第九十八話 眠り姫?を起こすのは目覚めのチーッス(ネットリ)
「すまんルピーさん、もう少し強く踏みつけてくれへん?」
〖えと、こうですか?〗
「そうそう良い感じや」
床に寝そべるわいの腹にルピーの踏みつけアーツが発動、HPが回復していく。
「ふぅ、少しスッキリし・・・って、ん?何で皆そんなに距離を・・・」
わいはそこでPTメンバーから冷たい視線を向けれられている事に気が付く。
「「「この変態!!」」」
◇
「さて、無事アズを捕獲するのは成功したんやけど・・・」
「まいりましたね、この状態で他のプレイヤーに見られては困った事になりますよ」
わいらは木陰に寝そべらせている、緑髪の少女、アズに視線を向ける。
空中でスタン攻撃を受け、わい+1名と共に空から落下したアズは元の姿に戻らず、一向に目を覚ます様子が無い。
強く殴り過ぎたんやろか?けどステータスを考えるに蚊ほどのダメージもなかったと思うんやけど・・・。
スースー眠るアズを見ながら頭を悩ましていると、どこか鼻息が荒いメアリーさんが手を挙げて一歩前に・・・ダッシュする。
「あら、眠り姫を目覚めさせる方法なんて古今東西一つしかありませんわよ?」
「「させるかぁぁぁぁぁ!?」」
「っく!話なさい下賤な男共!わたくしはこの為にこの作戦に参加したのですわよ!?」
「め、メアリーさん・・・あんた最初からそのつもりで・・・!?」
わいとグレイさんで両脇を固めるが、火事場の馬鹿力とでも言うのか、ずるずると前に進めてしまう。
「っく!なんなんやこのゲームシステム度外視の馬鹿力!?」
「おいランズロット!お前も少し手伝え!」
暴走するメアリーを抑える為にグレイが救援要請を出すが・・・。
「・・・我が生涯に一遍の悔い無し、アーサーの尻を穿ったこの感覚、私は決して忘れないでしょう」
どこか感無量のランズロットがうれし泣きに喘ぎ、グレイさんが心底嫌そうな顔をしている。
だめやあれは、完全に賢者モードになってるんよ。
仕方なくグレイと二人でメアリーさんに引きづられていると、メアリーさんは少し溜息を吐く。
「でしたらお二人のどちらかがアズちゃんに目覚めのキスをするとでも?」
「「え、いや・・・それはちょっと」」
メアリーさんの思わぬ口撃に、二人でしどろもどろ。
流石にこんな小さい子の寝込みを襲うのは・・・周りから見たら犯罪そのものや、下手したらロリコン番長からペド番長にランクアップしてまう。
二人で木陰に横たわるアズに視線を向け、ヤバイ年齢の少女を見て顔を引き攣らせる。
「というか、キスをしたら目覚める訳でもないやろ!?」
「何をおっしゃいますか、わたくしの学術的経験論からしても目覚めのキス・・・が・・・」
勝ち誇ったようにわいらに極悪な笑みを浮かべていたメアリーさんは、視線をアズに戻し石化。
続いて何が起きたのかと、わいとグレイさんも視線をアズに向けて石化。
そこには、ズキュウウウウウン!という音と共に、寝ているアズにキッスをするルピーの姿。
そのチッスは所々甘い声が聞こえてくるようなそれはそれはアレな・・・。
「グレイさんグレイさん、あれ入ってるんよね?」
「入ってるな、頑張れ思春期」
若干前のめりなわいの背中をバシンとグレイさんが叩く。
この人は仲間やと思っとったのに・・・!
そんな中でも、それはそれは深いチーッスをルピーが交わしていると、アズの目が薄っすら開く。
目が開いていくと同時に色が緑から青に戻っていき、まんまるに見開かれる頃には完全にいつも通りの姿に戻っており・・・。
〖あっ、目が覚めたみたいですよ?〗
ルピーさんの笑みを受け、アズが地面を転がり回る。
◇
皆さんお久しぶりです、アズです!
現在俺はネクロニアにいたつもりが、いつの間にかグラフに戻っており、何故かJCにディープなチッスを受けていました。
何を言ってるかわからないと思うが、俺も何を言ってるかわからねぇ。
しかも何故か皆の顔が怖かったり、真っ赤だったり、鼻血を出してたり、無だったり、状況が何もわからない。
とりあえずコホンと咳払いを一つ。
「これは一体どういう事なのでしょうか?」
俺の一声に各々が我に返り、説明をいれてくれる。
なんでも俺はネクロニアで何か起きて、グラフで大暴れ、目を覚まさせる為にルピーがその・・・あれをしたらしい。
うん、聞いても正直意味がわからん、いや、わかるんだがわかりたくない。
多分フーキのたまたまで精霊化した俺が大暴れしたのだろう、クールタイムを見ると、増えた緑色の精霊化アーツが一日のクールタイムに入っている、今までは多少自我を保っていたが今回は完全に記憶が飛んでいる。
「んで?ルピーさんはその・・・なんであんな情熱的な・・・?」
〖?おとうさんがいつも見てる洋画を参考にしました〗
この子には今度正しい情操教育を学ばせる必要があるかもしれない。
顔を真っ赤にしてルピーから視線を逸らすと、お次は怖い顔をしたフーキ、若干顔が赤いのと前のめりなのは・・・まぁ許してやろう。
フーキの顔が怖いので、少し姿勢を正す。
「そんで?あれはどういう事なんアズ?」
「・・・あれ、とは?」
「緑の少女に変身しとったやろ?あんなアーツ聞いた事も無いで?」
「あー・・・」
そういえば精霊化について知ってるのはルピーだけだったか。
隠していた訳ではないが説明も面倒だったし、下手したらアズリエルが俺ってバレると思い無意識に避けていたのかもしれない。
しかしどうやって説明しよう、フーキにならアズリエルの事は言っても良いが、狂信者レベルのグレイがいるからなぁ・・・あ、そうだ!もう一個あったな!
「精霊化っていうアーツです、この指輪の中に入ってる精霊と融合する事で一時的に変身する事が出来るんです」
「・・・ほんまに聞いた事も無いアーツやね、どこでそれを?」
「学園で土の精霊ゴリラと契約した時ですかね」
「ゴリラと・・・契約・・・?」
周りの俺を見る目が慈愛に溢れていく、俺も同じ立場だったらそうするから文句は言えない。
けどふくれっ面になるのは許して欲しい。
「それで?今回は風の精霊と契約したって事なん?ネクロニアで出会ったんかな?」
「いや、風の精霊は違います、俺が毎日フーキの棒をこすっていたのは知ってますよね?」
「え!?」
今度は何故かフーキが冷たい目を向けられている。
「そんで、いつものようにフーキの棒をこすってたら、限界まで来たのかフーキのたまたまが大変な事になって」
「ちょちょちょ待ちアズ!言い方!多分言い方が!?」
慌て出すフーキに、メアリーさんがニコニコとアイアンクローをかましている。
その目には鬼神が宿って見えるのは気のせいだろうか?
「それでピンチになった時にフーキのたまたまを鷲掴みにして精霊化したら・・・後は多分皆の方が詳しいんじゃないですかね」
「にわかには信じられませんが、そのような事が」
「なんだろうな、フーキの玉には風の力でも宿ってんのか?」
「あら?それでは二度と同じことが起きないようにわたくしが握りつぶしておきましょうか?」
〖メアリーさん、折角なのでお手伝いします、他の人に取られるくらいならこの小太刀で・・・〗
「ちょちょちょ皆さん!?違うと思うんよ!?多分、いや、絶対誤解があると思うんよ!?そ、そうやアズ!中央広場の竜巻!あれは何なんかわかる?」
皆の視線を股間に受けながら、フーキが慌てて話題を逸らす。
恐らくこれ以上この話題を続けたら、フーキの息子がもぎとられかねないからだろう。
俺は中央広場のどでかい竜巻を見上げる。
「竜巻・・・っていっても記憶が無いんだが・・・そういえば、なんかあれで高い所に行きたがってたような」
アズールの時の意識を思い出そうとしようとするが、そのくらいしか思い出せない。
誰かと会話してた気もするが、他の事を思い出そうとするとどうしても脳が思い出したくないと拒否反応を起こすのだ。
「竜巻で・・・高い所・・・?」
皆の視線が竜巻から、そしてその更に上空にそびえ立つ天空城に向けられる。
「まさかとは思うけど・・・あれ使ったらあそこまで吹き飛ばされる事が出来るんちゃうん?」
「・・・試してみる価値はあるな」