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クマは、すっかり目をつぶってくつろいでいるタヌキを見ながら思いました。
ここは確かにいいところだ。
匂いはちょっと嫌なものだが、それを除けば素晴らしいものだ。
沢の水とはまるで違う。
こんな場所があると知っていたなら、俺は今までだって足を運んでいたかもしれない。
しかし、なんだってこいつは初めに草原へ戻る遠回りのルートなんて教えたんだろうか。
オオカミだろうがキツネだろうが、最初からこっちを教えておけば怒らなかっただろうに。
…もしかして、独り占めしたいんじゃないのか。
こんな純粋そうな奴だが、いや、純粋だからこそ、意気地になって隠すことがあるのかもしれない。
だが、俺に教えたのは一体……。
「最高ですよね」
タヌキは赤い顔をしています。
「曇りの日も、まぁ構わないですけど、晴れがやっぱり一番だなー。…どこもかしこも暖かい」
タヌキは自分のしっぽを撫でていました。
しっぽは水を孕んで、藻のようになびいています。
「ここを教えたの、あなたが初めてですよ。僕、いつもはこの場所を秘密にしてるんです。………きっと本当は、ここにはみんなが入るべきだと思うんですけどね」
「じゃあ何故、他の知り合いを誘わないんだ?」
「だってそりゃ」
タヌキはちょっと黙りました。自分が言いたいことが絡まったので、ゆっくり整理しているようです。
「…ここはですね、みんなが等しく来るべきなんですけど、…それは頭でわかってるし、さっきも言ったことなんですけどね。でも僕はそれでも、もしも一緒に入るのならば、僕と似合う相手とじゃないとどうしても嫌なんですよ」
「…似合う?……もしかして、俺が?」
熊は自分の持つ鋭い爪それに硬い木大きな体をそれぞれ確認しました。
そしてもう一度、「俺がか?」と聞きます。
「そうですよ」
クマの動きがおかしかったらしく、タヌキは笑います。
「体とかそんな違いじゃなくて、安心感というか………。うーん、どうだろう。ここにいると思考がぼやけちゃってよく分からなくなりますねぇ。だけど少なくともこれだけは言えます。僕があなたをここへ連れて来たのは、あなたがあの道について嫌悪感を示さなかったからです。あの時に僕、よっぽど嬉しかったみたいです」