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第三話


「えっと……何か御用でしょうか?」

 呆然としているクライブにテイマーギルドの女性が困り顔で話しかけてくる。


「おおう、すみません。つい見惚れてしまって……」

「うふふっ、嬉しいことを言ってくれますね。照れてしまいます」

 クライブの言葉に女性は頬を赤くしながら、もじもじしている。


「す、すみません。それでちょっと用事があって来たのですけど、ここってテイマーギルドで合ってますよね?」

 うっかり変なことを口走ってしまったため、焦りながらクライブは謝罪と確認を口にする。

 あまりにボロボロであるため、今もここがテイマーギルドとして機能しているのか疑問に思ったための質問である。


 だが口にしてから失礼なことを口にしたことに気づいてしまい、気まずさから視線を逸らす。


「あー、この状況を見たら……そう思っちゃいますよね。でもご安心下さい。ここはちゃんとテイマーギルドです!」

 薄い胸を張って宣言する彼女に、クライブは内心ほっとしていた。


「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。私の名前はエラリアです。一応、ここのギルドマスターを拝命しています。よろしくです!」

「なるほど、俺はクライブです。よろしくお願いします」

 クライブは無難な返事をするが、心の中の驚きを顔に出さないようにしている。


(まさかギルドマスターだったなんて! ただの受付嬢だと思っていたとは言えないなあ……)


「お互いの名前を知ったところで、改めて質問しますね。本日はテイマーギルドにどういった御用でしょうか?」

 話が進んでいないため、エラリアが再度軌道修正を図ることとなる。


「あぁ、そうでした。今日ここに来た理由は、こいつと……こいつなんですけど」

 クライブは隣にいるガルムに視線を送り、次に背中に背負っていたリュックをカウンターに載せてプルルを見せる。


「森狼とグリーンスライムですか。うんうん、クライブさんによく懐かれているみたいですね。なるほど、つまりクライブさんはこちらのお二人と”獣魔契約”を行いたいということですね!」

 二人の姿を見せただけで言いたかったことをピタリと言い当てられたことにクライブは感心する。


「そういうことです! いや、外でガルムを連れているのを見た人に注意されてしまったんですよ。そういえば魔物ってテイマーギルドで契約しないといけないって話を聞いたことがあったなあと思い出したのでここに来た次第です」

 ここにいたるまでの経緯を頬を掻きながらクライブが説明すると、エラリアはうんうんと頷きながら何かを用意していた。


「それなら、こちらをお使い下さい。契約の魔法陣になっています」

「これは……魔法陣、が描かれた紙?」

 笑顔のエラリアは一枚の用紙をクライブに手渡す。その用紙には魔法陣が記されていた。


「それを床に置いて、魔力を流して下さい。すると、大きな魔法陣が展開されますので、そこに契約したい魔物に入ってもらいます。すると魔物にだけ契約するかどうかのメッセージが聞こえてくるのでそれを了承すれば契約完了となります」

 エラリアの説明を聞いたクライブは言われたとおりに床に用紙を置く。


「ここに、魔力を流す……おぉ、本当だ!」

 クライブの魔力に反応するように用紙を中心に大きな魔法陣が光を放ちながら現れる。


「ガルム、入ってみてくれ」

「ガウ」

 返事をするとガルムはゆっくりと、光放つ魔法陣の中へと足を踏み入れた。


――汝、クライブを契約者とするか?――


 その声はガルムの脳内にだけ、ガルムにわかる言葉で響く。


「ガウガウ!」

 力強く吠えたガルムが宣言すると、光はガルムを包み込み、眩く輝いたかと思うとゆっくりと収束していき、やがて収まる。


「終わった、のかな?」

 クライブが確認の声を出すが、何かが大きく変化したようには見えない。


「ふふっ、ガルムさんの額を確認して下さい」

「額……おっ、なにやらマークが浮かび上がってる!」

 そこには獣魔契約したものにだけ現れる赤い紋章が浮き上がっていた。


「ガウガウ!(よろしく!)」

「おぉ、すごい。今度はハッキリと聞こえる!」

 契約前まではなんとなく聞こえる。なんとなくわかる。そんな感じだったが、今となってはガルムの言っていることが完全に理解できていた。


「ははっ! すごいな、ガルム。こちらこそよろしくな!」

「ガウ!(うん!)」

 クライブとガルムは互いに言葉が理解できることに喜びあっていた。


「きゅっきゅきゅー!」

 それを見ていたプルルがカウンターの上でぷるぷると大きく震えて、次は自分の番だとアピールしていた。


「わ、わかったよ。エラリアさん、もう一枚もらえますか?」

「ふふっ。はい、こちらをどうぞ」

 魔物と仲の良いクライブの様子にエラリアは自然と笑顔になっていた。


「ありがとうございます。それじゃ、これを床に置いて魔力を流して……」

 先ほどと同じ流れを繰り返し、今度はプルルが魔法陣の中へと入って行く。


――汝、クライブを契約者とするか?――


「きゅー!」

 またもやプルルだけに聞こえた声に対して元気よくぽよぽよ跳ねて返事をすると、同じように光が収束し身体の一部に獣魔契約の紋章が記されている。


「きゅーきゅー!(よろーしくー!)」

「おぉ、プルルの声もちゃんと聞こえるぞ……この獣魔契約っていうのはすごいな」

 契約終了と同時に、クライブは自分と二人の間に、なにかラインができたような感覚を覚えていた。


「はい、それで成功です。獣魔契約をすると、絆のようなものができあがって離れていてもおおよその方向がわかったり、ダメージ量がなんとなくわかったりするんです」

「なるほど……」

 クライブが感じた感覚を肯定するようにエラリアは優しく微笑む。


 それがなんの役にたつかは今後わかっていくものだとして、それよりもまるで家族になったかのような感覚にクライブは笑顔になっていた。


「さて、それではクライブさんの用事は完了ですね。最後にいい契約を見せてもらいました。うん、主人と魔物が互いに思いあっている。そんないい契約でした!」

「ありがとうございます……えっ、最後?」

 エラリアの言葉に礼を言うクライブだったが、聞き捨てならない言葉を聞いたため聞き返す。


「ご覧になっておわかりだと思いますが、こんなありさまではもうギルドとして成り立たないんです……もう、テイマーギルドは流行っていないんですよ。でも、最後に結びつきの強いみなさんの契約を見ることができて、よい仕事ができました」

 開き直った表情、悲しそうな表情、そして最後には満足した表情になってエラリアはクライブたちに頭を下げた。


「そう、ですか……。でもそれは困ったな」

 クライブは頭を掻いている。


「どうかなさいましたか?」

 困った表情のクライブを見て、今度はエラリアが首を傾げることになる。


「いえ、今後ももしかしたらこうやって懐いてくれる魔物がいるかもしれないなあって思って……。その時にまた世話になれればと思ったんです。でも、たたむんじゃ仕方ないか……」

 クライブの回復魔術は魔物に効果がある。

 今回もそれがきっかけでガルムとプルルとの契約につながった。となると、同じようなことがこの先起こるかもしれない。


 それがクライブの考えだったが、エラリアに頼るのは難しくなる。


「なるほど、クライブさんは他にも魔物と契約する可能性がある、そう思ってらっしゃるのですね」

 エラリアの言葉に頷く。


 それを見たエラリアは腕を組んで数秒考え込んでいる。

 クライブは彼女の次の言葉を無言で待つことにする。ガルムもプルルも空気を感じ取ったらしく、静かにエラリアの言葉を待っていた。


「……わかりました! クライブさん、あなたに魔法陣の作り方をお教えします!」

「――はあっ!?」

 エラリアのとんでもない発言にクライブは驚いて声を出す。


「いやいやいやいや、この魔法陣ってテイマーギルド特有のものというか、特別なものというか、秘伝と言うか、とにかくおいそれと外の人間に教えちゃダメなものなんじゃないんですか?」

 そのためクライブもテイマーギルドまでやってきたわけであり、その方法をふらっと立ち寄ったクライブに教えるというのは普通では考えられないことだった。


「クライブさんはテイマーギルドの現状をあまりご存知ではないようですね。説明しましょう……」

 あまり良い話ではないため、苦笑したエラリアはそこから表情を暗くしながら話し始める。




 一時期は魔物とともに戦えるということで人気を博したテイマーという職業。

 しかし、魔物が怪我をした場合に治療方法がこの世界にはほとんど存在しないのだ。


 回復薬なども人に向けたものでは効果がほとんどなく、専用の薬も見つかっていない。

 自然治癒で回復することはもちろんあるが、時間がかかってしまい、一度負ってしまった大きな怪我は治すことができない。


 その結果、仲間としての魔物は足を引っ張ることが多くなり、結果として魔物と共に戦う者は徐々に減っていく。

 魔物はそう簡単に仲間になるものでもないため、使い捨てというわけにもいかなかったのだ。

 そのようなことが原因でこの街だけでなく、他の街でもテイマーギルドは次々に廃業に追いやられていた。




「……というわけで、今やこの技術は必要とされなくなっているのです。――ですが! クライブさんは魔物にも好かれていて、今後も一緒に戦いたいとおっしゃっています。ならば、その思いに応えるのが私の最後の仕事だと思ったのです!」

「おー」

 拳を握りしめ、熱く宣言するエラリアを見てクライブは自然と拍手をしていた。


 重要な技術を教えてくれることに感謝の気持ちを持つクライブだったが、次の言葉を聞いて固まることとなる。


「――ちなみに私は明日には旅立つので、一晩で覚えて下さいね」

 ニコリとしながら言うエラリア、ここからクライブの必死の一晩が始まることとなる。



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