを習いながらシエルと会話を自然としていると、私はあることに気が付いた。
シエルはナジル王子の話をする時、その瞳が優しくなる
それは、従者の関係だからかそれとも……
10日間ほど、毎日シエルにダンスを教わり、夜会の日私の踊りは完璧だったはず。
聞いていた10人よりも多く誘われ、しかも踊った令嬢たちは皆私にうっとりとしていた。
「ナジル王子様のリードはとてもお上手です」
「こんなに楽しいダンスは初めて……」
など。
何人もの令嬢から夜の誘いを受けるが体調を理由に断り
私は無事に成功したと安堵していたが、夜会が終わり部屋に帰る途中シエルは少し無口だった。
「何か問題があっただろうか?」
私が不安げに聞いてみるとシエルはピクリと表情が動いた
「いえ、ダンスは完璧です。たった10日で素晴らしいものです」
褒められているが、やはりその表情は固い
「ただ、完璧過ぎました。本日の夜会で主役はナジル王子あなたになってしまった。注目が集まり、今後も誘いが増えるでしょう」
「それは困るな」
シエルが言った通り夜会の招待状が次から次と届き出した。
極力体調不良として欠席にしているがやはりいつか顔を出さなければいけない。
私はシエルが選んだものだけにやむ終えず参加することになった。
そして、ある日事件が起こった。
レギオンは小さな声で詠唱を唱えると背中がじわりと温かくなり、疲れがどんどん引いていく
ああ、これが治癒魔法か。気持ちいい…
すっかり身体の力が抜けて、眠気が襲ってきた
いつしか、私は小さな寝息を立てて眠っていた
「おや?お疲れのようでしたね。シェル、このまま寝かせてあげましょう」
「…わかりました。私がここで護衛しておりますので、どうぞレギオン殿はお戻りくださいませ」
「ええ、そうさせていただきます」
レギオンは部屋の出口に向かう途中、シェルとすれ違いざまに
「変な気を…起こさないで下さいね」
と小さく囁いて部屋を出ていった。
シェルは表情ひとつ変えず、じっと眠っているナジル王子を見つめていた。
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