1:容姿設定
『ようこそいらっしゃいましたっ! ここはキャラクター作成空間です!』
……目を覚ますと、真っ白な空間にいた。そして、目の前にふわふわと飛び回る妖精が。
「……君は?」
『はいっ、わたくしはプレイヤーナビゲート妖精のナビィです! みなさまの冒険をサポートするために生み出されました!』
へぇ。会話出来てるっぽい。確か、攻略サイトでもなんか書かれていた気がする。最新のAI技術が使われていて、NPCでもちょっとした会話なら出来るって。
よっしゃ、キャラエディットね。まずは好きな見た目じゃなきゃモチベーション上がんないし、早速作り込んじゃおう! どこまで出来るか知らないけど。
「ナビィ、早速だけどキャラクター作成をさせてもらえる?」
『了解ですっ! それではまず、プレイヤーネームを打ち込んでください!』
ちょっと馴れ馴れしい喋り方かなって思ったけれど、せっかくのゲームだし(NPCだし)敬称略して読んでみたかったんだ(友達いない暦=年齢!)。
……虚しい過去を思い出させるな。勉強漬けでいなかったんだよ。そんで、作り方知らないまま高校2年生にまで上がっちまったのさ。……このゲーム内で友達できたらいいなぁ。
「キャラクターネームね……んーと、」
目の前に現れた半透明なキーボードに視線を向ける。実は、既にもうやりたい職業は決めててるんだよね。……だから、
「カタカナで『ヨクラートル』!」
ただラテン語にしただけの『道化師』なんだけどねー! 遥か昔に少し疾患した厨二病の心が疼いてしまった。ドイツ語もかっこいいよ、うん。
『わかりました、ヨクラートル様ですね! では次に、職業と使用武器とスキルを選んでください!』
今度は、目の前に三つのウィンドウが現れる。職業のウィンドウには『剣士』や『魔法使い』など、何種類もあり、使用武器のウィンドウには『片手剣』『杖』『鎖鎌』……と、何十種類も。細い。
そして、スキルのウィンドウには読み切れない程にたくさん。……誰も使わないようなスキルがあったりして。
『どうしますかヨクラートル様? 何時間かけてもナビィはお待ちしますよ〜!』
「うーん……。一応、職業だけは先に決めてたんだよね」
自由気ままな職業をね……。
「職業は、『バード』、武器は……」
武器のウィンドウに目を向け、あ、ちょうど良さそうなものが。
「『楽器』で!」
『了解です〜。もしかして、お友達と旅するんですか〜?』
「……え?」
『え?』
二人(一人とAI)の間に一瞬、微妙な空気が流れる。
『もしかして、お一人でバードですか?』
そうだよ。一緒にプレイする友達いないんだよ。
『それは〜、……えっと、ごめんなさい?』
「やめてそういうなんかリアルな反応一番傷付く」
『……まあ、メインが対象のバフやデバフなだけですし、攻撃手段もありますし、お一人でも大丈夫ですよ! やがてお友達も出来ると思いますっ!』
うん、フォローありがとう。あんまり意味ないけど。できなかったら、君がお友達になってくれるかな……。
『で、ではヨクラートル様、次はスキルをお願いします! 三つまで選べますよー!』
あ、逃げられた。冷や汗だらだらな顔で顔を逸らされた。
「……じゃあ、【死からの復活】、【呪詛返し】、【魔力強化】で」
『…………え?』
ナビィの顔が凍り付いた。もしかして私、氷系のスキル持ってたのかな?
「え? 何?」
『……なんでもありませんっ! 後悔はしませんね?』
「うん」
なんでそんなデータ削除する前置きみたいなの入るのさ?
【死からの復活】は死亡時のMPを半分削って即死から生き返るスキルで、魔力の数値分だけHPが回復する。【呪詛返し】は即死した際に食らったダメージを自身の魔力倍にして相手にそのまま返すスキル。つまり、ボッチで即死しても、MPがある(※1を除く)限り生き返るし体力も大量に回復でき、場合によっては私を倒した相手を逆に倒す事もできる。
ボッチでもなんとかなる(多分!)そんなスキル編成のつもりだった。
そして、【魔力強化】のスキルで魔力値一割アップして、発動回数を上げるって魂胆よ!
『ではヨクラートル様、次はステータスポイント100を、』「っ、くしゅん!」
唐突にくしゃみが出て、手が勝手に何かを操作してしまったらしい。
『……あ』
ナビィの呆けた声に顔を上げると、
====================
名前:ヨクラートル
レベル:1
ジョブ:バード
使用武器:楽器
ステータス
筋力:0 防御:0 魔力:100+10 敏捷:0 幸運0
スキル
【魔力強化】【死からの復活】【呪詛返し】
====================
「あー……」
まさかの大惨事。魔力極振りとはね。魔法使いじゃないのにね。なんだあのくしゃみ。
……面白いな。いっその事、魔力極振りにでもしてみようかな。ランカー目指してないし。
自身の不運っぷりに笑っていると、『あ、あのー』と、気不味そうにナビィが声をかける。振り返ると、
『ヨクラートル様、キャラクターの見た目はどうされますかっ!? 精神への影響を考慮して現実のお顔をベースにさせていただきますが、ほぼ別人クラスまでいじれちゃいますよ〜!』
お、私にとってのメインイベントきたぞー。ここで現実では出来なかった理想を作るのも手だよね!
『ちなみですが、全てを運に任せるランダムエディットという機能もありますよ! 現実のお顔をベースにするのは変わりませんが、そこからどんな風に変わっちゃうのかはまったく不明! もしかしたら神調整で絶世の美女になっちゃうかも!?』
なるほど、ランダムか……。
「自分で調整します」
モチベーションがね。神調整で美女って事は、逆に……ってのもあるしね。私は私の手で理想を掴むんだっ!
『わかりましたっ!』
ナビィが返事した途端、複数のウィンドウが目の前に現れた。プリセット、髪型、髪色、眉型、眉色、目型、眼色……これはすごく時間がかかりそうだ。
でも、明日は休みだし、自分以外は家に居ないので、何の憂いも無いっ!
「道化師と言ったら赤髪、……んー、どうせならこっちのオレンジ色にするかなぁー」
『ナビィは何時間かけてもお待ちしますよ〜!』
何時間でも待ってくれるんだ。ねぇ、友達になろうよ……。
『えっと、それは……』
冗談だからそんなに冷や汗出さないで。
……
「よっし、出来た!」
そして、結構な時間をかけて私は容姿を決定した。
『お疲れさまですっ! ではヨクラートル様。夢と希望と戦いに溢れた、ブレイドスキル・オンラインの世界をお楽しみください〜!』
元気に手を振る彼女の姿を最後に、私の視界は光へと包まれていった――。