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「…うんと遠回りして帰ってきたわけか」
ひどく騙された気分でクマは腕などに目をやります。
たったこれだけの収穫だとわかったとたんに、擦った傷が痛みだしたのです。
「僕はねえ、よくこのルートを進むんですよ」
タヌキはクマのこのやるせなさに全く気がついていない様子で、屈託なく笑って言います。
「ここは、本当にさっきの原っぱに戻っただけなのか」
望み薄ながら、熊はすがるように言いました。
「そうですよ。グルっと回ってきたわけです」
タヌキはさらりと言いのけた後でクマの恨めしそうな視線にやっと気付いた様子で
「あ、あの、やっぱりこういうの嫌だったですよね。勿体ぶらずに初めに言っとけばよかった。悪いことをしました」と謝りました。
「いや、いいんだ」
お前が好きな場所を、俺が嫌いになるはずがないと自信げに言いのけた手前、クマは怒ることはできませんでした。
だって、タヌキは本当に心良さそうなのです。
「…しかし、まっすぐ歩いていたつもりが元の場所に戻るとは珍しいな」
「そうでしょう」
タヌキは激しく同意します。
「僕はね、最初にあそこへ来た時、心細くてビクビクしていたんです。何しろ暗いところが苦手なものですから。それでも好奇心で前へ進んで、それで抜けたら……、元の場所でしょう?左右をどれだけ見たってやっぱり同じところなんです。なあんだ、って。それで本当に心の底から笑えてきて、以来僕のお気に入りです」
クマは、純粋な奴もいたもんだと半ば呆れながらタヌキを見やります。