投げろ
「いってぇえええ!!!」
襲い掛かってきたのは体長1メートルほどある黒い気のを纏った獣型の魔物だった。
魔物はリアを庇ったフィルに噛み付いたが、リアは咄嗟に木の枝を叩きつけてフィルと魔物を引き離した。
「フィル!大丈夫!?今のうちに逃げるよ!」
「酷い出血…早く止血しないと…フィル、ちょっとだけ我慢しててね。このまま走って逃げればきっとまた森が動いて魔物を撒けるはず…」
「……いや、たぶんそれは無理だと思う。俺達はあの黒いコートの男に見付からないようにもう一度草むらに隠れていた。つまりあいつは目じゃなく鼻で獲物を嗅ぎ付けたんだ」
「…何度逃げても見つかるって事ね」
「……何で魔物がこの森に」
いや、それは今考えるべき事じゃない。フィルは頭を切り替えた。今必要なのはあの魔物から生き延びる事!
「何か手掛かりは……っ!」
そういえば、さっきのコートの男…俺が薬草を引き抜いた木の側でしゃがんでいた…何か探しているのかもと思ってたけど…もしかしたら……
「考えがある!姉ちゃんはそのまま逃げて!」
「えっ!?ちょっと!!」
フィルは進路を変え魔物の前に飛び出した。
「こっちだ!」
フィルが魔物に石を当てて挑発すると、魔物は迷わずフィルに向かって突っ込んできた。
やっぱり…二手に別れたら手負いを狙う。魔物といっても所詮は獣と変わらないじゃないか…
でも問題はここから…お願いだ、何かあってくれ!
フィルは願いながら走り薬草を抜いた場所に向かった。
「あった!……これは…青白い氷石が三つと…紙?」
紙の裏側にはメモが残されていた。
『投げろ』
「…それだけ?」
しかし考える暇など無く魔物はフィルに向かってきた。
「くそっこうなりゃやけだ!何か起きてくれ!!」
叫びながら魔物を目掛けて投げた氷石だが、それが魔物に当たる事はなかった。避けられてしまったのである。
「なっ!?」
終わった…フィルがそう思った瞬間、氷石は光り周囲を青白い爆発で包み込んだ。
そして衝撃が収まると、爆発が起きた場所にあった草木は全て凍りついていた。
「…すげぇ」
爆発からは避けきれなかった魔物も、後ろの片脚が凍って動けなくなっている。
やっぱりあのコートの男は敵じゃなかった。
きっとこの魔物を追ってたんだ。だけど動く森のせいで迷い、そして俺達の痕跡を見付けた。でも自力でこの森で人を探すのは困難だと考えたコートの男は、せめてもの思いで魔物に対抗出来る手段を残してくれたんだ。
「まさかこんなとんでもないアイテムだとは思わなかったけど……それより溶ける前に残りの氷石でしっかり凍らせなきゃ」
フィルが残り2つの氷石を拾って振り返ると、魔物は既にそこにいなかった。
「そんな…!?まさかあいつ……」
魔物は凍り付いた脚を引きちぎり姿を眩ませていた。
……魔物の存在は知っていたけど、まさかこんなに知能が高いなんて…
脚をちぎって逃げるにしても、こっちが目を離した瞬間を狙って姿を隠した。
それに一回目に投げた普通の石ころは直撃したのに、今回は避けられた。きっと次は爆発の範囲外まで逃げられる……真正面から投げても意味がない。
何とかして隙を作らないと…
爆発の範囲はおよそ3メートル…
氷石は…後2つ。