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第二話


 狼に食事を分けてもらって、いくらか腹が膨れたクライブは座り込んで考え込むように腕を組んでいた。


「うーむ、俺の魔術がまさか魔物を治療するためのものだとは思わなかったな」

 口にすることで改めて自分の魔術の効果を確認する。


 しかし、確認したことで困ることになる。


「つまり――ということは……」

 この先を口にすることにためらいがあったが、これまた口にして確認することにする。


「――俺は人の冒険者パーティに加わることはできない、ってことか……」

 その事実は心に大きな穴をあけることとなる。声のトーンはがっかりとしたもので、クライブは肩をがっくりと落とし、下を向いてしまう。


 回復の力があるということを知った時のクライブは、将来は冒険者になって活躍するんだと周りに触れ回っており、そうなる未来を夢見ていた。

 そんな夢にとどめを刺された気持ちだった。


 しかし、そんなクライブの様子に狼とスライムが慌て始める。


「ガ、ガウガウ!」

 クライブが落ち込んでいる理由はわからないが、元気づけようと狼が声を出してピョンピョンはねて回る。


「きゅーきゅー」

 スライムはクライブの手の中に移動して、プルプル震えてスライムなりに励ましている。


「ぷっ」

「ガウ?」

「きゅー?」

 吹き出すようなクライブの声を聴いて、狼とスライムがきょとんとした様子で動きを止めた。


「……はははっ! ぷはははっ! ふ、二人とも俺を励ましてくれてるのか。ははっ、笑って悪い。ありがとう、元気が出てきたよ。あー!! 使えないと思っていた俺の回復魔術にも使い道があるってわかったんだ……落ち込んでいられないな」

 自分を鼓舞するように何度か頬を叩き、笑顔を取り戻すクライブ。

 そんな彼を見て狼は喜んでクライブの傍に座り込み、スライムも嬉しそうにプルプルと震えている。


「よし、元気が出たところでいっちょやり直してみるぞ!」

 クライブはそう言って勢いよく立ち上がる。


「ガウ!」

「きゅー!」

 そして狼も立ち上がり、スライムも気合の入った鳴き声を出す。


「……いや、ちょっと待ってくれ。俺がやり直すのはいいんだが、お前たちがなんで気合を入れているんだ?」

 首を傾げながらクライブは二人に尋ねる。


「ガウガーウガウ!」

「きゅっきゅきゅー!」

 狼とスライムはそれぞれの言葉で必死に説明している。


「ふむふむ、なるほど治した礼に一緒に来てくれるのか……ってわかるぞ、俺!?」

 正確かどうかは確かではなかったが、クライブは二人の言いたいことがなんとなく理解できていた。


「なぜわかるのかわからないけど、治療してくれたお礼についていきたいってことか」

 クライブの言葉を聞いて狼は何度も頷いて、スライムは小さく飛び跳ねていた。


「まあ、いいか。二人のおかげで俺は力に気づいたわけだし……一緒に行こう」

 その答えを聞いた狼はクライブのあしもとをぐるぐると回って喜び、スライムはその狼の頭の上に飛び乗ってプルプルと震えていた。


「ははっ、喜んでくれると俺も嬉しいよ。しかし、いつまでも狼とスライムじゃ呼びづらいな……名前はあるのか?」

 名前、そう言われて狼とスライムは自分たちを特定する呼称がないことに気づき、狼は首を横に振り、スライムは身体を横に大きく揺らしている。


「そうか、ないのか……」

 そう呟いたクライブは腕を組んで、目を瞑り、しばらく考え込む。

 沈黙の数分間。


 しかし、狼もスライムもその沈黙を嫌なものだとは思っていないようで、静かにクライブの次の言葉を待っていた。


 数分経過したところで、カッとクライブが目を見開いた。


「決めた! お前の名前はガルム、そしてお前はプルルだ!」

 最初に指さしたのが狼で、命名ガルム。

 次に指さしたのがスライムで、命名プルル。


 力強く命名したクライブだったが、内心ではドキドキしていた。魔物が勝手に名前をつけられてどんな反応をするか予想ができないためである。

 加えて、自分の命名センスが二人に気に入られるかどうかも不安だった。


「……」

「……」

 無言の狼、動きを止めたスライム。


(ダメ、だったか? 勝手に名づけたから? それとも気にいらなかったか?)

 不安な気持ちでいっぱいになるクライブ。


「ガウガウガウ! ガーウ!」

「きゅっきゅきゅっきゅー!」

 しかし、突然二人は声をあげて大きな反応を示した。


 狼はクライブの足にすり寄って、スライムは狼の頭からクライブの身体に移動して肩の上でピョンピョンはねている。


「気に入った、ってことでいいのか?」

 その問いかけに、ガルムは大きく頷き、プルルも頷くような動きを見せる。


「ははっ、そいつはよかったよ。改めてよろしくなガルムにプルル。俺の名前はクライブ。人間の冒険者で職業は回復魔術士だ!」

 クライブは自己紹介をしてガルムに手を差し出す。


「ワフ」

 すると、ガルムはこちらこそといった感じでクライブの手のひらに右の前足を乗せた。


 それを握手とすると、今度は右肩にのっているプルルにクライブは左手を差し出す。

 するとプルルは身体を変形させてクライブの指を握った。


「とりあえず、プルルには俺のカバンの中に入ってもらってガルムは隣を歩いてもらうか。三人だったらクエストもこなせるはずだし色々受けてみようか」

「ガウ!」

「きゅー!」

 クライブの言葉が何を意味するかわからなかったが、二人は元気よく返事をした。




 行きとは異なり、二人のお供が増えたクライブは意気揚々と街に戻ってきた。

 クライブが目指しているのは、冒険者ギルド――だったが、なにやら視線が痛いのを感じる。

 それに加えてクライブが歩く方向に向かって人が遠巻きに避けて道が出来上がっている。


「なんだろ? なにか変かな?」

 森で座り込んだ時に服でも汚れたかと思って見てみるが、目だった汚れや傷などもない。


 そのため道を歩きながら首を傾げるクライブのもとに一人の男が駆け寄ってくる。

 それは、冒険者ギルドの職員で今日は休みのため、普段着でいる人族の男だった。


「ク、クライブさん! なんで魔物を連れ込んでいるんですか! パーティをクビになって、いよいよおかしくなったんですか!?」

 焦りから汗を浮かべる男は慌てた様子で質問をする。

 どうやら、それが他からも向けられている視線の理由であるようだった。


「おかしくなったって、酷い言われようですね。まあ、それは置いとくとして……可愛いでしょ? こいつらは懐いているんで大丈夫なんですよ。ほら、暴れないでしょ?」

 クライブの言葉を証明するようにガルムはクライブの足に甘えた声を出しながらすり寄って、安全ですアピールをしている。


「確かによく懐いて……って、いやいや、そうではないですよ! 安全でも懐いていても、魔物を街に連れてくるのが問題なんです! しかもクライブさん、テイマーギルドに行くわけでもないですよね? だって、どう見ても街の中央に向かってますもん!」

 一瞬納得しかけた職員は慌てたように首を振って否定する。

 それを聞いて、クライブはテイマーギルドという存在に初めて思い当たった。


 街の冒険者ギルドにも、知り合いにも魔物を連れている冒険者がいないため、魔物を連れ歩くうえでのルールを忘れていたが、テイマーギルドで登録するというものが第一前提としてあった。


「そういえば……」

「そういえば……、じゃないです! テイマーギルドは街の入り口近くにあるんですから、早く行って下さい!」

「わ、わかりました!」

 冒険者ギルド職員に背中を押されつつ言われたクライブは慌てて元来た道を引き返し、テイマーギルドがある場所へを向かって行った。




「やばいやばい、ガルムもプルルも大人しいから完全に忘れていたよ。でも、ルールは守らないと、っとここか……」

 職員の勢いそのままに走って戻ったため、すぐにテイマーギルドに到着した。


 だが、クライブは建物の前で呆然と立ち尽くしていた。


「これが、テイマーギルド? あるのは知ってたけど、こんなにボロボロだなんて……」

 クライブは呆然としながら建物を見上げる。


 テイマーギルドだということを表す看板は傾いて、一部の文字が消えかかっている。

 壁もところどころ板がはげており、ギルドへ続く数段の階段部分も一部腐っている。

 幽霊屋敷かと思うほどそこはボロボロだった。


「やってるかどうかも不安になるけど……行くしかないか」

 クライブは恐る恐る階段をのぼって行く。

 途中ひやりとする場面もあったが、なんとか踏み抜かずにギルドの扉をあけて中へ入ると、中は中で雑然としていた。


「えっと、すみませーん」

 人の気配はしないが、奥にも部屋があるようなので声をかけてみるが返事はない。


「すみませーん!」

 もう一度大きな声を出して呼びかけると、奥から何かをかき分けるようなガタガタという音が聞こえてきた。


「ちょ、ちょっと待って……!!」

 そして焦ったような声も聞こえてきたが、声の主は酷く慌てているようで何かをなぎ倒しているのか、ドタバタ音を立てながら出てくるようである。


 そして、しばらく待っているとその姿を現す。


「はあはあ、す、すみません。ちょっと奥で作業をしていたのと、まさかお客さんが来るとは思わなかったので……」

 現れたのは建物の状態には似つかわしくない、輝く金髪で美しい顔立ちの女性だった。

 その彼女の最大の特徴は尖った耳であり、そのことからエルフであることがわかる。

 慌てて出てきたせいもあってかすこしよれた雰囲気があるが、その身を清楚ながら上品に引き立てるドレスをまとっていた。


「……」

 このボロボロの建物から彼女のような人物が現れるとは思っていなかったクライブはしばし呆然として彼女に見とれることとなった。









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