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勇者サトの冒険(仮)  作者: ひりあリア
第一章 始まりの村編
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表四話 ミリガの森

お花摘みのクエストです!可愛いですね!

 メリダの森はメルプの村の北西にある森だ。そこにはたくさんの樹木や草木が生い茂っている。その中でも王国内で忌み嫌われる花がある。ホワイトライトと呼ばれるその花は魔法の源である魔素の発生源であると同時に魔族の生命線である。そのため花を求め魔族が住み着いてしまうのだ。そしてその花がミラの治療のために役立つのだという。

そういった話をハイドから聞いた後、マリアはアンリからいくらかの装備と魔法で生成したと思われた回復薬を受け取った後サトに装備させた。…装備させたのだが、受け取った鎧はサトには重すぎたようだ。

「お、重い。」

 よろめきそうになる体を支えるとサトの顔がマリアに至近距離まで近づく。目線が合うとサトは少し赤くなった顔をそらそうとするが鎧が邪魔でうまくいかない。透き通った青色の瞳が泳ぎだし、口が開いたままになっている。そんなサトの様子に十分満足したのかサトの体を立て直してあげた。少し不満げなサトとは対照的に上機嫌なマリアが鎧を外していく。次第に露になるサトの体を見るとやはり鎧を着るのは厳しいだろう。くびれがはっきり見える腰回りに薄い胸、細い四肢はマリアの体とは対照的に平面というにふさわしい。

「今回はこの剣だけ持っていきましょうか」

「うん、わかった。」

 鉄の剣を持ったサトは喜びに満ちていた。サトが両手で持つその剣が片手用ということをその表情を前にマリアは秘密にしておくことにした。結局サトはフード付きの薄黒いローブと両手剣(本来は片手剣ではあるが)を持っていくことにした。

「準備はいい?」

 アンリは着替えを済ませたことを確認し、頷くサトの肩に手をかけ「お願いね」と頼んでいた。そんな二人に向けられたマリアの冷ややかな目にアンリは気づかないふりをした。

「サト。行きましょう。」

 マリアがそう声をかけると、サトはマリアと一緒にアンリの部屋から出ていった。ごめんね。というアンリの言葉は既に扉に阻まれて二人に届くことはなかった。


 サトはその足を無意識に速めていた。アンリがサトを連れて行った場所はアンリの部屋の隣、ミラの部屋だった。その部屋に入ったサトが目にしたものは、アンリと同じ赤髪の少女、彼女の苦しそうな表情と顔から出る大量の涙だった。アンリはミラに何か呟いた後、ミラは眠りについた。そしてアンリはミラが魔素欠乏症という病気でサトとマリアならこの病気を治せると頼んだ。サトにはその病気がどういったものか分からなかったし、ミラと会ったのも初めてだった。けれど、サトは不思議と彼女を助けなければならないという思いが込みあげ、その気持ちはアンリがサトに勇者になって欲しいと言われた時と同じだった

「ト。サト。大丈夫ですか」

マリアの声が聞こえて、サトは我に返った。

「うん。大丈夫だよ。急がなきゃ。」

 サトが返事をしたことで一安心し、マリアは考える。ハイドやアンリから聞いた情報では森には魔物が住んでおり、スライムや中型の獣の姿をした種族もいると。そしてメリダの森はあの村の数個分の広さしかない。

ならばなぜ魔族を駆除しないのか。その疑問にマリアはいくつかの答えを導く。メリダの森の魔物が強いから?それならそれだけ強い魔物を放っておくだろうか。メルプ村の人々などの戦闘能力がかなり低いのか?ハイドはサトが生活レベルの魔法と知った時明らかに疑っていた。それはつまり、彼らの魔法はそれ以上の威力を持つと考えれば、そしてそれが普通なのだとしたら、彼らは強いはずだ。となると、彼らは互いにテリトリーを犯せない。これが答えだろう。森の魔族と村の人々は休戦状態であり、互いにテリトリーを犯すことができない。だからこそ余所者のマリアたちが派遣されたというわけか。

 (けれど、それが分かったところでサトはミラを助けることをやめないでしょう。)

 サトがアンリに連れていかれた時点でこの結末は確定していた。初めてサトと会った時に感じた異様なまでの正義への執着。彼の素直で強い気持ちをハイドには見抜かれていたのかもしれない。

 村へ来た道を戻る。だが、行きとは違ってその空気は重かった。サトは痛みというものを実感した。あの燃える手の痛みは力の代償なのだ。スライムはあの痛みを死ぬまで味わった。その恐ろしさをサトは心の中で反芻する。あれは自身がそうなっても不思議ではない。しかも次は魔物の巣窟にいくのだ。怖くないわけがない。けれどその心は瞬時にミラを助けたいという心で塗り替えられる。誰かのためになれる。そのことだけでサトは闘志を持ち続けられるのだ。

 他とは比べ物にならないほど大きな星が二人の頭上をちょうど通過した時、二人は森に着いた。二人の背丈を数重に積み上げても届かない大きな木が生えている。マリアはサトが剣を抜こうとするのを止めた。

「サト。できるだけ戦闘は避けるようにしましょう。もしかして、言葉が伝わるかもしれません。」

「ごめん。気づかなかった。」

「いいのですよ。それで作戦なのですが。森に入ると完全にあちらのテリトリーです。周囲の警戒は怠らないようにしましょう。私も少しは戦えるので私のことは気にしなくても大丈夫です。」

「でも、危ないよ。僕一人で花を取ってくるからマリアはここで待ってて。」

「サトをサポートすることが私の役目なので大丈夫です。こう見えても私強いのですよ?」

「わ、わかった。でも無理しないでね」

少しキュンとしたマリアがサトの頭に手を乗せる。

「サトに祝福がもたらされますように。」

サトはいきなりのことに動揺する。

「あ、ありがとうございます。」

 ふふっと微笑むマリアがどういたしまして。と言った後、二人は森に入っていった。


 森は言われた通りあまり大きくないようだ。それが喜ばしいことかどうかはかなり怪しいが。

現在、マリアたちは大量のスライムに囲まれている。戦闘はやはり避けられなかった。緑や紫などの色をしたスライムは個々の戦闘力はあまり高くないものの剣が役に立たないことがかなりサトの精神力を削らせている。サトがファイアを唱えるたびに手に熱の痛みを伴い涙が止まらない。そのたびにマリアが治癒してくれているが痛み自体が消えるわけではないためサトのファイアを使えなくなってきた。スライムたちも飛び込んでいけば焼かれてしまうため攻めてはこない。完全な拮抗状態。心臓の鼓動の音が大きくなる。

 枝と葉を揺らす風と小火の音だけが森に響く。

その沈黙を破ったのは遠吠えだった。


スライムが服を溶かす的なやつでもよかったかなと今更思ってる。

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