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ぶくぶくと呼吸が苦しくなって、クマはがばりと顔を上げました。
「心地よいからと言って居眠りをしたら危ないですよ」
赤い顔をしたタヌキが言います。
「おれは今、寝ていたのか?」
「ええ、一瞬でしたが、かくんと首が落ちたので、眠ったのでしょう」
クマはタヌキの言うことがすぐには信じられませんでした。なぜならさっきまで確かに話をしていたという感触があったからです。
クマは話の内容を一つずつ確認してみることにしました。
「おまえ、さっき、晴れが一番好きだと言ったよな」
「いいえ。曇りが一番好きですが、特別好きなのは雷と雨が一緒になったときです」
「それなら、ここを教えたのはおれが初めてだと言ったか」
「いいえ、ウサギやカモシカ、ヘビにも教えました。キツネとリスとオオカミは、教える前に去ってしまったので教えられませんでした。でも私が教えなくとも、ここを知っている者は多いですから、いずれ彼らも聞き知るでしょうね。ここは誰の物でもない場所ですから」
「じゃぁ、ここへ入るのはおまえに似合う相手じゃないと嫌だと言っただろ」
「どうしてそんなこと。さっき言ったように、ここは誰の物でもない場所です。誰の物でもない場所に入る者を、私が選別するのは変です。誰でも好きに浸かって、好きなだけ息を吐いていい場所です」
「さっきおれが聞いたこととは大分違うな。おまえ、何か嘘をついてるんじゃないか」
「いいえ。今答えたことが私の正直な考えですよ。あなたは夢を見たのでしょう。かくんと首を落とした一瞬に。そしてそれはきっとあなたの願望なのでしょう」
「願望?」
「そうです。あなたがこうであってほしいと思うこと」
「なら、あのクソみたいな道をおれが怒らないのが嬉しかったからここを教えたってのも、おれの夢で、ただの願望か」
「それはあなたが居眠りする前に、私が確かに言ったことですから、夢ではないです。私が好きなあのクソみたいにひどい場所を教えても、怒らなかったのはあなたしかいませんでしたから、本当に嬉しかったんです。だからこの心地良い場所を教えたくなりました。そしてその時こうも思いました。見た目はこんなに違いますけど、どこかが同じなんだろうなと。そうしたら、あなたにはどうしても本当のことを知っていてほしい、という気持ちになりました。それで今こんなことを言っています」
クマは手の平を自分の額に当てがいました。
温かい水が、最初よりもずっと熱く感じられ、まるで頭の中まで浸りきっているようでした。
「少し温まりすぎたようですね。出ましょうか」
タヌキは水から出て、ぶるぶると身体を振るいました。