第十話
「きゅーきゅー(だいじょうぶだよー)!」
クライブが頭を悩ませていると、プルルが声をかけてくる。
顔をあげると、スライムたちがプルルを中心に集まってくる。
そして、ぴかっと光を放った。
「スライムたちが……合体した。いや、それはさっきの分裂をみているからわかっているよ」
そこにいたスライムたちが全員集合して大きなスライムに変化していた。
しかし、クライブは大量のスライムが合体して巨大プルルになるのはわかっていた。
しかし、プルルはそれだけでないと、プルプル震えだす。
次の瞬間、プルルの体積は徐々に小さくなって元のサイズに戻った。
「えっ? えぇえええぇえぇぇええ!?」
クライブは大きな声を出して驚いている。あれだけのサイズになったのは、多くのスライムたちと合体したのが理由である。
その身体を小さくしたということは、全てのスライムをプルルが消化して吸収してしまったということではないかと考える。
「あれ? でも、繋がりは消えてない……?」
獣魔契約を結んでいることで、クライブは魔物とのつながりを感じることができる。
そして、先ほど契約を結んだ大量のスライムがちゃんといるのを感じ取れている。
「きゅきゅーきゅきゅーきゅ(ぼくは、おおきさかえられる)」
そう言うと、プルルは大きくなったり小さくなったり身体の大きさを変化させる。
「それは、うん、すごく便利だ。これなら移動も悩む必要がないな……プルル、お手柄だ!」
クライブは悩んでいたことが解決したことで、喜びプルルの頭らしき場所を撫でる。
悩みが解決したところで、改めて自分の力を冷静に感じ取る。
弱いと言われているスライムといえども、百匹を超える数と契約したためクライブの力は底上げされている。
「なんか、強くなってる気がする。するけど、戦い方はまだまだだから油断しないでいかないと……」
筋力や体力や動きの速さなどは確かに向上している。しかし、戦闘になった時にこの間絡んできた男たちのように素直な動きであれば問題ないが、実力者ともなれば戦術や技術でそれを上回っていく。
「ガルガル、ガルガルガー(大丈夫、僕たちがいる)」
クライブに何かが降りかかってきても、ガルムやプルル、そしてスライムたちが必ず守り抜く。そんな思いをガルムが代弁した。
「ありがとう、一緒に頑張っていこう」
クライブは笑顔で返事をするが、自分が主なのだから強くなってみんなを守らないとと、気持ちを新たにしていた。
「で、とりあえず……帰ろうか」
契約に魔力を使ったクライブは少し休憩できたものの、やはり身体を疲労感が襲っているため、ベッドでゆっくりと休みたい気持ちが強かった。
「ガウ!(うん!)」
「ぷるー(はいー)」
元々目的があってこの森にやってきたわけではなかったが思わぬ大量契約ができたことで、満足して街に戻って行く。
街に戻ったクライブはまだ注目が集まるのを感じることがあったが、多くの魔物が自分と共にあることに満足しており、視線は気にならなくなっていた。
クライブは早く休みたいと、宿に真っすぐ向かって行く。
しかし、宿で休むという思いを叶えるのはまだ先になる。
「あぁ、クライブさん。よかった……テイマーギルドのギルドマスターから言伝を預かっています」
そう声をかけてきたのは、冒険者ギルドの職員だった。以前、魔物を連れて歩いているクライブのことを注意した職員である。
「えっ? エラリアさんから? あれ、確かもう旦那さんと一緒に引っ越ししたんじゃ……」
「はい、お友達の方がメモを届けてくれて、それをクライブさんに渡して欲しいと……今日休みだったんですけど、渡すようにって上から言われまして。確かに渡しましたからね!」
前回クライブに指摘した際も休日であったため、なんで俺がと職員はブツブツ文句をいいながら去って行った。
「なんだろ?」
封筒をあけると、手紙が入っていた。
『手紙で失礼します。引っ越し作業の最中に思い出したことがありました。この街には以前魔物使いを生業としていた方が住んでいらっしゃいます。クライブさんも魔物使いとしての道を歩まれるのでしたら一度会ってみるのはいかがでしょうか? ダンさんという方で、先輩としてアドバイスなどももらえるかもしれません。エラリアからの紹介だと言ってもらえれば、お話は聞いてもらえると思います。急いで書いたのでまとまらない文章かもしれませんが、参考になれば幸いです。エラリア』
彼女の人柄が現れているような優しい文字で書かれている。
「魔物使いの人か……回復方法がない場合って、どうやって魔物と一緒に戦っていたんだろ? そのへんを聞けるとありがたいな。あと、どんな魔物と契約していたとかかな」
クライブは手紙を受けて、その人物に会ってみたいと考えている。
「ガウガウ(行ってみよう)」
「きゅー(いこー)」
二人はクライブ以外の魔物使いに興味があるようだった。
「な、なんで二人がそんなに乗り気なんだ?」
そのことにクライブは首を傾げる。魔物であれば、他の人間にそれほど興味を示さないのではないかと考えていた。
「ガウガウ、ガウガウガー(主殿が、すごいってわかるので)」
「きゅーきゅうー(あるじーすごいー)」
二人の返事の意味を理解するため、クライブは頭を回らせる。
「……つまり、俺のほうがその魔物使いの人よりすごいって言いたいのか?」
その問いに、二人は大きく頷く。正確に言うとプルルは軽く跳ねているが二人とも肯定という意味では同じだった。
「わかったよ。家の地図まで入れてくれたから、行ってみるよ。意外とここから近いな……」
早く宿に戻って眠りにつきたい。そんな思いもあったが、地図に記載されている家が宿よりも近かったことと、二人が行きたい様子であるため
「ここからそんなに離れていないみたいだ……」
地図に従ってクライブは元魔物使いの家を目指していく。
街の中央から少し移動した場所にある住宅街にその家はあった。
「ここか……どうしよう」
勢いで来てしまったが、改めて冷静になって考えるといきなり知らない男が訪ねても大丈夫なのか? と尻込みしてしまう。
「ガウ!」
「きゅー!」
しかし、ガルムに足を軽く押され、プルルにも急かされたため意を決して扉の前に立つ。
「ま、まあ、とりあえず訪ねてみよう」
クライブが家の扉をノックすると、中から返事が聞こえ、足音が近づいてきて扉が開く。
「はーい、えっと……どちら様ですか?」
顔を見ても覚えがないため、住人は首を傾げる。
すぐに名乗ろうと思っていたクライブだったが、予想と異なる展開に言葉が出ずにいる。
家から出てきたのはクライブより年下の女性だった。
ダンという名前から男が出てくると予想していたため、クライブは動揺している。
その様子をみて、ガルムが足をつついたことで正気を取り戻す。
「あ、えっとすみません。俺の名前はクライブといいます。エラリアさんの紹介で来たんですが、ダンさんはいらっしゃいますか?」
クライブはなんとか用件を伝える。
「エラリアさんの紹介? あの、私がダンです。ダニアンというのが本名なのですが、みなさん頭とお尻を一文字ずつとってダンと呼ぶんです」
「あ、あなたがダンさんなんですか……。これは驚いたなあ、女性だとは思わなかった」
クライブは思ったことをそのまま口にだしている。
「でも、一体なんの御用でしょうか? 私はもう、魔物使いは引退したんですが……あっ! もしかしてクライブさんは魔物使いなんですか? ですよね? そうなんですよね! いいなあ、そっちの狼ちゃんにスライムちゃん、可愛いなあ……。あ、あの撫でてもいいですか?」
「え、えぇ、少しくらいなら」
ダニアンことダンは無類の魔物好きだったが、その魔物が傷つくのを見ていることができずに魔物使いを廃業していた。
そんな彼女は、許可を得たことで二人を撫でまわしている。その表情は恍惚としていた……。
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