10
「あなたがそう言うのならそうなのでしょう。それは私が頭の中で描いているあなたより、ずっと真実なのでしょうから」
「真実? おれが自分のことをこうだと言ったなら、それがおまえの真実になるのか?」
「そうです。これまであなたがあなた自身について話したことで、疑ったことはありません」
「疑ったことはないって? そりゃなぜだ」
「わかりません、なぜか疑う気になりません」
クマはタヌキのことがよくわからなくなって下を向きました。
地面を揺れる草を見つめていると、視界にタヌキが顔を差し入れてきました。
「少し元気がなくなりましたか?」
「クソな道と言ったことを気にしているのですか?」
首をくるくると傾げながら矢継ぎ早に訊くタヌキに、クマは何と言っていいかわからず、頭を掻きました。
タヌキはクマの正面に座り直して言います。
「もしも、思ってもいないのに良い道だと言われたら、それは嫌です。例えばそれが私を気遣っての言葉だったとしても、嬉しいよりも寂しくなります。それよりも、正直であけすけに、クソな道だと言われるほうがずっと楽しいです。だから、あなたが本当のことを言って悪いことなんて、なにもないです」
背筋を伸ばして、ぴちっと前足を揃えて座るタヌキの姿勢は、少し緊張しているように見えました。何かを待っているようにも見えます。クマは思っていることを言ってみることにしました。
「それなら言うが、おれは最初、おまえを純粋な奴だと思っていたが、今は性悪な奴だと思っている」
それを聞くなり、タヌキは口を半端に開けて、目も眉も顔全面に広げました。
驚いている、というよりもそれは、喜んでいる、というような顔でした。
「性悪! それは真実でしょう。人間という生き物は、タヌキは人を化かすなんて言うそうですよ」
タヌキはその場でくるくると回りました。
どうやらこれは興奮したときのタヌキの癖のようです。
クマは忙しなく回るタヌキをどつきたくなるのを抑えてそれを眺めます。
ひとしきり回ってから、思い出したようにぴたりと動きを止めて、タヌキは言います。
「今度は、あなたが住む森の中を見てみたいです。いつか、うーん、いつでも、ううん、もし気が向いたなら、森を案内して下さいな」
クマは頭の中で、純粋だということは、残酷なこととどこか似ているのかもしれない、と思いました。
空を見上げると、降り注ぐ陽光が眩しく目を射りました。