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外へ出ると、くらりと眩暈がしました。
普段にないほど体が濡れて、体重が倍ほども違って思えます。
すぐにでも温泉へ戻ってしまいたくなるような気だるさです。
そして熊はぼやぼやした頭で申し訳なさを感じているのです。やっちまったなぁという、取り返しのつかない気持ち。
タヌキはつんと歩いています。
そして口の中でいやらしく、「くそな道ねえ」とつぶやくのでした。
つい口を滑らしてしまった。せっかくいい気分だったのに台無しだ。これじゃあ、初めからここに来ない方がまだマシだった。
なんだかたぬきに対して怒りすら覚えます。はめられたような気がするのです。
たぬきの小さな足跡が目の前に続いていきます。
後ろを見ると、熊の丸い巨大な足跡もまた、くっきり残っていました。
「…さあ、もといた草原に帰ってきました。ここからだったら一人でも帰れるでしょう」
タヌキはケロリとして言います。
熊はこのちっぽけなか弱い存在を恨みました。性悪なやつだと、心の中でなじりました。
「…お前は俺の夢の中の話を、俺が持っている願望が現れたんだと言ったな」
「そうですね。恐らくそうじゃないかと思いました。夢ってそういうところあるみたいですから」
「俺がお前を独り占めにしたいと、本当にそう思ってると思うのか?」
「わかりません。それは、あなたのことですから」
「……俺は好かれたいだとか、そんなナルシストみたいな考えはないはずなんだが」
湯は少しずつ冷えてきて、その分クマの辛さは増しました。