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うららかな森に鳥のさえずりが響きます。
さらさらと揺れる梢が、新芽の下草に柔らかな木漏れ日を落としています。
どんな心配事もふわりと溶けてしまいそうなこの日和に、タヌキの尻尾は不釣り合いなほどに縮こまって、きゅっと股の内に巻かれています。
タヌキはクマの目をじっと見ます。
あまりにじっと見すぎるので、クマは困ったようにかりかりと頭を掻きました。
するとタヌキはようやく我に返ったのか「あっすみません」と首をすくめました。
「これはあなたの言葉を疑っているのでなく、言葉の意味を取り違えないようにするための私の癖でして…」
もじもじと前足で草を踏んでタヌキは言葉を続けます。
「私は今どうするのが一番良いか、すごく考えています。何よりまずあなたが空腹で困っているのじゃなくて本当に良かった。それを話してくれたのも良かった。わからないのは怖いですが、そうして理由がわかれば怖くないです。あ、いいえそれは嘘ですっ、まだ少し怖いです。だから話し続けるのがよいでしょう」
一息にそこまで言って、タヌキはまたじっとクマを見ます。
クマが何を思っているのか、気になって仕方がないという様子です。
クマは心得たとばかりにうんうんと頷いて、ゆっくりと腰を下ろしました。
ズシンと地面が揺れてタヌキが飛び上がります。
「あ、でもでも、話している途中で空腹になっても、言葉は止めないでおいてくださいね」
タヌキは慌てて付け加えます。
「空腹になったときは食う前に言ってくれれば、一緒に食い物を探すなり、私がこの場を離れるなり、できることがありますから」
ふんふんと鼻息を荒くするタヌキを、クマは静かに聞いています。
それを見届けてから、タヌキはぎこちない仕草で、クマの横に腰を下ろしました。