第二十四話
魔物との戦いを無事に終えた一行は、再び馬車に乗って移動を続ける。
期せずして叔父の仇を討つことができたフィオナは、少しではあったが心の重荷が軽くなったのを感じていた。
それを察したクライブは何も言わず、ただ無言で優しくフィオナの頭を撫でている。
撫でられると気持ちが落ち着いたのか、フィオナはいつの間にか眠りに落ちて、クライブに身体を預けていた。
「色々訓練するのもいいけど、もっと色々な魔物と契約をするのもいいかもな」
クライブの持つ能力は全て解明されているわけではないが、彼が使える回復魔術はオンリーワンのものであり魔物の怪我を癒すことができる。
加えて、クライブが持つ魔術力という力は契約した魔物を強化することができる。
また、その強化した力を自らにも還元することができる。
となれば、多くの魔物と契約するのが一番の近道であると考えられた。
「ガウガウ(いいと思う)」
「きゅきゅうー(なかまー)」
ガルムもプルルも他の魔物と契約することには前向きな考えであり、クライブの意見に賛同している。
「一緒に連れていてもそんなに驚かれない。もしくはプルルみたいにサイズを変えることができる。それでいて強い――そんな魔物が理想かなあ?」
街で騒がれてしまうことを考えたら、ガルムのようなモフモフタイプかプルルのようなサイズ可変タイプが望ましいとクライブは考える。
「ガウ、ガウガウガルー(でも、ぞろぞろいるのも)」
「きゅきゅー(こわいー)?」
「確かに……」
スライムたちはプルルに吸収されているため、移動中は最少人数で移動できている。
見た目だけの問題ではなく、数の問題も考える必要があった。
「でも、まあ仲間が増えるのはやっぱり楽しいからそんなことを気にしなくてもいいくらいいいやつと契約したいな」
そこまで言うと、クライブは馬と並走するガルム、その上に乗っているプルルに視線を向ける。
「お前たちみたいなやつらとな」
それは心からの言葉であり、クライブの笑顔からは二人への信頼がにじみ出ており、それをガルムとプルルも感じ取っていた。
そんな優しい空気のまま一行は谷を抜けていく。
けむくじゃらの魔物を倒してからは、魔物と出くわすことなく、無事に通り抜けることができた。
あの魔物がいたことで、他の魔物は殺されたか逃げていたため、しばらくの間は谷には完全な平和が訪れていた。
谷を抜けて、しばらく進んだところで小さな村が見えた。
「さて、今日はあの村で休むとしよう。フィオナ、そろそろ着くぞ」
「う、ううん……ふわあ……」
フィオナは目を覚ますと欠伸をし、瞼を擦りながら周囲を確認する。
「あれ? たには?」
フィオナの記憶にある最後の光景が谷を移動しているものであったため、そんな質問を口にする。
「谷は無事に通り抜けたぞ。あれからは特に魔物も出てこなかったから静かなもんだ。それよりも、村につくから今日はあそこで一晩泊ろうと思うんだが……」
「……あれ? しゅんかんいどうした?」
クライブの言葉は耳に入っておらず、フィオナは首を傾げていた。
いまだ寝ぼけているその様子は微笑ましく、クライブもガルムもプルルも自然と頬が緩んでいた。
「ははっ、フィオナは難しい言葉を知っているな。ただここまで馬車で移動しただけだよ。フィオナはぐっすりさんだったぞ?」
そう言いながらクライブは優しくフィオナの頭を撫でる。
「んー?」
気持ちよさそうに目を細めるフィオナに、再びクライブたちは笑顔になっていた。
「んーー……、ふわあ。おめめさめてきたかも」
クライブが手を離したのと同時に、フィオナは一度伸びをして欠伸をして、目を大きく開いた。
その表情はいつものフィオナのものであり、眠りの世界から現実の世界に戻ってきたことを現している。
「おはようフィオナ。休む予定の村が見えてきたから、今日はあそこで宿をとるよ」
「やど……うん。ふわあ、まだすこしねむいから、よるもよくねむれそう」
眠気が残りながらも、新しく到着した村に興味があるようで、その目にはワクワクした気持ちがキラキラした輝きとなって満ちていた。
彼女にとって、安心できる人の傍で、ゆっくりと安らいだ旅をする経験は初めてである。
そのことが、子どもならではの好奇心を十分に表現できる環境にさせていた。
「とりあえずは宿を決めるのが最優先だけど、それが終わったら少し村の中を見て回ってみよう」
「うん!」
クライブの提案にフィオナはやや食い気味で返事をする。それだけで嬉しいという気持ちがあふれているのがありありと感じとることができた。
そして、その言葉のとおり村に一軒しかない宿で部屋をとると、一行は馬車を預けて村の中を散歩していく。
村はどこにでもあるような平凡な村で、これといった特色はなかった。
それでもフィオナは村の中を流れる小川に喜び、橋を楽しみながらわたり、声をかけてくる村人にも元気よく挨拶を返す。そんななんてことのない日常風景だったが、フィオナはそれを思い切り堪能していた。
その晩は、先にフィオナ自身が言っていたように、村を堪能したという思い出とともに早々に眠りについていた。
「こんな小さいのに、色々苦労してきたんだろうな……」
「むにゃむにゃ、くらいぶー……すー」
寝言で自分の名前を呼ぶフィオナを見て、クライブは一瞬驚き、そして笑顔になる。
「みんなと会うまではこんなに笑顔になることなんてなかったなあ」
窓から見える夜空を眺めながらクライブは、過去を思い出しながらも今の幸せを思い懐かしむ余裕ができていた。
しばらくフィオナの寝顔を眺めていたクライブだったが眠気が訪れたため、やがてそのまま眠りについた。
翌日は宿で朝食ととると、すぐに出発することとなる。
宿の主人の話では、村を朝出発すれば夕方日が落ちる前には中継地点となる休憩場所に到着することができるという話だった。
「それじゃあ、おせわになりました。ばいばい」
フィオナが宿の主人と女将に挨拶すると、二人も笑顔で手を振り返して見送ってくれた。
そして、出発前にクライブがフィオナに声をかける。
「フィオナ。しばらくはただただあまり風景の変わらない場所を進むだけだから、飽きたらガルムの背中に乗るかプルルと遊んでいてくれ」
「うん! じゃあ、ガルムのせてー」
飽きたわけではなかったが、フィオナはふかふかで気持ちいいガルムの背中を選択した。
「ガウ!」
ガルムもそれを快く受け入れ、しゃがんで乗りやすくする、がそれでもガルムの身体はフィオナに対して大きいため乗りづらそうにしている。
「きゅきゅー」
それを見たプルルがすかさず踏み台代わりになって、ガルムへの乗狼を手伝った。
「うふふ、プルルありがとうね。ガルム、よろしくねー」
こうやって純粋に感謝を伝えられると、プルルも嬉しくて嬉しくて震え、ガルムも気合が入る。
「ようっし、出発だ!」
クライブが馬の手綱を握り出発の意思を伝えると、ガルムも馬車に並んで歩き、プルルは急いで馬車に乗り込んでクライブの隣に陣取った。
晴れ渡った空は、クライブたちの出発を歓迎しているかのようだった。
「あ、あの! 街は反対方向です!」
「……あっ」
宿の主人が慌てて声をかけたことで、クライブはなんとか道を間違えずにすむこととなった。
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