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「…しゃべること、と言ってもね」
熊はゆっくり言います。
「何を話せばいいものかな。俺はほら、ほとんどの時間を森の中で過ごしているから。……そこで起こる出来事なんて、ここみたいにのどかなものじゃない。多分お前が聞きたくないような話ばっかりだぜ。…言ってみようか?」
「…いや、それはいいや」
タヌキは消え入りそうな声で言います。
いつも木の実ばかりを食べている自分にとって、クマの体験は強烈すぎるだろうということは容易に想像がつきます。
「うん。俺も進んで話したいことじゃねえんだよ」
鋭い爪でカリカリと頬をかきながら、
「でも知ってることっつうと…」
「あの、僕、いい場所を知ってるんです」
困っている熊に向かってタヌキが言います。
「さっき、『この時間をどう過ごせば良いか教えて欲しい』って言いましたよね。じゃあ、僕が好きなところに今から案内します。そこがあなたにとってどうだかは分からないですけど」
「それはありがたい」
熊はよいしょと体を起こしました。
「行きたいね。心配することはないさ。お前は俺よりもここらについて何倍も詳しいんだ。お前が好きな場所を俺が気に入らないはずはない」