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第二十五話


 途中の休憩ポイントというのは休憩小屋のことで、そこは近くの街や村などの善意によって建てられており、中にあるベッドなどの手入れも定期的に行われている。


「おー、これはすごいな。雨風をしのげるだけでもありがたいのに、料理スペースもあるのか」

 休憩小屋とはいったがかなりの広さがあり、調理場、食事部屋、ベッドが置いてある寝室が三つある。

 そして、各寝室には四つずつベッドが設置されていた。


 複数の組が同時に宿泊することができ、かつ部屋を分けることで他の組との衝突を避ける狙いもあった。


「ベッドふかふかー」

 フィオナはご機嫌でベッドに飛び乗ると、嬉しそうに転がった。

 これはクライブたちがこれから向かう予定の街の寝具店からの寄付で、状態保持、清潔維持の魔法がかけられている特別性のものだった。


「こんなに良いものを試せると、ついつい買いたくなるな」

 寝具店としてはやはり商売屋でもあるため、ただただ提供するだけでなく、自らの商品を試してもらうことも視野にいれていた。

 それを示すように、ベッド脇には店の名前と店の場所が書かれた地図がはりつけられていた。


 そんな商魂たくましい努力は、この小屋を利用した旅人の心を見事キャッチして多くの売上を残している。


「とまあ、寝具屋の営業努力に感心していても仕方ないので、使うベッドを決めたら……」

「うえがいい!」

 クライブの話の途中で、ぴょんと飛び起きたフィオナは二段ベッドの上に急いで駆け上がって行った。


「あぁ、まあ落ちないように気をつけてくれればいいよ。俺が下を使って、フィオナが上として、まずは食事にするか。調理場もあるから、そこを使わせてもらおう。フィオナは休んでるか?」

 愛らしいフィオナの行動にほおを緩めながらクライブは外を見る。


 到着した時間は予定のとおり夕方で、もう既に外は薄暗くなってきていた。

 そのため、クライブは夕食の準備にうつろうとしていた。


「てつだうー!」

「えっ!?」

 ベッドから慌てて降りたフィオナの申し出にクライブは驚いてしまう。


「あ……えっと、だめ、かな?」

 伺う様に上目遣いで質問してくるフィオナ。

 少しでもクライブの役に立ちたいという気持ちと、料理に対して興味を持つ好奇心――その二つから出た、自然な言葉だった。


「いや、だめじゃない。ダメじゃないぞ! うん、手伝ってくれるの嬉しい。助かるよ」

 徐々に片言になっていくクライブは自身の言葉に違和感を覚えたため一度首を横に振る。


「助かるが、怪我をしないように気をつけるんだぞ?」

「はい!」

 真剣な表情で言うクライブに対して、フィオナもまじめな表情で返事をする。どこかで見たのか、兵士の敬礼のようなポーズととっていた。


「よし、行くぞ!」

 調理場へと向かおうとフィオナに背を向けたクライブだったが、その顔はニヤニヤしていた。


(やべえ、くっそ可愛い!)

 そんな顔をフィオナに見られまいと、やや足早になっていた。


 今日は他の組は小屋を利用しておらず、調理場も自由に使うことができる。

 村を出発する前に料理の材料は仕入れており、まずは野菜を切るところから始めていく。


「さて、フィオナ。今日は野菜のスープ、それから焼いた肉をパンにはさんだものを食べる予定だ」

「はい!」

 クライブが野菜の一つをフィオナに手渡す。まな板が置いてあるカウンターはフィオナの身長からすると高すぎるため、ここでもプルルが足台代わりになっている。


「まずはどうするかわかるか?」

「えっと……かわをむく?」

 その答えを聞いてクライブは一本立てた人差し指を横に振る。


「それは次の段階だな。まずは、食材を洗うところから始めよう。ほら、こっちに来て。この水の魔道具にちょっとだけ魔力を流すとしばらくの間、水が流れる。止める時は、手を当てて魔力を引き上げるイメージを持つんだ」

 クライブの説明を聞くと、フィオナはゆっくりと手を伸ばして魔力を流す。


 すると、蛇口から水が流れ出てくる。

「わっ! でてきた! クライブ、でてきたよ!」

 ただ水が出てきただけだったが、フィオナは初めての経験らしく驚きながらもきゃっきゃと喜んでいた。


 その様子が微笑ましいと思うクライブはそれと同時に余計なことを考えそうになるが、首を横に振って、続きを説明していく。


 野菜を洗う、皮を剥く、切る。

 それを湯通しする、煮込む。調味料はどれを使うか。

 などなど、説明をしていき手伝いはしたもののフィオナ主体で野菜スープは作られていく。


 そのかたわらで、クライブはメインの料理を作る。

 フィオナの様子を確認しながらであったため、少し肉を焦がしてしまうが、それでもなんとか形になる。


 一時間ほどして、料理は完成し二人は食事部屋に料理をもって移動して夕食を食べていく。


「んまい!」

 これはクライブの反応だった。

 最初に口をつけたのはもちろんフィオナが作った野菜スープである。

 クライブがスプーンを口に運ぶ様子をじっと見て、フィオナはずっとドキドキしていた。


「よ、よかったあ」

 それもクライブの反応を見て、落ち着きを見せる。

 先ほどまで全身に力が入り、ハラハラした様子のフィオナだったがクライブのスプーンが止まらないのを見て心底安堵していた。


「うん、美味いぞ! 初めて、だよな?」

 この確認にフィオナは静かに頷く。


「だったら、すごいことだぞ! 俺が教えたってのはあるだろうけど、それにしてもちゃんとできてる。これならいいお嫁さんになりそうだ!」

 自分が作った料理を食べつつも、どんどんスープを飲んでいくクライブの皿はあっという間に空になっていた。


「うふふー、うれしいなあ……およめさん。うふふっ」

 クライブの言葉が余程嬉しかったのか、フィオナは身体を横に揺すりながら上機嫌になっていた。


 しばらくして落ち着いてきたフィオナは、そこでやっと食事を開始して、自分が作ったスープが意外や意外に美味しかったことに驚き、クライブが作った肉サンドの美味さにもビックリして、作り方をクライブに伝授してもらうこととなった。

 結局、クライブたち以外の旅人が訪れることはなく、小屋は二人の貸し切りとなっていた。


 翌日、朝食を食べたあと一行は小屋をあとにして出発する。


「この小屋からは休憩ポイントがないから、野宿をすることになる」

「のじゅくならしたことあるから、だいじょうぶ」

 クライブの言葉に反応したフィオナは力こぶを作って、自信満々なポーズをとる。


 叔父との旅では野宿が基本であったため、そのことになんの抵抗もなかった。


「まあ、野宿は最悪の場合ってことで……俺たちはこの馬車の能力を使いこなせていない。だから……」

「だから?」

「ここからは、馬に頑張ってもらって速度を上げて街を目指すぞ!」

「おー!」

 気合を入れたクライブは手綱を握ると、パシンと音を立てて馬に合図を出し速度を上げさせる。


 衝撃が極力軽減される作りとなっており、車輪や車軸の強度も高いため、急がせても耐えられるだけの強さを馬車は持っている。


「はやいはやいー! すごい!」

「ははっ、確かにすごいな。揺れがかなり抑えられているぞ!」

 二人は別々のことに感動していたが、互いが笑顔でいることを喜ばしく思いながら街へと向かって行く。


お読みいただきありがとうございます。



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