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暖かい陽気の中、一匹のタヌキが歩いています。
このタヌキは純粋なたちで、今もタンポポの黄色い花ひとつを見つけてさえ、鼻を近づけすっかり感動してしまって、体をブルブルと震わせました。
それにしても、今日の晴天と来たら!
世界全体に、ほっこりしたぬくもりが投げ掛けられているようです。
小さなハエ達も、ふらふらと酔いしれるように飛んでいます。
すると、ズシンズシンと足音聞こえてきました。
今まで顔をあっちこっちに向けていたタヌキは、ギョッとしてそちらを見ます。
木々がうっそうと生えた森の中です。
そこから顔を出したのは、クマでした。
「おう、タヌキか。そこにいたんだ」
タヌキはすっかり恐縮してしまいましたが、何とか頷き返しました。
「それにしても珍しいぐらいの天気だな、ん?」
何のことはない話に思えますが、タヌキはクマに声をかけられたのは初めてでしたから、狽えてじっと相手を見ています。
熊は目の前まで来ました。
なんという大きさでしょう。
タヌキは内心怖くてたまりません。
それを悟ったのか、クマはふふふと低く笑いました。
「…あいにく俺の腹は膨れてるんだよ。しかも人生で数度と来ないぐらい、いい気分なんだ。ーーだけど、ちょっと」
熊は顔を上にやって、またタヌキの方を見ました。
「正直、こういう絶好の時間帯を、どう過ごせばいいかわからなくてね。お前に話しかけたんだよ」