47:刺客だよ!!
ワールドニュースで流れた、トッププレイヤー達と刺客とのバトルは、色々な意味で他のプレイヤー達を沸かせた。
かかってこい! と、勇敢にも闘志を燃やすプレイヤー、なんでこんな目に、と、その境遇を嘆くプレイヤーなど。
特にレベルが50に到達していないプレイヤーの中では特に後者のように弱気な傾向が強いように感じた。
私はどちらかと言えば、どんな刺客が来るのかな、と少し楽しみにしていた。
×
『頑張ってくださいっ! ご主人様っ!!』
そして、他のLV50以上のプレイヤーと同様に、私も例外なく刺客のプレイヤーに襲われていた。
「にゃーんとも、ならんにゃあ」
ぽりぽりと後頭部を掻き、目の前の刺客は面倒そうへらへらと笑う。
目の前に現れた刺客は、真っ黒な全身ピッタリスーツをまとった浅黒い肌の男だった。
彼は『幻妖の黒豹』というプレイヤーで、『妖オンライン〜百鬼夜行〜』のトッププレイヤーらしい。
そのゲームではプレイヤー達は皆、妖の姿をしたアバターで人間を殺して世界を救う、という珍しいモンスター視点のゲームらしい。襲って来た際に知らないと言ったら教えてくれた。
黒豹はギラリ、と手に持つハサミを煌めかせこちらに襲いかかる。
「なんでハサミ?」
投擲されるそれらを避けながら、黒豹に問いかけると
「だぁって、かっこ良いにゃよ? ハサミ」
と、ニヤニヤと笑う。……不思議の国の猫っぽい。
『そうですか?』
私の背中に掴まるクニークルスは不思議そうに小首を傾げる。
「うーん。すごく分かるよ。一番身近にある刃物でいて安全設計もきちんとされてるけどすごく切れるもんねぇ」
分解したら双剣っぽくなるし、裁ちバサミはすごく切れるしね。
『なるほどっ! 小回りも効きますもんねっ!』
「にゃーんか、態度、違過ぎじゃにゃいかー?」
黒豹は軽い調子で言いながらも、周囲の木々に飛び移りつつこちらに斬撃やハサミなどを寄越す。
「クニークルス、準備は良いかな」
『もちろんですっ!』
私が呼びかければ、打てば響くようにクニークルスが元気に応える。
「『アーツ発動! 【夜想曲】っ!!』」
楽器を構えてかき鳴らせば、私の周囲に音楽の効果を付属できるフィールドが広がる。
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スキル【甘言】発動! 楽器で攻撃時、相手に確率で混乱を付加しますッ!
スキル【禁じられた歌劇】発動! 楽器で攻撃時、MPが毎秒魔力値の0.01倍回復しますッ!
スキル【禁じられた戯曲】発動! 共鳴し合い、効果が二倍になります!
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ん、彼は私よりレベルが高いらしく、【禁じられた遊戯】は発動しなかったみたいだ。
でもまあ、数秒はMPを回復させながら戦えるから問題無し!
「じゃあ、行くよ!」
『はいっ!』
そう叫ぶと私とクニークルスはキラキラと光る細い糸で繋がれる。
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スキル【糸張り】【操作】【腹話術】発動! 毎秒5%のMPが消費される代わりにクニークルスのステータス値が二倍になります。
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「アーツ発動! 『愛しのお人形』!」
『いっきまっすよー!!』
私の操作の補助を受けながら、クニークルスは黒豹へと飛びかかる。
「厄介だにゃあ、その人形」
言いながら、黒豹はしなやかに攻撃を避け別の木に飛び移った。
「攻撃手段でもあるし、補助アイテムでもある。……とっとと破壊した方が良さそうにゃあ」
やる気のなさそうな声や態度で、でもしっかりと闘志のある目付きで黒豹は私達を見る。そして、クニークルスに飛びかかる――。
「……と、見せかけてプレイヤー、お前を殺せば普通に勝ちにゃ!!」
「ぐっ!?」
黒豹の投げたハサミが、私の心臓を打ち抜いた。その衝撃で私の上半身が大きく後ろにのけぞる。
『ご主人様!?』
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幻妖の黒豹の攻撃! 3479のダメージ!
アナタのHPはゼロになりました。
スキル【呪詛返し】発動! (3479 ×4154)×2=28903532ダメージ!
スキル【死からの復活】発動! MP半減 HP4154回復!
異世界からの襲撃者『幻妖の黒豹』を倒した!
ヨクラートルさんは特殊イベント限定アイテム『幻妖の黒布』を獲得しました!
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「にゃーーーっ?!」
呪詛返しの紋様が浮かび上がり、黒豹自身が放った攻撃が8千倍以上になって返される。
「にゃふっ!!」
その衝撃に耐えきれずに木から落ち、黒豹は地面に伸びた。
「…………殺したら、倍以上に増幅されたカウンターが返ってくるなんて聞いてないにゃあ……」
ぐったりと地面に横たわる黒豹はため息を吐く。
私は貫かれた衝撃を踏ん張って耐えながら上体を起こし、
「……そりゃあ、言ってないからねぇ」
そう答えつつ、黒豹の側まで歩み寄る。消えかけなのもあるが、呪詛返しの衝撃が大きすぎて手足が動かせないらしい。
『ご主人様に手を出した輩なんてミンチにしちゃいますっ!』と騒ぐクニークルスを糸で引き留めながら、そう返した。
「……にゃーんで、そんにゃ技持ってんのにわざわざ戦ったのかにゃー……」
「丸腰で堂々としてる方が逆に怪しくて警戒されちゃうでしょ?」
「それもそうにゃー」
呆れたように笑った後、黒豹は砕け散った。
……ということで。まず一人目の刺客はしのいだのだった。
『幻妖の黒豹』というこのキャラ、私の妹が考えてくれた子です。
中身はおかん属性持ちの一匹狼の男子大学生だそうです。