2:赤髪詐欺師の爆誕
視界いっぱいの光が収まると、目の前には石畳の上に木造の建築物が立ち並ぶファンタジーな世界が広がっていた。
現実ではあまり見かけないような髪色や格好の者達で溢れかえっている。
「『始まりの街』ってやつかな」
描写のリアルさや周囲の音、におい、五感に訴えかける全てが、まるで本当にその場にいるかのような臨場感を演出している。
「うん、良いねぇ。こういうのはまず『笑顔が一番大事』っていうからね」
と、長時間かけていじりまくった顔で、にこ、と笑顔を作ったその瞬間
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条件:『全ての微細なパラメーターをいじってアバターを作成』達成!
スキル【作り物の顔】を習得しました!
【作り物の顔】:NPCの警戒度が上がる。
条件:『【作り物の顔】を習得した上で笑みを浮かべる』達成!
スキル【笑顔の仮面】を習得しました!
【笑顔の仮面】:笑顔の時、精神的ダメージを無効化する。
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なんか変なスキル習得したな。まあいっか。
よし。早速NPCにでも話しかけて、クエスト開始しよう。
そうして、近くのNPCに話しかけたその時、
「ひえっ、詐欺師ー!?」
と、NPCに飛び退かれた。
「え? 詐欺師?」
周囲を見回すが、怪しそうな人なんてどこにも……。
「あんただよ。詐欺師。見るからに胡散臭い見た目して!」
NPCに顔を指差される。……私かい。ってか人の顔を思いっきり指さないでよ。折っちゃうぞ☆
「イケメンのくせに目が死んでる! 口元は笑ってるけれど目が笑ってない! 怖い!」
初っ端からNPCにびびられた。そんなにこの顔駄目?
「駄目!」
すっごい拒否られた。最初にいきなり獲得したスキルのせいかな。
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条件:『一般NPCから拒絶される』達成!
スキル【私に近付くな!】を習得しました!
【私に近付くな!】:近接攻撃時、低確率で最初の攻撃を反射する。
条件:『一般NPCから警戒される』達成!
スキル【不審者】を習得しました!
【不審者】:対面時、注目される。
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「……え?」
またなんか変なスキル獲得した。…… 初撃を低確率で反射かぁ……まあ、無いよりは便利か。しかし、友達が出来なさそうなスキル名ですね。
もう一つはヘイトを集める系のスキルかな。……それボッチに不要じゃないですか。
それはともかく、近くにあった空っぽのショーウィンドウの反射を利用して自分の顔を見る。
「うーん、我ながら結構なイケメンにしたてあげたつもりだったんだけど……」
呟きつつ、白い、というよりは赤過ぎる髪色のせいか青白く見える頬に触れる。いじりすぎて変にならないよう、色々な角度で見たり表情を確認して作ったから、結構な自信作だったんだけど。
ショーウィンドウには、かなり赤色に近い人参色のぱっつん髪を左側に全部流したワンサイドヘアと、緑色の死んだ目をした男が映っている。
ゲームを始めたばかりなので簡素な黒いシャツと細身のパンツスタイルだが、……まあ、なんかスーツにも見えなくもないし、胡散臭いかな。
×
そして、
「眼鏡がなくても見える! すごい!」
顔を触った事で、今更気が付いた。そういや装着時にVRのレンズの度数合わせたんだった。
何を隠そう、私は幼い頃から眼鏡と共に生きてきた。そして、恐らく眼鏡と共に死ぬ人生を歩む。
だから、
「……落ち着かない……何か、目元、目元を隠すもの……」
目元に何もないのが落ち着かない! とりあえず何か、目元を隠せる頭装備をば……。
と、
「ん? なにあれ」
偶然目を向けた裏路地に、くったりとくたびれたぬいぐるみのようなものが落ちている。
拾い上げてみると、仮面が特徴的な、道化師のような格好をした人形だった。片手にどうにか乗せられる程の大きさで、ずっしりと重たい。
と、
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・楽器装備者限定:隠しクエスト発生! 秘められし音楽達!
『第一章:秘められし音楽Ⅰ』
※満足度によって報酬が変わります。
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まさかの隠しクエスト発生。
というか、満足度って何の? 人形の?
「……なんだろう。これは、楽譜?」
その近く壁に、五線譜と音符らしきものが落書きのように描き込まれていた。
「試しに弾いてみるかな」
バッグを開けて中から『初心者の楽器【マンドリン】』を取り出す。
実は、『初心者の楽器』は複数あって、後はフルート、トランペット、小太鼓、鉄琴である。
実はもうこの時点でアイテム所持数が限界を迎えそうだった。
「……武器名が『楽器』の時点でちょっと引っかかってたんだけど、こうなってるなんてね……」
ふふ、と笑う。一つに絞れよ。
「というか、マンドリンの一体どこに初心者要素が……?」
めっちゃ小刻みに演奏するトレモロ奏法とか初心者向けではないよ? 運営は一体何を考えて……あ、『バードっぽい』みたいな理由かな……。
……ってそれ、リュートじゃないかな?
まあ私は、偶然にも習い事で習っていたのでマンドリンは弾けるのだ(えっへん)。
「というわけで」
壁に描かれた楽譜の横に人形を置き、それらに向き合うようにあぐらをかいて座る。
マンドリンを構え、楽譜を読みながら演奏をする。
すると、
「……お、」
くったりとくたびれていた人形がなんだかふっくらと膨らみ始めたのだ。
そして、短い手足を必死に動かしてよたよたと踊りだす。
「へぇ。面白いねぇ」
そのまま、楽譜の終わりが来るまで弾き続けた。
やがて、惜しむらくも曲が終わり、人形が優雅に礼をする。
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条件:『隠された楽譜Ⅰを見つける』達成!
『隠された楽譜Ⅱ』の捜索が可能になりました。
条件:『隠された楽譜Ⅰを弾く』達成!
スキル【禁じられた遊戯】を習得しました!
【禁じられた遊戯】:楽器で攻撃時、自身よりレベルの低い相手に『恐怖』状態を付加する。
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どうやら、クエスト名は『秘められし音楽達!』だけれど、目の前の壁に描かれた楽譜の名前は『隠された楽譜Ⅰ』らしい。
少し名称が紛らわしくないかな?
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おめでとうございます! 隠しクエスト:『第一章:秘められし音楽Ⅰ』をクリアしました!
ヨクラートルは大量の経験値を手に入れた! ヨクラートルのレベルが5になりました!
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経験値を随分とたくさんもらっちゃったみたいだ。
多分、隠された色々な条件があって、それを満たしたら受けられるってやつなのかな。
しかしそうなると、楽譜が幾つあるのかが気になるなぁ。
関心と呆れの混ざった気持ちでいると、人形が私の袖をくいくい、と引く。
「ん? なにかな?」
そして、私の手に人形が身に付けているものとそっくりな仮面を置き、パッと人形が消えた。
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・装飾品『禁じられた楽士の仮面』を手に入れた!
着用条件:魔力値100以上
効果:他ステータスが半減する代わりに魔力が強化値を含めて2倍になります。
・アイテム『禁じられた人形Ⅰ』を手に入れた!
効果:全て揃った時のお楽しみ。
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装飾品の仮面! やった。これで目元が隠せる!
満足度が高かったのかな?
「……って、これ怪しさ増しただけなのでは?! 」
付けてから気が付いた。でも、なんだかすごく安心感があって外したくないなぁ。
……後でも外せるし、後ででいいか。
消えた人形はバッグの中に入ったみたいね……って、容量圧迫しちゃったよ。
そして、『全て揃った時のお楽しみ』って嫌な予感しかしませんが?
スキル【禁じられた遊戯】に自分よりレベルが低い相手の条件を付けました。
アイテム名を『禁じられた仮面』から『禁じられた楽士の仮面』へ変更しました。
着用条件を追加しました。
『強化値を含めて』の文言を追加しました。