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第十九話


 食事を終えて、部屋に戻った二人はガルムとプルルを加えて今後の行動を話し合うことにする。


「さて、これからどうしていこうか?」

 クライブがフィオナに質問する。まずは彼女の考えを聞きたかった。


「あの、わたしはなんでここにきたのかわからないし、これからなにをするのかもわからないの……」

 ゆっくりと、それでも自分の思いをフィオナは伝えていく。

 うまくいえなくてもクライブは彼女の言葉を待ち続けた。


「だから、どうするのがせいかいなのかわからないの。でもね、クライブたちといっしょにいたいなあっておもってる。めいわくじゃなければだけど……」

 もじもじと手をいじりながら丁寧に言葉を紡ぐ。それがフィオナの、今現在の望みだった。

 迷惑じゃなければ、と付け足したのはこれまで彼女が送ってきた生活から来るものだった。


「迷惑なわけないだろ? 俺たちは家族だ。むしろ俺みたいな冒険者についていっていいと思うかどうかって不安のほうが強いよ。ははっ」

 先行き不安な冒険者という職業で、なおかつ仲間はいない。

 そんな男一人が本当にフィオナを連れていってもいいのか? そんな気持ちが湧き出ていた。

 クライブは困ったようにへらりと笑う。


「いいの! なんでそんなこというの! いいの!」

 フィオナはそんな彼を見て泣きそうになりながら声を荒げた。


 クライブは優しくてかっこよくて、親切で、ちゃんとしている。 

 ひとりぼっちでなんも持ってないこんな自分に親身になって、家族だと言ってくれている。

 そう思っているフィオナだからこそ、本人が自虐的に自分のことを貶めるような発言が嫌だった。


「ごめん、でもさ……そういうことだよ。フィオナは俺のことを認めてくれているだろ? 多分、ガルムのこともプルルのことも他のスライムのこともそうだと思う。それは俺がフィオナに対する気持ちも同じなんだよ」

 彼女の心の内を知って嬉しそうなクライブは隣に座って、フィオナの頭を撫でながら優しく語りかける。


「おなじ?」

「そう、同じ。俺もフィオナのことをちゃんと認めている。これまで色々あったのかもしれない、それに叔父さんとも別れてしまった。そんな時に、見も知らぬ男の俺にちゃんとお礼が言えた。それに、今も俺に迷惑が掛からないようにって考えているだろ? そんな心の優しいフィオナだから、俺もこいつらも一緒にいたいと思っているんだよ」

 この説明を聞いたフィオナは顔が熱くなるのを感じていた。そして、自分で自分の頬を触ってその熱を手で感じている。


 その次の瞬間にはポロポロと涙が零れ落ちていた。


 感情の昂ぶりから、自然と出てしまった涙を止めるすべを知らず、フィオナはしばらくの間静かに泣いていた。

 その間、クライブはずっと頭を撫でて落ち着かせる一助を担っていた。


「……さて、お姫様が泣きやんだところで続きを話そうと思うんだけど、いいかな?」

「ぐすん、うんごめんね。でも、うふふっ、おひめさまってうれしいかも」

 目と頬を赤くしながらフィオナは笑顔になっている。


「それはよかった。俺たちのこれからの行動なんだけど、お金は一つ前の依頼でだいぶ増えた。それに、明日になったら依頼の完了報告をするからそれで更に増えると思う。だから、金の心配はしばらくはしなくて大丈夫だ」

 何をするにも生きていくには金が必要となる。その問題をクリアできているのは大きかった。


「うんうん、クライブすごい」

 フィオナは金のない旅をしてきたからこそ、そのすごさを理解している。


「で、次に目標を立てることになるんだけど……俺は回復魔術という他とは違う力を手に入れた。だから、これを色々な魔物たちを癒すためにつかっていきたいんだ」

 自分のこれからの行動指針の軸となる部分をクライブは説明する。それをじっと目を見つめながらフィオナは黙って聞いている。


「ただ……それは回復魔術が魔物に有効ってわかった時に決めたことで、今は他にもあるんだ。一つは、珍しい魔物とも契約してみたいし、ガルムやプルルをもっともっと成長させてやりたい。それに……フィオナを一人前の女性に育ててやらないとな」

 自分の好奇心、仲間の成長、そしてなによりフィオナの成長のことを考えていた。

 保護したからには責任をもって彼女の面倒を見ようとクライブは心に決めていた。


「うん!」

 元気よく返事をするフィオナ。


 しかし、クライブはあることをずっと考えていた。


「……どうかしたの?」

 それが顔に出ていたため、フィオナは心配そうな表情でクライブの顔を覗き込む。


「うーん、いやどうしていこうかなあって思ってね。俺は冒険者だから色々と旅をして、色々な街を流れ歩いてこの街に来たんだ。ただ、仲間もできて家族もできた今となると、どこかの街を拠点に、例えばこの街に住んで活動をしていくか、別の拠点を探すか、それとも流れ歩くか」

 この三点のうち、どの選択肢を選ぶかクライブは悩んでいる。


 この街を拠点にした場合、すぐに生活していけるため、フィオナに基本的な生活について教えることができる。

 クライブ自身、慣れている街であるため、生活もしやすい。

 しかし、この街には以前のクライブのことを知って良く思っていない人間もいる。


 どこか別の街を拠点にする場合、クライブのことやフィオナのことを知らないため、すぐに受け入れられるかもしれない。

 しかし、どこを拠点にするか下調べが必要になる。すぐにいい街が見つかるとも限らない。


 街を流れ歩く。

 これに関しては、落ち着いた生活ができないため口にしては見たものの、選択肢としては弱かった。


「このまちは、ちょっといやかも……」

 宿にたどり着くまでの間、クライブのことを悪く言う声があったのを思い出しながらフィオナが表情を曇らせる。


「あー、まあ俺もあんまりいい思い出はないかもしれない。俺の回復魔術は魔物や魔族にしか効かないから、いくつものパーティを追い出されたし、罵倒されることもあったからなあ」

「ば、とう?」

 聞きなれない言葉だったため、フィオナがきょとんとした表情で聞き返す。


「うーん、あんまりよくない言葉だから教えるか悩むところだけど……まあ、怒鳴られたり、馬鹿にされたりってことかな。パーティメンバーが俺に期待していたのは怪我を治すこと。だけど、蓋をあけてみたら俺の魔術は怪我をろくに治すことができない。となったら、足手まといの役立たずってことになるんだ」

 これを聞いたフィオナ、ガルム、プルルの三人は憤りを感じ、立ち上がって険しい表情になっていた。


「いや、まあ仕方ない部分もあるんだよ。いつか治せるんじゃないかって意地をはって、色々なパーティに参加した上に、結果を出せなかったから……まあ、それもみんなと出会うためのものだと思えばいい経験だったよ」

 苦笑交じりのクライブは自分の浅はかさも理解しており、そのことは仕方ないと思っていた。


「うーん、でもどなるのはよくないとおもう」

 それでもフィオナは口を尖らせて不満を見せている。


「まあまあ、そのことはいいんだ。でもちょっとこの街には居づらさがあるから、どこかデカイ街を拠点にするのがいいかなあって思っているんだけど……どうかな?」

 ここまで話したなかで、自分がこの街に留まる理由がほとんどないことに気づいたための結論だった。


「うん!」

「ガウ!」

「きゅー!」

 クライブの提案に反対するものはおらず、三人ともが元気に返事をしたため、クライブは自然と笑顔になる。

 やはり、こいつらは家族だ――そう実感していた。


「定住する街を探すにあたって、誰か相談できる相手がいるといいんだけど……」

 クライブは腕を組んで考え込む。


 すると、ガルムがクライブの足をツンツンとつつく。


「ん? 誰かいい相談相手でも思いついたのか?」

「ガウ(うん)、ガウウガウ(マクスウェル)」

 それを聞いてクライブは納得する。


「確かにマクスウェルなら、色々な街を知っていそうだし色々聞けるかもしれないな」

 これで道が開けたとクライブは明るい顔になった。

 マクスウェルとは誰なのか? とフィオナが首を傾げていたが、クライブの説明に再び笑顔を見せた。

 

お読みいただきありがとうございます。



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